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愛車
昔自動車販売店の店内に飾られていた車に一目惚れして購入。
家を改築して居間の直ぐ横に車を置けるようにする。
それからは会社から帰宅すると愛車を磨くのが日課になった。
恋人に接するように話しかけ大事に扱う。
死ぬときは病院のベッドの上なんかじゃ無く愛車の運転席で死にたいと思い、棺桶の代わりに愛車の中に寝かせられてそのまま埋められたいと思う程に大事にした。
それなのに事業に失敗して愛車を含む全てを差し押さえられ、国道沿いの襤褸アパートに引っ越す。
アパートから目の前の国道を走る車を見て愛車、否、恋人の姿を探した。
今私は幸福だ。
恋人が私の胸に飛び込んで来てくれたから。
国道沿いのアパートに突っ込んだ車の持ち主が警察に向けて叫んでいる。
「車の制御が突然出来なくなったんだよー!」
車の下敷きになって死んだアパートの住民の顔は幸せそうに微笑んでいた。




