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第六話「責任」

「にしても……」


ルーベルの視界には木で作られたバルコニー付きの二階建ての建物が映っていた。

柵で囲まれた中には果物が生えている木が沢山あり、近くにはのどかさを演出するなだらかな川が流れている。

誰がどう見ても民家だと思うだろう。


「相変わらず、辺境のギルドってのは言われなきゃ分かんねえ見た目してるよな」


だがしかし、ここはれっきとした傭兵ギルドだった。

その証拠に、外に立ってある小さな看板には『傭兵ギルド、ザーグ』と書かれてあり、王都から正式ギルドとして認可された証拠である剣が交差しているエムブレムが入口にしっかりと付けられている。


「うわ、ぼっろ……まあでもヒーローよりマシか」


ルーベルは自身の所属している酒場ギルドと比べられる程にボロイ木の扉を雑に開けた。


「こん――」

「だからいつ助けに行くのだと言っているのだ!」

「うおっ!?」


入る前から挨拶の用意をしていた彼だったが、突然の怒声が聞こえ途中で口を止める。


「いえ、ですから……先程も言った通り、各ギルドから戦力を集めている所でして」

「そんな事はどうでもいい!何故ギルドにまともに戦える奴がおらんのだ!?この間に娘が死んでるかもしれんのだぞ!?金は幾らでも出すって言っているだろう!」

「だから金銭の問題では無くて……」

「おーい、待て待て」


ルーベルはそんな二人に割って入る様に声を掛ける。


「な、何だね君は。今はそれどころでは無いのだ!」


先程から怒声を上げていた口周りに髭を生やしている中年の男性。

首には宝石の付いた首飾りを付けており、手には金ぴかの指輪を沢山付けている事から金持ちであると予測出来るだろう。


「子供……?避難は終わっているはず」


中年男性と言い争っていたもう一人は眼鏡を掛けた背の高い女性。

黒い服を着ており、如何にもデスクワークが得意そうな雰囲気の人である。


「貴方……親御さんは?」

「いや俺はここの村の子供じゃねえよ。旅人兼傭兵だ」

「……?」

「ま、説明すんのは後で。それより――」


ルーベルは瞬時に中年男性の方へと向き、真剣な表情で彼に語り掛けた。


「オッサン。アンタ、娘さんが攫われたんだろ?」

「あ、ああ。そうだが」

「傭兵を雇ってなかったのか?」

「当然雇っていたさ……だが盗賊の卑怯なやり方で全滅してしまってな。俺だけ命辛々逃げてきたんだ。それで近くにあったここに来たのだが……」

「成程な。来たのはいいものの、体よく断られちまったって事か。――アンタ、超ラッキーだぜ」

「……?な、何が言いたいのだね?」

「俺がここに来た事がラッキーって事だよ。今すぐ俺が娘さんを助けに行ってやる」


ルーベルは口角を上げ、中年男性の顔をじーっと見た。


「!?ちょ、何を勝手な事を――」

「ほ、本当か!?……いや待て。そもそも君は戦えるのか?」

「B級をソロで狩れる程度だ。弱くは無いだろ?」

「……そ、それは本当か?」

「ああ」

「な、なら……。もう、君を信じるしか道はあるまい」


中年男性はルーベルの小さな手を強く掴んだ。

それを見た女性は驚き、正気ですか、と彼の前に立ちふさがる。


「あ、相手はこんな子供ですよ!?考え直した方が……」

「ふ、ふざけるな!君たちのギルドが助けてくれないと言うから、こんな子にでも頼るしか無いんじゃないか!」

「そ、それは……」

「こうしている間にも娘は酷い事をされてるかもしれないんだぞ!?もし何かあったらどうするつもりなんだ!ええ!?」

「……っ」


中年男性に怒鳴られ、彼女は何も喋る事が出来なくなり終いには俯いてしまっていた。


「娘さんが連れて行かれた場所は分かってるのか?」

「ここから南に進んだ所にあるルット峡谷があるだろう。そこの近くにアジトを置いている!」

「ルット峡谷か……あそこの大橋を通る商人や子供を襲って誘拐してるんだな。よし、俺はルーベル、アンタの名前は?」

「ザド・ラーベラだ。ルーベル君、報酬は幾らでも出そう……!だからお願いだ!娘を助けてくれっっ……」


中年男性は紅髪の少年相手に深く頭を下げ、涙を流していた。

そんな彼を安心させるようにルーベルは肩をポンと叩き、自信満々な口調で答える。


「任せろ、アンタの娘さんは今日の晩までにここに連れてくるよ。お茶でも飲みながらゆっくり待っててくれ」

「た、頼んだからな!」


中年男性は少し足を引きずる様にしながらも、興奮しながらギルドの外へと出ていった。


「な、なんて……勝手な事を……!」


二人の会話を聞きながらわなわなと身を震わせていた眼鏡の女性。

中年男性が居なくなったと同時にルーベルに詰め寄った。


「どこの子供かは知りませんが、これは大問題ですよ……!?」

「……何が?だってアンタ等じゃ戦力が足りないんだろ?だから、強い俺が助けに行くってだけの話なんだけど。それに何の問題があるっていうんだ?」


だが、ルーベルは頭の上に疑問符を浮かべる様に眉間に皺を寄せながら首を傾けていた。

当然ながら彼女の怒りは増していく。


「貴方、もしかしてさっきの人を知らないのですか……?」

「まあ商人だって事は知ってるけど。何者かは知らん」

「なっ――彼は王都で最も有名な道具屋を経営している大商人ザド様ですよ!?やはり知らなかったのですね……!これでもし娘さんを助けられなかったとしたら、ギルド『ザーグ』が全ッ責任を負う事になるんですよ!?事の重大さが分かっているんですか!?」


彼女の言葉を聞き、ルーベルは大きく溜息を付いた。


「……責任、ね」


そして失望したと言う様な目で怒鳴っている彼女を見つめる。


「……アンタみたいなのでもギルドに所属している傭兵だって思うと、本ッ当に嫌になるな。反吐が出るぜ」

「あ、当たり前でしょう!最悪、ウチのギルドが潰れる可能性があるんですよ!?……貴方の親御さんに連絡させてください、この責任をどう取ってくれるのかきっちり話しますから!」

「……あんまり親の名前は出したくないんだけどなあ」

「いいから教えてください!これは重大な問題です!」

「ダーゼット・レルバリア。カーナ村の傭兵ギルド『ヒーロー』のマスターだよ」

「ダーゼット……れ、レルバリア!?う、嘘ですよね?まさかそんな訳が……」

「……はぁ、面倒臭え。嘘でいいよもう。俺は行くから」


ルーベルはギルドから出ようとする。

しかし、彼女は彼の肩を掴んで止めようとする。


「……何?早く行きたいんだけど」

「知らないんですか?別ギルドの人間が勝手にクエストを受注するのは違反行為なんです。最悪、貴方が捕まってしまう可能性もあるんですよ?」


彼女はこれを言えばルーベルが止まると思ったのか、少し勝ち誇った様な顔で彼の肩を掴んでいた。

しかし、ルーベルは明らかにイライラとした様子で彼女の手を振り払う。


「じゃあもういいよそれで。はい、ばいばい」


ルーベルは彼女から逃げる様にとんでもない速度で走っていった。


「ちょ、もう――!」

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