453話 立証
昔から「此れくらいなら大丈夫だと思った」「死ぬとは思わなかった」と言い訳し、車で轢いた被害者や鉄パイプやバットで頭を殴った相手を放置して死なせた奴は大勢いる。
今も。
「本当なんだよ、此れくらいだったら大丈夫だと思ったんだよ、信じてくれよ刑事さん」
「お前此れくらいだと言うが、4時間だぞ、4時間。
あんな炎天下の車の中に子供を放置して、大丈夫な訳あるわけ無いだろうが!」
「それくらいなら大丈夫だと思ったんだよー」
「お前の言い分は分かった、今日は此処までにしよう」
翌日の早朝、私と同僚は子供を炎天下の車の中に放置して殺した男を留置所から連れ出す。
「刑事さん、何処に連れていかれるんだよ?」
「立証実験場だ」
「立証実験場って何それ?」
「此処だ」
立証実験場の広い敷地内に入り、昨日から置かれてあるワゴン車の脇にパトカーを止めた。
「降りろ!」
昨日の猛暑と昨晩の熱帯夜で窓を閉め切ったワゴン車の中は、ムッとする熱気と湿気が混もっている。
そのワゴン車の座席に手錠と足枷で男を拘束。
「な、何だよ? 此れ」
「本当に炎天下の車の中に子供を放置しても死ぬとは思わなかったんだな?」
「そうだよ、死ぬとは思わなかったんだよ」
「だからそれを立証してもらうのだ、お前自身によってな」
「え?」
「炎天下の車の中に放置しても死なないんだろ?
此れから日が暮れるまでお前は此処に放置される。
それでだ、私達が迎えに来たときお前が生きていれば、お前の言葉は正しかったと立証される訳だ」
「此れから日が暮れるまでって、10時間近くあるじゃ無いか? 俺が子供を放置していたのは4時間だぞ」
「子供と大人のお前の立証実験が同じ時間になる訳が無いだろう!
本当なら4~5倍の時間で実験したいくらいだ」
「分かったよ、立証実験にチャレンジしてやるよ!
その前に水を飲ませてくれよ」
「馬鹿言うな。
お前、車に子供を閉じ込める前に水を飲ませてやったか?
やってないだろ、同じ条件での実験で無くては立証できないから駄目だ。
じゃ、日が暮れたら迎えに来るから頑張れよ」
そう言って私はワゴン車のドアを閉める。
ワゴン車の側で同僚が開始時刻等を書類に書き込んでいるのを脇目に、私は晴れ渡った大空を見上げた。




