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養殖
引き戸が外から開けられ暖簾を潜りお客さんが店の中に入って来る。
「いらっしゃいませ!」
「らっしゃい!」
「お一人様ですか?」
女将の問いに客が頷く。
「カウンターにどうぞ」
カウンターの前に座った客の前におしぼりとお茶が置かれる。
カウンターの中の板長が声をかけた。
「何を握りますか?」
客は殆どに時価と書かれた品書きから顔を上げ注文する。
「生ビールの大と、大トロにハマチを貰おうかな。
当然養殖だろ?」
「当たり前です!
うちの店は養殖物しか扱っていません」
21世紀の前半までの昔ならともかく22世紀になった今では、安全な海産物は全て養殖物であった。
海に投棄されたブラスチックゴミが太陽光に晒され波に砕かれマイクロブラスチックになる。
このマイクロブラスチックに同じように海に投棄された殺虫剤などの毒物が付着。
殺虫剤が付着したマイクロブラスチックをブランクトンや小魚が餌と間違えて食べる。
魚の体内に毒物が貯蓄されるという連鎖の結果、天然物の海産物は食用に適さなくなり安全な海産物は全て、隔離された場所や陸上で育てられた養殖物だけになっているのだった。




