終章
翌日、どこかの雑誌で、こんな記事が載っていました。
一ヶ月に渡る一連の奇怪な死亡事故、及び死亡事件はここへ来て、とうとうかつてないほど悲惨な一ページを歴史に刻むこととなってしまいました。
これまで亡くなった方を総じて見送る告別式に集まっていたほぼ全員が焼死。奇跡的に生き残ったのは、高瀬留佳さん(13)、高瀬有紀くん(10)、高梨都子さん(8)、川上芳樹くん(6)、沢辺遙香さん(0)の五名で、証言によりますと、焼死した全員は、どこからともなく火に包みこまれたということです。謎が深まるばかりのこの一連の事件、早急な解明が望まれます。
なお、行方不明になっていた宮川沙比さん(17)は依然として行方がわからず、何らかの事件に巻き込まれたとして……。
この島国にはかつてたくさんの狼たちがいた。彼らは一匹残らず、心ない大人どもに絶滅させられてしまった。
けれども、狼たちの澄んだ瞳を持った者は現代にも生きている。
宮川沙比もその一人だった。彼女は、どの道長くはなかった。だからその前に、私が心の奥底で燻る火に薪をくべてやった。最期くらい、押し込めていたすべてをはき出してもいいんじゃない?
人殺しだって? いや、宮川沙比は、可能性を絞る戦いに明け暮れている盤上の戦士たちを、ただ壊し、燃やしただけだよ。まあ、燃やす必要はなかったんだけど。
チーターがどうなったのか、それは言うまでもないでしょう? まあ、私がチーターから逃げているっていうのは、あながち嘘じゃない。
狼が豚たちに食われてる。それが現状。そんなのはおかしいでしょう? 三匹の子豚の物語みたい。
だから私は、狼たちの背中を少しだけ押してやるんだ。狼たちはもともとその力を持っている。ただ、人間に飼い慣らされるうちに疲弊してしまう。それは仕方のないこと。だからほんの少しでいい、ハムスターの前歯を貸してやるんだ。
宮川沙比はもうああするしかなかった。だけど、他の狼たちは違う。いろんな可能性があるだろう。私はその狼たちのために、今日も回し車を駆けている。
何故、私がそんなことをするかだって? もちろん、あの一枚の砂に埋もれた光景のせいだ。あの楽しく、そして悲しかった、唯一の幸せな記憶の断片が、私にそうさせるんだ。あの狼たちとの、海に沈んだビンの欠片が。
まあ、もう決して戻りはしないものだけど。
最後に一つ大切なことを言い忘れていた。
宮川沙比は、決して誰かひとりを嫌ったり、恨んだりしなかった。いや、できなかった。だからこそ、彼女は狼だった。
そして、だからこそ、彼女はすべてを燃やしたかったんだろう。嫌うこともできず、恨むこともできず、ただ己が苦しいだけ。すべてを灰に帰して、どこかへ消えてしまいたかったんだろう。
その苦しみを共有できるひとは、きっと狼だ。
狼たちよ。満足な豚になるな。人間に屈するな。狼王のように、誇り高くあれ。
全章、無断転載は禁止。




