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第七話「後悔」

「聞いたか?滅茶苦茶美人を仕入れたって話」

「へえーどんな奴なんだ?」

「スタイル良くて、巨乳で、釣り目の気が強そうな女。しかもあのザドの娘だってよ」

「超お嬢様じゃん」


背の高い木が沢山生えており、日光を防いでいるのかまるで吸い込まれそうな暗い印象を受ける。

湿度が高くジメジメとした空気に加え、身を隠せそうな位の雑草が沢山生えている。

そんな森の中で手にナイフを持っている男達は座りながら駄弁っていた。


「ま、どうせリーダー独りで楽しむんだろうけどな。ちょっとくらい貸してくれてもいいのによ」

「俺達だってちゃんと働いてんのになあ。まあ、こっちに来てからは暇だけどな!」

「ははは、それな。この辺の傭兵ギルドは弱え奴しか居ねえからな」

「だな!いやあこの辺は攫いたい放題で仕入れがしやすくていい。しかも気に入った女が居れば玩具に出来る、最高の環境だぜ。王都の騎士の奴等もこんな辺境までは来ねえし、来るのは雑魚い素人傭兵だけ。パラダイスだな!」

「へー、じゃあ俺にも勝てる?」

「おいおい、これでも俺は部下の中で一番強いんだぜ?知ってんだろ、何を言って……!?」


二人の会話の中に聞き覚えの無い声が混じったと思い、男達は聴こえて来た方向の上を見る。

すると木の上に見覚えの無い紅髪の少年が立っていた。


「な、なんだお前!?仕掛けてた罠は!?」

「ハッ、あんなモン引っ掛かるかよ。子供だって避けれるぜ」


ルーベルは後ろに溜まっているゴミの様な物に親指で指した。

突然の敵襲に驚きを隠せない二人だったがしかし、彼の姿を見て二人はプッっと吹き出してしまう。


「ハッ、なんだ?この辺りのギルドはガキを独りで寄越すようなレベルに酷えのか!?はっはっは、面白え!」

「それに関しては俺もそう思うよ」

「で、どうすんだ?お前はその腰に差してる一丁前な刀で何をするんだ?悪いが俺は子供相手にも優しく出来ねえぜ?」

「はいはい、分かったよ。今降伏したら命は助けてやってもいいぜー」

「……ガキが。粋がる場所を間違えたなッ――!」


独りの男が突然彼に向かって持っていたナイフを投げた。

その速度と正確さは玄人の物であり、一般人では到底反応出来る練度では無い。

だがしかし、ルーベルは飛んできたナイフの柄を一瞬で掴み、すぐに投げ返してみせる。


「っ……いってえええ!」

「腕か。心臓を狙ったつもりだったんだけど、まだまだ未熟だな」

「こ、このクソガキ!――あ」


次の瞬間、息を付かせる暇もなくルーベルは降下しながら刀を振り、彼の首を飛ばした。

当然ながら悲鳴も上げる事が出来ずにその場に倒れこむ。


「ひっ、わ、悪かっ――」

「――ゴメンな」


ルーベルは逃げようとしているもう一人の相手の胴を後ろから刀で真っ二つに斬り伏せる。

彼は刀を振って血を振り払う。


「……で、なんでアンタが付いてきてんの?」

「っ――」


ルーベルは後ろの茂みに隠れていた人間に声を掛ける。

すると出てきたのは、先ほどギルドに居た眼鏡の女性だった。


「そ、それは違反行為になってしまうからです。だから、私が付いていけば名目上は大丈夫なので」

「……あっそ。なら死なない程度に頑張ってね」


ルーベルは彼女の方を興味無いと言った様に全く見ず、巾着袋から取り出した粉の様な物を刀に振りかけ、血を落としていた。


「ず、随分手慣れているのですね……」

「まあな。殺しは二年前から経験してる」

「……――っ」


自分よりも年下の少年があんなに冷徹な目で人を斬れるのだろうか。

彼女は目の前の惨状を見てルーベルに少しの畏怖を抱いてしまっていた。


「……怖くは、無いのですか?」

「そりゃ怖いし、出来ればしたくない。相手がとんでもなく悪い奴だとしても、ずっーと嫌なのが残るからな。だけど、一度武器を持って相手と対峙したら手心は絶対加えちゃいけないのは傭兵の基本中の基本だ」


紅髪の少年の目は何かを悟っている様な目で刀を腰に戻した。


「そ、それはそうですが……相手は降参しようとしていたのでは」

「……はぁ。じゃあもしアイツを生き残らせたとして、不意に仲間を呼ばれたらどうする?包囲されて弓か魔法を撃たれたら終わりだろ」

「……!」

「アンタ、実戦をした事も見た事も無かったんだろ?だから、考え方がそういう風に生温いんだ。俺がもしアイツ等を殺してなかったら、今頃アンタが死んでた可能性があるんだぜ。はっきり言おうか、覚悟をしていない人間が踏み入っていい領域じゃねえよ、帰れ」

「っ――」


甘く見ていた、彼女はそう強く感じていた。

彼女は傭兵ギルド『ザーグ』所属の傭兵ではあるが、実際の戦闘任務を受けた事は無かった。

そもそもこの辺では命の危険がある様な戦闘任務なんて物は来ないし、傭兵ギルドとは名ばかりで実際に行っている業務は商人との情報交換や地元のボランティア活動。

ルーベルからすればぬるま湯にすら浸かっていないレベルの彼女にとって、人が死ぬことを直に経験した事はとてつもない衝撃であった。


「……そう、ですね――」


ここで彼の迷惑になる位なら帰った方がマシ、目の前にある死体を見てナーバスになりながらそう思った瞬間。

突然背後からガサっと音がした。


「よくも仲間をやりやがったな!」

「えっ――」


彼女が振り向くと、そこには自身をナイフで刺そうとしている男が視界に入る。


「ッ――!」


ルーベルが咄嗟に反応し助けようとするが、もう一秒後にはナイフが彼女の腹を切り開けている事だろう。

いくら俊敏な彼だとしてもとても間に合う距離では無かった。


(あ、死ぬ……)


20年間の思い出が走馬灯の様に過ぎていく。

彼女は自身の腹から血を吹き出し、その場で倒れこんでしまうビジョンが見えていた。


「……」


だが、そのコンマ一秒後、彼女はルーベルの言葉が頭を過っていた。


(覚悟をしていない人間が踏み入っていい場所じゃねえよ)


「っ――!」


彼女は超人的な反応で横にステップをし、相手の不意打ちを避けてみせた。

そして近距離でワンドから水の魔法を放ち、相手を吹き飛ばした。


「ってえ――」


男が怯んだ隙に、ルーベルは駿馬の如く相手の首を目掛けて刀を振りかぶった。


「はぁ、はぁ……」

「――強いじゃん」

「お、王都の学校で訓練は積んでましたから。で、ですが……私はひ、人に撃ったのですね、魔法を」


彼女は興奮が収まりきらないのか、その場で足が崩れる様に座りこんでしまう。

自信の目の前にある死体を視界に、顔を青くさせ全身を震わせていた。


「……そうだ、アンタは今、人に向けて撃った。そして結果的にアイツを殺したんだ。これで立派な人殺しさ」

「っ――」

「でもな」


ルーベルは彼女の方の目を真っすぐ見て、肩をポンと叩いた。


「それで命を守れたんだぜ。自分の命をな。これをどう取るかはアンタの自由だ」

「……」


彼女は何か色んな事を考えているのだろう、青白い顔を下に向けていた。


「ま、深く考えるのは全てが終わってからでいい。で、どうすんの?」

「……え?」

「アンタ、名前は?」

「り、リーラ・アデラです」

「じゃあ、リーラ。俺はアンタに付いてくるかって言ってんだ、早くしてくれ。戦闘は俺だけでも大丈夫だけど、皆を村まで送り届けるのが傭兵としての仕事だろ?」

「……!」


自分が傭兵を目指した理由は、単に安全そうだから。

田舎の方だと命を張る様な危険な任務が来ない事は知っていたし、自然に癒されながら暮らす事が出来る。

そう思い働き始めて五年、実際に今迄危険な任務が来る事は無く、デスクワークだけで事足りていた。

だが、それはただの幸運が続いただけ。

悪と言う物はこちらの意志に関係なく、突然襲ってくる物なのだ。

そして、それに対抗するには強さが要る。

人間的な強さが。


「……つ、付いていかせてください」


リーラは強い後悔の気持ちを抱いていた。

それは傭兵と言う職業を選んだ事から来るものなのかは今の彼女はまだ分かっていなかった。

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