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第三話「最強の父親」

カーナ道場。

村の中心部に建てられているここは普段学校の体育館として使われており、ルーベルが六歳の時から毎日汗を流してきた場所でもある。


「……」


その中心に目を瞑りながらただ座る男在り。

黒の着物を着ており、口周りに黒髭を生やしている中年男性。

環境音に身を任せながら座禅をしていた。


「……来たな」


だが、何かを察したのか、彼は目を開ける。

すると視界に紅髪の少年が入っていた。


「げっ、気付いたのか。そのまま襲ってやろうと思ったのに」

「はっ、気配の消し方が甘いんだよ。バカ息子」


彼の名はダーゼット・レルバリア。

カーナ村の村長であり、ルーベルの父親である。


「ったく、一か月も帰ってこないもんだから死んだんじゃないかと勝手に思っていたぞ。で、勝ってきたのか?」

「当たり前だろ、もう報告もしてきた」

「やるな、流石は俺の可愛い息子だ」

「ハッ、その可愛い息子とやらにあんな危険な任務をしかも単独で受けさせるヤツが居るか?周りも若干引いてたじゃねえか」


ルーベルはダーゼットを見ながら、その毅然とした態度に溜息を付いてしまう。


「ハッハッハ!だが、お前はそれを望んでいたんだろ。俺は手伝ってやったまでだ」

「まあな。お陰で窮地には陥ったけど、アンタの言ってた覚悟の意味をちょっとだけ理解出来た」

「へえ、そりゃ楽しみだ。で、だ」


彼は横に置いてあった竹刀を持ち、突然立ち上がった。

そして先程とは違い、緊迫した表情でルーベルを睨み付ける。


「――お前がここに来たのはそんなしょうもねえ事を報告する為なのか?」


だが、最早殺気の様なレベルの視線に当てられながらもルーベルは堂々とした態度で腰の紅焔こうえんに右手を添えていた。


「……へえ!びびらねえのか。こりゃホントに学んできたみてえだな」

「――当たり前だろ、俺は目的の為に努力してきたんだ。……条件その一、B級クラスの魔物を単独で狩る事。そしてその二、右手のみのハンデを付けたアンタに一撃を与える。この二つをクリア出来れば、俺は旅に出る。二年前、アンタと約束した内容だ」

「おーおー、なんて難しいんだ。これは後数十年はかかるか?」

「うぜえな。よく聞け、ダーゼット・レルバリア。アンタの無敗街道もなあ……今日で終わりだ!」


ルーベルは会話を突然切るように、右手に隠し持っていたクナイをダーゼットの顔に目掛けて投げつけた(因みに数日前、行商から千円で購入した鉄製の本物)。

だが、ダーゼットは首を少し傾けるだけでそれを避けてみせる。


「ちっ」

「会話をわざと長引かせてた事がバレバレだ。流石は童貞坊やだな」

「おいちょっと待て、何処で聞いたんだそれ」

「さあ、村中によく流れてる話だが?」

「よーし……クソ親父を殺してから、流したヤツを捜して殺すッ!」

「ガッハッハ!じゃあ、こっちから行くか。こちとら退屈凌ぎみてえなモンなんだ、前みてえに一発で終わんなよ――」

「っ――!?」


ルーベルが気付いた時にはダーゼットは自身の前に居た。

咄嗟に抜いた紅焔で防ぎはするが、ダーゼットが竹刀を軽く振っただけで体幹を崩されてしまう。


「っ……!」

「おいおい、どうした?強くなったんじゃねえのか?これじゃあ前と同じじゃねえか」


ダーゼット・レルバリアは過去、王都の騎士団に所属していた事があり、階級は最上級の名誉『聖騎士』だった。

剣の腕では大陸中何処を捜しても彼と張り合える者は居ないとまで言われており、それに加えて天才的な閃きを持つ彼はこれまで幾度と無く国の窮地を救ってきたらしい。

そんな相手に幾ら縛りルールを付けているとは言え、まともな斬り合いになれば間違いなく勝ち目は無い、とこれまでの千二十四戦、千二十四敗の経験からルーベルはよく分かっていた。


「っ、おらよ!」


ルーベルは押されながらも相手の攻撃を引くように受け流し、刀を右手から離し、一旦浮かせる。

そして体勢を低くして相手の裏へと瞬時に回り、浮いた刀を逆側から引くように攻撃を加えた。

通常の人間なら間違いなく真っ二つになっている容赦の無いトリッキーな斬撃だろう。


「変わってはいるが、いい動きだ。相手が俺である事を除けばな」

「ッ――!?」


だがその攻撃は見事に防がれており、ルーベルは逆に吹き飛ばされてしまう。


「ぐえっ」


彼は対面の壁まで直線に飛ばされ、めり込んでしまっていた。


「ってえ……」

「――降参か?」


そんな彼の近くに寄り、手を差し伸べる処か上から見下ろすダーゼット。

当然悔しがるルーベルだが脚を負傷したのか、よろけながらも立ち上がるが、明らかにダメージが残っている様子だった。


「んな訳、ねえだろ……」


彼のそんな姿を見て、ダーゼットは当然構えを解いた。


「やれやれ。そのケーキみてえに甘ったるい刀じゃあ、オレを斬る事なんて一生無理だな。さあ観念したなら、また修行をしてこい」


ダーゼットは後ろを向き、背中を見せた。

それは事実上の敗北だろう――今迄修行してきたが手も足も出ない、そんな現状を見て嫌気がさしてきたのか、ルーベルは溜息を付いてしまう。


「はぁ……こっちは紅焔こうえんなのに何で何の変哲もない竹刀に負けてんだよ!竹だぞ竹!」

「あん?んなモン、お前の魔力の扱い方が下手なんだよ。紅焔は世界に一つしか無い最高峰の刀だ、なのに竹刀すら斬れねえって事はお前が俺より超未熟ってこった」

「そりゃ知ってるけどよ……ここまで差があんのかよ。……いってて」

「お前、帰って来てから会話が長くなったな。なんだ、漸く反抗期の終わりか?」


ルーベルの脚はまだ治らないのか、座りながらストレッチを続けている。

それを見てもう戦う気が無いのだろう、とダーゼットは道場から退場しようとしていた。

だがしかし、後ろを向いたダーゼットを見てルーベルの目に光が宿る。


「――反抗期じゃねえよ、アンタに勝ちたいからこうしてるんだ。で、今回はオレの勝ち」

「……は?」


ルーベルがニヤリと笑ったその時だった。

突然、道場全体に地響きが鳴り始める。


「な、何!?地震か!?」

「――っと!」


怪我をしていた様子が嘘だったかの様にすっと立ち上がり、ルーベルは悪い笑みを浮かべながら即座に出口へと逃げる。

そして服に隠し持っていたスイッチを取り出し、ボタンをピッと押した。


「へっ」


何が起きたのかよく分からないが、ダーゼットは取り敢えず扉を開けようとする。

だが、何かの力が働いてるみたいに固く閉ざされてしまっていた。


「なっ、クソガキッ!閉じ込めやがったな!」

「なあ、クソ親父。俺は負けを認めたなんて一言も言ってねえよ。そしてアイテムを使っちゃいけないとも言われてないんで」

「ちっ、こんなもんドアごと壊せば……」

「いいのか!?副村長にまた怒られるぞ!またアンタの大事な酒を棄てられるぞ!」

「……それはまずいな。ん、な、なんだこの音!」


焦っているダーゼットに追い打ちをかける様に、何か機械音が彼の耳に入ってくる。


「なっ、お前まさか――爆弾を仕掛けたのか!?」

「ご名答、予め仕掛けといたのさ!これぞ秘策、名付けて『クソ親父大爆破』作戦だ!ボロイ道場ごと滅べクソ親父!!!」


そして次の瞬間――道場が爆発した。

築五十年、カーナ村の伝統競技と言われる剣道を永らく教えてきた場所が、たった数秒で破壊され尽くした。

後で聞いた話ではあるが、近くで見ていた村人はまるで花火の様だったとある意味で感激していたらしい。


「……」


爆発から逃げ出していたルーベルは外から道場だった物を見ながら、何か感傷にふけっている様子であった。

当然だろう、通常の人間ならば確実に死んでいるであろうレベル。

父親相手にやりすぎたかなと心配していた――と言う訳では勿論無かった。


「――ガッハッハ!」


ルーベルの予想通り、中からオッサンの大きな笑い声が聴こえてくる。


「流石に予想外だった!面白れぇな!」


煙の中を当然の様に無傷で尚且つ上半身裸で現れたダーゼットを見て、ルーベルは思わず倒れこんでしまっていた。


「これで無傷かよ。……こりゃどうやっても勝つのは無理だな」

「ガッハッハ、当然だろ。この程度の爆発じゃあオレに傷一つさえ与えられねえよ」

「……逆に聞くが、アンタってどうすりゃ負けるんだ?」

「ん?そりゃあ、世界を一度壊したっつー伝説の魔物『リーゴ』くらい呼んでくりゃあ俺もヤバイだろうな。昔伝記を読んだときにはどうやって倒そうか考えたモンだ」

「つまりはもう完璧に不可能って事だな……」

「なんだ、やる前から勝負を諦めてたのか?」

「諦めてた訳じゃねえけど、そもそもの話……俺はハナっからこれを勝負なんて思ってなかった。説得の場さ。シンプルな斬り合いじゃあ、王都最強である『聖騎士』の称号を持つアンタに勝ち目なんてある訳が無い。俺はそこまで慢心家じゃねえ」


寝転びながらもルーベルは首を横に振る。


「ほう、意外だな。もっと突っかかってくるもんだと思っていたが、実はオレの事を認めていたのか?」

「当然だろ、こんだけ負けてりゃアホの俺でも分かる。千二十四敗だぞ、しかも惜しかった試合なんて一つも無かった、大体が一撃だ」

「ん、そうだったか?一、二回前位の事は覚えているんだがな」

「やられる方は全部鮮明に覚えてんだよ!」

「ガッハッハ、そりゃそうか!」

「はぁ……」


そうやって無邪気に笑う父親を見ながら、ルーベルは大きく溜息を付く。


「……ったく、アンタとこうやってまともに会話したのも二年ぶりだな」

「そうか、あの時からお前は急に反抗期になったからなあ。折角俺が修行を付けてやろうとしてんのに全く聞こうともしなかった」

「……聖騎士だったアンタのやり方を素直に聞いたとして、当たり前だけど強くなれただろうな。だけど、俺は俺自身が考えた俺独自のやり方を考え抜いてやりたかった。じゃないと、一生アンタから独り立ち出来ないような気がしたんだ」

「……ほお、それっぽい事を言いやがる。誰かの台詞でも真似たか?」

「本気で思ってんだよ、いつまでもガキ扱いすんな」

「ガッハッハ、なあに、俺からすりゃお前なんて一生ガキのまんまだ。……だがまあ、ちょっとは覚悟っつーもんを理解してきたみてえだな。それは認めてやるよ」

「……!」


父親の言葉を聞き、ルーベルはとても驚いた表情をしていた。

今迄一度も父親に褒められた事が無い彼にとって、彼の口から出た言葉がそれはもう衝撃的な物だったのだ。

自身の努力が通用したんだと、ルーベルは嬉しさがこみ上げて表情に出そうになるが、またバカにされそうなので無理矢理我慢していた。


「……なあ、聞いてくれよ」

「なんだ?歌うのか?」

「バカ、いいから真剣に聞け。丁度二年前の夜、俺はある夢を見た」


ルーベルは過去を回想するかの様に喋り始める。

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