理
昔、突撃してくる敵に向けて銃を撃ちまくっていたとき、敵の放った一弾が俺の頭を撃ち抜いた。
暫く地面に横たわっていた俺は身体を起こして周りを見渡す。
あれ? あんなところに建物なんてあったかな?
敵と味方の陣地のちょうど真ん中に見覚えの無い建物が建っていた。
引き寄せられるように俺はその建物に向けて歩む。
建物の前には長蛇の列。
敵味方の戦死した将兵が列を作って並んでいた。
建物の扉が開かれると、並んでいた敵味方の将兵が建物の中に歩を進める。
500人程の将兵が建物の中に入ると扉は閉じられた。
暫くしてまた扉が開く。
俺は前の奴に続いて建物の中に入る。
建物の中は学校の体育館のような造りの広い部屋だった。
一段高くなっている所に黒い服装の男が立っていて、その前に俺たち将兵が整列すると話し始める。
「貴方達は選択する事が出来ます」
黒い服装の男は右の方を手で示しながら話す。
「此方の階段を降り、三途の川を渡り天国や地獄に行く道」
続いて左の方を手で示す。
「此方の階段を降り、新しい肉体を与えられ傭兵となる道。
どちらでもお好きな方へお進みください」
俺の斜め前にいた敵兵が挙手して質問した。
「新しい肉体を与えられるって事は、生き返る事が出来るのか?」
「その通り!
但し、傭兵として戦場にに立って頂く事になりますが」
姿は見えないが前の方にいる奴が別な質問を行う。
「傭兵って事は、給料は貰えるのか?」
「当然です!
新しい肉体を只で与えたからと言って無給で働かせるような事はしません。
他に質問がある方はいらっしゃいますか?
…………………………………………
いらっしゃらないようですね。
では、御自身で選択し、どちらかの階段を降りてください」
近くにいた戦友が声をかけて来た。
「ヨウ、お前はどっちに行くんだ?」
「俺は左に行く、生き返りたいからな」
「そうか………………。
俺はもう殺すのも殺されるのも嫌だから、右に行くよ」
「此処でお別れだな」
「ああ……サヨナラ」
俺と戦友は互いに抱き合い左右に別れる。
生き返りたいと思う者の方が多いのだろう、右の階段を降りる者より左の階段を降りる者の方が多かった。
それで俺は今、アンドロメダ銀河辺境部にある地球型惑星で、アンドロメダ銀河連邦のエイリアンと陣取り合戦を行っている。
陣取り合戦を行いながら俺はあのとき右の階段を降りなかった事を悔やんでいた。
最初は新しい肉体を与えられ給料も高級将校並みの金が貰えて万々歳だった。
でもそれは、左の階段を降りた者は此処の世界で戦死しても、天国にも地獄にも行けないって事を知るまでの事。
あの世に行く理から外れた俺たちは、戦死しても直ぐに新しい肉体を与えられ暫しの休息のあと戦場に送り返される。
戦場に行く事を拒んだ者は新しい肉体を与えられず、浮遊霊としてこの世を彷徨するだけの存在になってしまう。
「俺たちは未来永劫戦い続けなくてはならないのか?」
以前黒服の男、俺が生きていた時代から数十万世紀後の地球人に尋ねた事がある。
「この世から戦争が無くなったら、貴方達には生きていて良かったと思えるだけの富と休暇が与えられます。
ですから。
この世界の全てを私達地球人が手にするまで、戦い続け全ての敵を葬ってください」
と言われた。




