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脱走
何度捨てても戻って来る人形があるという話しは聞いた事があるが、隣の家は逆に全ての人形が逃亡していく。
昔、山の中腹に建てられたこの家を購入して引っ越して来たとき、その頃隣の家に住んでいた一家の子供が捨て忘れて持って来てしまったクレーンゲームで取った沢山の人形を欲しがったので、親御さんの許可を貰ってくれてやった。
夜、荷解きが終わりコーヒーを飲みながら家の窓から見える街の夜景を楽しんでいたら、隣の家の一階の窓が開けられるのが見え、昼間くれてやったクレーンゲームの人形たちが足音を忍ばせて逃げ出して行くのを目撃する。
引っ越して来てから20年程の年月が経ち、隣の家の住民は幾度か変わり、住民が出ていく度に不動産屋がお祓いをしていた。
今、何時ものようにコーヒーを飲みながら街の夜景を楽しんでいたら、今日引っ越して来た家族の子供の物と思われるプラモデルの兵士たちが、周りを警戒しながら脱走して行った。




