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第十三話「命を懸けた修行」

「ひぃぃぃぃぃぃぃっ!?助けてええええ!!!」


高い崖の小岩を右手に何とか捕まりながら、その余りにもの高さに顔を青白くしているリンは目測数十メートルはあろう真下に居るルーベルに助けを求めていた。

しかし、ルーベルは全く動こうとせず座禅をしている。


「る、ルーベル君!!!」

「……ん」


余りにも大きな声で名前を呼ばれたのでルーベルは座禅を辞め、片目で彼女を見る。


「……別に大丈夫だって。もし落ちたら、俺が受け止めてやるからさ」

「ほ、ホントに受け止めてね?流石にこの高さは死んじゃうよ……?」

「ああ。でも俺も人間だからミスはあるかもな。そん時は天から許してくれ」

「無茶苦茶だよ!?ひぃっ……!?」


会話で気が紛れたせいで油断したのか、掴んでいた岩が崩れた事に気付かず、そのまま後ろへと態勢を崩してしまう。


「っ……!」


しかし、火事場の馬鹿力なのか咄嗟に左手で掴み、重力に流されそうな身体を腕一本で支える。

息を荒くしながら下を見ると、ルーベルはまだ座禅をしていた。


(こ、この人……本気で助ける気が無い!)


リンは自分が落ちかけていても微動だにせず目を瞑って座禅をしている彼を見て、一瞬殺してやろうかなと殺意が湧く。

しかし、この場でどういっても解決はしない。

なら、もう自力で降りるしかない。

彼女はそう覚悟を決め、右手を動かした。


「……」


リンは崖から少し出っ張っている岩を掴み、先程まで一歩も動いていなかったのが嘘みたいに彼女は降りて行く。


「はぁ、はぁ……」


数分後、彼女はなんとルーベルと同じ位置までたどり着いていた。


「……ん」


座禅をしながら目を瞑っていたルーベルはリンが降りてきた事を彼女の荒い吐息で気付く。


「え、もう終わったの?」

「……」


泣き言を言っていた時とは全く違う雰囲気を醸し出し、リンはルーベルをじーっと見つめていた。


「あー怒ってる?」

「誰だって怒るよ!だって私、死にかけたんだよ!?もう後ちょっとであの世だよ!?しかもルーベル君は全然ッ助けてくれようとしないし!」

「ごめんごめん。まあでもさ、修行なんだから余裕を残しちゃ意味が無いだろ?生きてたんだし結果オーライって事で」

「め、滅茶苦茶だあ!」

「つーかそんな事より――」


ルーベルはリンが下ってきた高い崖を見て、驚いた様な表情をしていた。


「これ正直無理だと思ってたんだけど、よく行けたな……しかも短時間で。リン、本当は強いのを隠してるんじゃないのか?」

「――そ、そんな訳無いよ……。ねえ、もう終わらない?」

「でもいいのか?追い出されるぜ」

「ランを説得してみるよ……」

「いけるのか?見た感じ絶対認めなさそうなんだけど」

「……無理かも。あ、じゃあやるとしたら筋トレしない!?私、それなら頑張れるかも!」

「筋トレは要らないだろ。次はっと……あ、良い事思いついた――」


ルーベルはリンの要望を無視し、突然自身の着物の中を探り始める。


「んー、何処行ったかな」

「……?」

「あ、あった」

「……うん?」


リンは褒美に飲み物か何かをくれるのかなと期待していたが、取り出されたものは白く光っている丸い水晶。


「これこれ。綺麗だろ?」

「う、うん……で?」

「これをな、壊すんだよ」

「え!?」


ルーベルはそう言うとそれを下に投げ付け水晶を割る。

すると突然煙の様な物が発生し始めた。


「ごほっ、ごほっ」


リンが煙たさに咳き込んでいると、突然呻き声の様な大きな音が聴覚を痛い程に刺激した。


「な、何!?」


煙が晴れ、両手で耳を防いでいる彼女の視界に入ったのは自身と同じ位の体躯の獣。

人肉等は簡単に噛み千切ってしまいそうな程に牙が鋭く、その凶悪な目は何人もの傭兵や商人達を怯えさせてきた事が容易に想像が出来る。


「数日前に商人から『召喚水晶』を買ったんだ。コイツの名は『ワウルーフ』、ノンランクではあるが戦闘能力が高い魔物だぜ」

「え、これを……まさか?」

「そう、リンが独りで倒すんだ」

「は……は?ダメだよ、そんなの」


この人の頭は大丈夫なのだろうか、危険な魔物とは一度も戦闘経験が無いリンはそう強く軽蔑していた。

しかし、そんなリンを横目にルーベルは全速力でその場から去っていく。


「じゃあな、頑張ってくれ――」

「……え」


とんでもない状況に唖然としながらも、リンはワウフールが接近してきた事に気付く。

咄嗟の本能から両手を前に出す様に防御してしまい、彼女の右手を鋭い牙が襲った。


「った――!」

「っ……」


リンは力いっぱい振り払い、ワウフールは飛ばされるが一回転して地に足を付ける。


「っ……」


死ぬ。

彼女の脳裏にその二文字が過った。


「――クソっ」


緊張感からか相手を射殺す様な鋭い目をした彼女の小さな口からは、普段使わない様な汚い言葉が自然と漏れていた。


×




(さて)


勿論だが、彼女を見捨てたと言うのは嘘だった。

ルーベルは近くの岩に隠れ、彼女と魔物の攻防を見つめている。


(……これで突破してくれたらいいんだが)


ルーベルにはある狙いがあり、それが失敗した時の次の作戦を考えていたその時だった。


「――!」


突然感じた後ろからの殺気に気付き、ルーベルは咄嗟の反応で左腕を出す。

奇襲ならば予想出来る攻撃位置は、相手を確実に仕留められる頭部か胸部、つまりは上部を堅く防御しておけば死ぬことは無い。


「っ――よしっ」


予想は当たり――頭部への打撃をガードした彼は、相手の後隙を見逃さず右手で殴りつけた。

体重の乗った良い攻撃――しかし、相手もその攻撃に対し堅く防御をし、ステップで後退った。

相手は間違いなく実力者、ルーベルは左手を腰の紅焔に当てる。


「……って、アンタかよ」


しかし、ルーベルは相手の姿を見た途端に大きく溜息を付き、警戒態勢を解いていた。


「――まあまあね」


そこに居たのは、胴着を着た体躯の大きい黒髪の少女――ランだった。

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