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思い出
遠い昔の子供の頃の思い出が脳裏に浮かぶ。
この日だけは夜更かしを許されていた大晦日の夜、紅白歌合戦を見終わってから眠りに就く。
翌朝、お節料理が並ぶテーブルの前に家族全員が座り、父の「明けましておめでとう」の声に、母と自分と弟が「「「明けましておめでとうございます」」」と答える。
両親はワインが入ったグラスを手にし自分と弟はジュースの入ったコップを手にして、皆で乾杯してからお節料理に箸を伸ばす。
お節料理に舌鼓を打つ自分や弟を両親はニコニコと微笑みながら眺めている。
今、火のついていないストーブの前で着られるだけの服を纏い綻びが目立つ毛布と布団に包まれた、賞味期限が切れた食パンを口に咥えた老人が孤独死していた。




