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第十四話「パンドラの箱」

「何でいきなり攻撃してくんだよ……しかも小突くレベルじゃなかったぞ」

「ああごめんなさい、魔物と勘違いしてしまって。余りにも小さかったから」


挑発する様な顔でルーベルを物理的に見下すラン。

しかし乗ると面倒になるのはよく分かったので、ルーベルは反応しなかった。


「……まあいいや、ランは何しに来たんだ?」

「は?名前で呼ばないでよ。何様のつもり?」

「……アンタ、ホンット滅茶苦茶だよな。初対面なのに殴ろうとしてくるし、背後から奇襲してくるし。あれ俺だから良かったけど、普通の人間なら頭蓋骨破壊だぜ」

「別に結果生きてるからいいじゃない。それに、貴方が私に喧嘩を売らなければ良かっただけの話よ。喧嘩を売ってきた相手には容赦無く捻りつぶすのが、私流だもの」

「良い性格してんな……」


もう突っ込む気にもなれないルーベルは、ランを無視する様に前を向き、岩に隠れながらリンの攻防をずっと見ていた。


「……うーん、避けてるのは凄いけど攻撃してないな。この方法じゃやっぱり厳しいか……?」

「ねえ、一言聞いていいかしら?」


ランも同じ岩に隠れる様にして、ルーベルに話しかけた。


「何?」

「そもそも貴方は無関係なのに、何でリンに纏わりついてるの?他人にお節介して正義を押し付けて気持ち良くなりたいの?」

「……いちいち嫌な言い方すんな、って言いたい所だけど、半分は合ってるよ」

「へえ。それは?」

「今のリンがちょっと前の俺の境遇に似てたから。短期間で壁を乗り越えなきゃいけない、って言う状況だったんだ。まあ、リンの方がよっぽど厳しい状況だけどな」

「……貴方、本当の馬鹿ね」

「何で?」

「彼女がやられている所を見たでしょう?リンは弱すぎる、気合でどうにかなるレベルじゃないわ」

「んーそれは違うな」


ルーベルは彼女の考えを即座に否定した。


「……そう思う根拠は?」

「上半身、下半身共に肉体の完成度が既に高いからだよ――って!?」


ルーベルは説明しようと瞬間、後ろから殺気を感じ横に避けた。


「……裸を見たの?」

「ち、違うって!なんつーか、説明し辛いんだけど……」


ルーベルは彼女の拳が岩に刺さってるのを見て、少し怯えながら慌てて否定をする。


「俺は人の肉体に流れてるマナの流れが見えるんだよ」

「マナって……?」

「知らないのか?大地に流れるエネルギーだよ。人間はそれを吸収して肉体を強化したり、コンロの火を付けたりする時に使うだろ」

「ああ、気の事かしら。言い方が違うだけじゃない、いちいち知識でマウント取らないでくれる?」

「……。まあアンタも知っての通り、吸収出来る量は人によって違う。リンはその吸収量が普通の人間よりも多い。そして――」

「――そして、リンは気を自由自在に扱える技術が既に身についている、と言う事を言いたいのね?」

「ああその通りだ、流石だな。アンタも知ってたんだろ?」

「は?上から目線?生意気ね、殺すわよ?」

「なんでいちいち殺されなきゃいけないんだ……まあ、リンに足りない所があるとすれば後はメンタルと実戦経験だけだよ。それに関しては付け焼き刃で何とかなる可能性があるからな」

「……もういいわ、その減らず口を閉じなさい」

「はっ、もしやアンタ、根は良い奴だな」

「……は?」

「だってリンを虐めから助けてたじゃん。やっぱリンの事好きなんだろ?何であんな態度を取るんだ?そこまで分かってるなら、修行に付き合ってやればいいじゃねえか」

「……べらべらとうるさいわ。助けたのは気が向いただけよ。何度も言ってる通り私は弱い人間は嫌い。自分の強さを受け入れようとしない、弱い人間はね」


ランはそう言って立ち上がる。


「じゃあね、お節介のチビ。無理だろうけど、精々頑張るといいわ」

「チビは余計だ」

「……ああ、それと――」


リンは少し、儚げそうに振り向いた。


「もし、の話だけど、気を付けてね」

「……?」

「アレを制御できるのは、多分私しか居ないだろうから。……まあ、あり得ないとは思うけど」

「……何の話?」

「まあ、分からなくていいわ。もし何か相談あったら、私の所に来なさい。解決してあげるわ」

「……お、おう」


彼女からの素直な応援に少し気持ち悪さすらも感じたルーベルだった。




×



「さて、と……まあ、流石にな」

「はぁはぁ……」


あれから数十分。

途中ワウフールに攻撃しようとした瞬間は何度かあったが、結局一歩が踏み込めず彼女はボロボロになっていた。

そして彼女が危なそうになった所、ルーベルは

リンは仰向けで倒れていた。


(……しゃーねえ、まだ一日目だ)


頭に大きなこぶを作っていたルーベルは、倒れているリンにゆっくりと近付く。


「お疲れ様、悪かったな。無茶な事ばっかりさせてさ」

「はぁ……はぁ」

「まあでも一週間しか時間が無いんだ。こうやって無茶するしか方法は無いんだ」

「はぁ……はぁ」

「よし、じゃあ俺、水と食糧でも取って来るよ!休んどいて――って、え」


なんだ、これは。

ルーベルはその瞬間、何かの悪寒を感じていた。

正体は分からない、ただ魔物や人の類のものではない。

何か分からない、悪魔の様な……。


「お、おい――」


注意喚起しようと、リンの方を見た瞬間。

彼女の両眼は赤く光っていた。


「――殺す」

「……え?」


ルーベルは後に語るが、今でもこの時の事を後悔しているらしい。

自身はとてつもなく危険なパンドラの箱を開けてしまったと。

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