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充実
昔、俺がまだ赤ん坊の頃両親が事故で亡くなる。
両親は養護施設で共に育った者同士だった。
そう言う訳で俺は養護施設で育てられた天涯孤独の身。
それが今。
「太一を洗い終えたんだったら抱いとくから寄越しな」
「ありがとうございます」
静香から太一を受け取り湯船にその身体を沈める。
「太一、気持ち良いか?」
湯に浸かる太一は俺の顔を見上げ頷く。
静香が自分の身体を洗い終えたのを見て、太一を静香に渡し俺は湯船から出た。
「じゃ俺はあがるから2人でゆっくり入ってな」
「はい」
「太一! またな」
太一に声を掛け狭い風呂場から出る。
事故物件で格安で借りる事ができたこの部屋に入居できたお陰で、俺に家族ができた。
湯船に浸かっていたとき持病の発作を起こした静香と静香に抱かれていた太一、2人はそのまま湯船の中で溺死したらしい。
だから2人と会えるのは風呂に入っているときだけだけどそれでも構わない、今までの孤独を思えば充実した暮らしが出来ているから。