445話 リニアモーターカー
フト、10年程前に106歳で亡くなった祖父の事を思い出す。
祖父はJRを利用するとき駅に出入りする度に会釈していた。
私鉄を利用したときは会釈しないので、何故JRを利用したときだけ駅に会釈するのか昔子供の頃聞いた事がある。
祖父が教えてくれたのはこういう事だった。
祖父が生まれ育ったのは山奥で、大きな街に出て来ようとすると半日はかかる所だったらしい。
そんな村に高校なんてあるわけが無く、進学したのは県の中核都市にある高校。
そんな訳で祖父は16歳になったばかりの高校1年のときから襤褸アパートでの独り暮らしが始まった。
1年の秋、実家の稲刈りに駆り出され土曜の授業が終わってから帰省、日曜の朝早くから稲刈りを行ったあと家族に駅まで送ってもらい何とか最終電車に乗れる。
朝早く起きて行った稲刈りの疲れと、最終電車に乗れて安堵した所為で眠ってしまう。
身体を揺すられて目を覚ました祖父の耳に、「終点ですよ降りてください」と言う車掌の声がかかる。
乗り過ごしに気がつき、タクシー代も宿泊する金も無く真っ青な顔で立ち尽くす祖父、それに気がついたJRその頃は国鉄の職員さんが、これから祖父が降りる駅方面に向かう貨物列車に便乗できるように取り計らってくれて、無事にアパートに帰れたとの事。
だからその時の事を忘れ無いように、感謝の気持ちを込めてJRを利用するときは会釈するようにしているとの事だった。
何でその事を思い出したかと言うと。
新幹線の代わりにリニアモーターカーが全国を繋いでいる今。
鹿児島観光を終え自宅のある大阪で降りる筈だったのに熟睡してしまい、気がついたら終点の札幌にいたからだ。




