天才の証 -凡人の敗北-
大変長らくお待たせしました。凍結機士編(後編)開始です!
――それは、10年以上前にあった祭りでの事件。
その日、街中はざわついていた。
その日が祭りだから、というわけではない。
なんでも、領主の娘が10歳になったことを記念して、このトホ領を代表する虹の七機士――グレイサードのお披露目式もやるのだとか。
グレイサード。
およそ10年ほど前に現領主、ドゥルーブの兄である大神官を失い、以来、新たな大神官を発見出来ていないトホ領の至宝。
そのグレイサードを新たに公開するのだと聞いて、町の人々は沸き立っているのだとか。
そんな話をわくわくした表情で話す舎弟に対し、ふぅん、と少年は興味無さそうな声を上げる。
少年はこの街の難民が集まる貧民窟、その子供だった。
陽だまりのように、オレンジ色に染めた髪の毛を掻き上げ、そのまま手作業の機械修復に戻る。
少年は歳に似合わず、この貧民窟の顔役のような立場だった。
元々、手に職を持たねば生きていくのも難しい貧民窟だ。子供たちはそれぞれ靴磨きや建設現場の人足、教会の掃除夫や春を鬻ぐ者まで様々だが、その少年は機械技術に精通し、ガラクタの山から玩具や機械などを修理し、販売する仕事を行っていた。
少年の友と呼べるのは二人だけ。
一人は少女。日本から来た難民の子供で、手先の器用さを活かして洗濯の仕事をしている。
一人は少年。元々ムー大陸人を祖先に持つらしいが、借金か何かで貧民窟に落とされたらしい。天才肌で、普段はボーッとしているが、一度頼まれた仕事は全て完璧にこなしている。
後はみんな舎弟か、客だ。
少年は友達が少ない。
その代わり、今いる友達は大切にするべきだという信念を持っていた。
そんな少年が、自分の間近で作業をしている少年少女を睨めつける。
「イルカ。ナレッシュ。お前たちは、祭りに興味あるのか?」
「そうですね……」
イルカ、と呼ばれた黒髪の少女は己が育てている趣味のガーデニングの手を止め、人差し指を顎に添えて悩みだす。
「グレイサードには、あまり興味はありませんが。でも、お祭りには興味あります。美味しいものが、たくさん並ぶそうじゃないですか。それらを眺めるのも、いいものですよ」
「眺めるだけだ。買えはしないぞ」
「構いやしませんよ。それに、運が良ければ何かしら奢ってもらえる可能性も無きにしも非ずですからね」
ふふ、とイルカが小さく笑う。この少女は、どうにもこう、計算高いところがある。
「ナレッシュはどうだ?」
「……俺は……興味ない。それより……シュロックの作る玩具で、遊んでいたほうが、楽しい……な」
「……ふん、まったく。お前も少しは外の世界に興味を持てよな」
「とか言いつつ、修理の腕に力が入るシュロックなのでした」
「五月蝿いぞ、イルカ」
ナレッシュはこの通り、全方位に対して興味というものが無い少年だ。
何が楽しくて生きているのだろう、と疑問に思うこともあるが、ナレッシュはシュロックの作る機械に興味を覚えることが多く、その事実が、シュロックの気分を良くしていた。
人間誰だって、自分の作るものに興味を持つものを突き放したりは出来ないものなのである。
「そういうシュロックはどうなのさ。興味ない感じだったけど」
「俺も……そうだな、お祭り自体には興味ない。ただ、グレイサードは一度だけでも見ておきたいかな。俺が将来作る機体の、参考例になるかもしれない」
「もー。そこは素直に、お祭りに行きたい、って言っていいのよ?」
「何度も言わせるな。お祭りには興味ない、そうだろ? ナレッシュ」
「うん」
ナレッシュの同意を心得たとばかりにシュロックは満足げに頷き、それを見たイルカが小さく首を横に振る。
「はぁ~……面倒臭い性格していますよ、シュロックは」
「黙れ。俺は面倒臭くなどない」
「そう思ってるのはシュロックだけですよ。まったく……」
むすっとした顔のシュロックに、呆れたイルカの顔。
間に挟まれたナレッシュは、首を傾げるのみだ。
側にいる舎弟の連中は、ただおろおろと3人の顔を眺めるのみ。
ただ、3人の仲が良すぎる関係が、そこにあった。
結局――
シュロック、イルカ、そしてナレッシュは連れ立って祭りに参加していた。
否、『参加していた』、と言うと語弊がある。ナレッシュとシュロックは己達が修理した機械関係のものを販売し、遊んでいたのはイルカだけだったのが現状だ。
「もー! シュロックもナレッシュも、一緒にお祭りを楽しみましょうよー!」
「五月蝿いぞイルカ、俺は販売で忙しいのだ……あ、お客さんお目が高い! その機械は昨今噂の『キャメラ』なるもので、このスイッチを押すとですね……」
「……毎度ー」
シュロックが早速お客を見つけて売り込み、実際に販売するのはナレッシュの役目だ。
ちなみに、カメラの歴史というのは意外と古く、1826年には始めて『撮影』が出来るカメラが開発された。
しかし当然、ムー大陸の人間がそんな歴史的事実を知る由もない。
カメラの技術がムー大陸に入ったのは、ここ数年の話である。
どうにか避難に成功した難民の齎したこの技術は、伝説として語られていたムー大陸に爆発的な技術革新を齎し、以後、写真撮影という技術はムー大陸において当たり前のものとなった。
現在、ムー大陸ではカメラというものは一般的なものになり、撮影に掛かる技術の粋は謎だが、それによって撮影された写真という存在は日常的なものと化している。
即ち、カメラというものは非常に高価な代物というわけだ。
そんなカメラが、自分で手に取れる値段で販売されている。購入者としては、入手しない理由などないだろう。
――というのが、シュロックの考えだ。
事実、カメラの修理品は飛ぶように売れていた。
濡れ手で粟というやつで、シュロックはカメラの壊れた製品を片っ端から見つけ出し、修復する毎日を送っていた。
カメラの内部構造は修理するうちにばっちり把握していたので、時には新製品を自ら作ることもあった。
そして今、シュロックは小金持ちとなっていた。カメラの会社でも設立していれば、立派な大会社となっていたことだろう。
しかし、シュロックは路地裏での生活を続け、カメラの会社を作ろうとはしなかった。
曰く、『俺の作りたいものは会社じゃない。虹の七機士と比較してなお余りある、強大な機体なのだ』。
事実、彼はこの数年後、『樹甲店』なる彼の趣味嗜好を費やした――その実、騎兵の武装などを取り扱うメーカーを立ち上げる。
樹甲店で販売されている武装はデザインなどが趣味的に過ぎるが、扱いやすく実用的だとなかなかの評判であった。
閑話休題、
「おーい! そろそろ領主様と娘さんがやってくるぞー!」
聴衆の掛け声で、祭りに騒いでいた聴衆が規律正しく一斉に列をなす。
やがて、遠くから車に運ばれて、凍結機士グレサード。その左手に乗る領主であるドゥルーブ、そしてその娘であるカイラがやってきた。
カイラはまだ5歳ばかりの少女だが、下々の民衆に笑顔で手を振る様は、カリスマと呼べるものがあるのかもしれない。
「…………」
「ナレッシュ? どうかしたか?」
「いや……」
一瞬、呆けたように頭上の領主たちを眺めていたナレッシュが気になったものの、声をかけると意識を取り戻して振り向いたので安心し、シュロックは改めて凍結機士を観察し始めた。
初代より、騎士として王族の機体に仕えていたという伝説のあるその機体は、やがて平行世界に王族の機体が消えてもこのムー大陸の人々を守るために、自らの意思でこの地を治めて後の災いに備えたという。
そんな虹の七機士は、現在魔力の薄くなったムー大陸人の中から魔力の高い者を見極め、自らの大神官として招集をかけている。
これは、相性などもあるが、生まれた瞬間から機士は魔力の多い人間を見極め、その者にいつか自らに乗り込む栄誉と、他の機体に乗り込めなくする呪いをかけると言われている。
一体、何故そんな呪いをかけるのか。理由は不明とされていて、肝心の選ばれた大神官自身もその行為に首を捻っていた。
現在、凍結機士の大神官は10年ほど前に大型イミニクス『狂乱野干』に殺害されて以来、未だに現れてはいない。
でも、そろそろ現れそうな予感はしている。シュロックはまさか自分が大神官になれるとは考えていないが、やがて現れる大神官に負けない機体を創り出して乗り込み、その大神官より活躍する。
それが、子供心にシュロックが考えている夢であった。
「あっ! あれはなんだ!?」
「うわっ! イ、イミニクス!?」
「大型イミニクスだーっ! ひ、避難を、早く……っ!!!」
そして祭りは順調に進み、氷結機士が領主たちを連れてトラックで運ばれていく最中――事件は起きた。
地中から、イミニクスが這い出てきたのだ。
その大型イミニクス――グラウンドワームは知能が低いのか、その軟体をくねらせて地面にばったんばったんと自分の身体を地面に叩きつけるばかりだったが、それによって植えられた木々が倒木し、街などの建物が倒壊していったので、住民は慌てて避難を開始していた。
「イルカ! ナレッシュ! いるか!?」
「い、いるわよ!」
「……ここに」
「避難するぞ! 俺の後ろに付いてこい!」
シュロックたちも、逃げ惑う民衆に蹴り飛ばされないよう注意しながら、避難経路を思案していた。
慌てて逃げるものは、いつしか袋小路に逃げ込み、追いつかれて殺されてしまう。
だからこそ、状況をよく観察して、的確なルートを進むべし――というのが、日頃のシュロックの教えであった。
祭りに集まっていた子供たちが、次々と逃走する先をシュロックは一番最後まで残り、確認していた。
やがて子供たちが全員逃げ出したことに安心して一息つくと、慌ててシュロックは共に残っていた二人に話しかけた。
「さぁ! 俺たちも逃げるぞ!」
「……シュロック。彼らは、どうなる?」
「え!?」
言われて、シュロックはナレッシュの指し示す方角を見た。
そこには、凍結機士の左手の上で、怯えすくむ少女と、左手から降りて民衆の逃走を指示している男の姿があった。
「どうなる……も何も、どうにかするだろ!? そんなことより、自分の命を大切にしやがれ!」
「……そんなことより、か。ならばシュロック、お前とイルカは早く逃げろ。俺は、彼女の逃亡を手伝ってくる」
「お……おい、ナレッシュ!?」
シュロックの回答にしょうがない、といった感じで薄く笑ったナレッシュは、弾かれたように一直線に凍結機士へと向かって走っていった。
慌ててシュロックが手を伸ばすが、もう遅い。
ナレッシュは行ってしまった。
後悔、そんな感情がシュロックの心を掴みかけ、それを弾き飛ばして唇を噛む。今は、そんなことをしている場合じゃない。
「イルカ! 脱出するぞ!」
「えぇ!? ナレッシュはどうするの!?」
「あいつは……自分勝手に助かる! だって、あいつは、天才だからな!」
それは、ほとんど願望だった。
だが、思うのだ。
ナレッシュならば、きっと助かってると。
それは、願望が紡いだ勝手な予測でしかなかったが……
それでも、ナレッシュならば。
あの天才児ならば、きっと、何者の助けも必要とせず助かっていることだろう。
そう、信じるしかない。
「ナレッシュのことは一旦忘れろ! 脱出する!」
「……わ、分かったわ! みんな、一目散に走り去ってね!」
イルカの側で震えていた子供たちもイルカの指示で走り出し、イルカとシュロックもまた、イミニクスの立てる音に戸惑いながら駆け出した。
敵の大型イミニクス、巨大なミミズの姿をした化け物はびたん、びたんと地面をのたうち回って建物を倒壊させているだけの現状だが、いつ嗜虐心をむき出しにするのか定かではない。
イミニクスは、人間の常識が通用しない相手なのだ。
シュロックたちは、イミニクスの殺意ある視線を受け止めないように視線を下に固定しながら、まっすぐに逃げていく。
その姿を横目で確認しながら、ナレッシュはその小さな体で思い切り空を飛び、氷結機士の掌に飛び移った。
「おい……ええと、領主の娘」
「きゃあ!? 何!!?」
「敵じゃない。いいか、こんなところで怯えているだけじゃ敵の的になるだけだ。脱出するなら、早くしろ」
「な、何を勝手な……! 私は領主であるドゥルーブの娘! 一人だけイミニクスを恐れて、逃げ出せるものですか!」
ナレッシュに話しかけられて一瞬怯えた領主の娘――カイラであったが、話しかけた相手が何者か問う前に、反発された怒りで気を取り戻していた。
カイラには、誇りがあった。
即ち、領主の娘であるという誇りが。
その感情が、彼女の逃亡を妨げる。これでは、イミニクスに襲われてひとたまりもないだろう。
仕方ない、と、ナレッシュは小さく嘆息し、
「分かった」
「え?」
「お前が逃げないというのなら……俺が、なんとかするしかない。少し……この機体を、借りるぞ」
「え? ……あ、ちょっと! この機体は、あなたのような平民が……!」
そして、カイラの止める間もなく。
ナレッシュは滑らかな手付きで凍結機士のコクピットハッチを器用に開いてしまい、慌てて静止の声を上げるドゥルーブやその他お付きの人たちを意図的に無視して、凍結機士の内部にするりと入り込んでしまった。
そしてナレッシュはコクピットハッチを閉めてしまう。慌ててカイラが、ハッチの内側へと飛び込んだ。
「ちょ! ちょっと、あなた!? 何をしているの!!?」
「なに、って。ちょっとこの凍結機士様にお願いして、イミニクスをぶっ飛ばしてもらうだけだよ」
「ぶっ飛……何を言っているの!? あなた、この機体は虹の七機士であって……!」
「それは知ってるよ。だから、あとは僕との対話で凍結機士の心を開かせる、だけ……かな」
「だけ、って……ちょっ、待ちな……っ!?」
カイラの静止の声は無視されて。
凍結機士を起動させたナレッシュは、やがて静かに目を閉じた。
おそらく、凍結機士の宿主と呼ばれるコア部分と対峙しているのだろう。
カイラはナレッシュへと伸ばした手を中空に彷徨わせながら、ひとつ、静かに吐息を吐き出す。
(まぁ……間違いなく、この子は『凍結』を動かせない。そうなると、このコクピットが私達の墓場……いいえ、父様がどうにかしてくださるはずだわ。ならば、それを待って……)
「よし。動いてくれるそうだ」
「待って……え!?」
カイラが聞き返す暇もなく。
凍結機士は、ナレッシュの言う通りに動いていた。
ナレッシュが右に動けと望めば、右に動いて。左を向けと言われれば、その通りに。
まるで、ナレッシュを大神官と認めたが如く。
この時点で、カイラの髄脳は判断を放棄した。ただ呆然と、ナレッシュの動きを眺めていた。
「……なんなの、あなた」
「さぁ。シュロック……ええと、僕の友人は、天才だって言ってたけど」
カイラの呆けた言葉を気にすることもなく、ナレッシュはそれが当然とばかりに、大型イミニクス――グラウンドワームと相対した。
グラウンドワームは大暴れするタイミングで己の尻尾を『凍結』に向ける――が。
凍結機士、グレイサードはまるでプロのボクシング選手のように構えると、ダッキングの動きの要領で、尻尾の攻撃を避けてしまう。
「い、今の動きは!?」
「避けただけだよ。お望みなら、受けることも出来たけどね」
続いてスウェーバック。
相手の攻撃を紙一重で回避し、グレイサードは悠然と屹立する。
まるで、親しい友人が共に起き上がっているような、そんな表情と共に。
「嘘っ!? 動かしたって、あなた……」
「さぁ、反撃だよグレイサード。今までやられていた分、しっかりと返さなくちゃね!」
そう、言うが早いか。
グレイサードは、ナレッシュが念じるのと共に、腕を勢いよく振り上げてグラウンドワームへと立ち向かっていった。
激突。
グレイサードがグラウンドワームの胴体を丸掴みにし、地面にびたんびたんと勢いよく叩き付ける様を、カイラ、そして外にいたドゥルーブも、呆然と眺めている他無かった。
「あれは……なんだ!? どうして、グレイサードが動いている!?」
ドゥルーブとしては、混乱で頭がどうにかなってしまいそうだった。
グレイサードは、近年、大神官を排出していない虹の七騎士だ。
今回だって当然、動かないことを前提として神輿として担いできたのだ。それが……
「……あの小汚い格好の男は、何者なんだ……!?」
どうして、今。
グレイサードが動き出し、あのグラウンドワームをテンポとリズムよく地面に叩きつけているのを眺めているのだろうか。
「……と、とりあえず避難を急げ! それから、あのグレイサードの大神官……かどうかは不明だが、グレイサードに乗り込んだ男は絶対に捕まえろ!」
領主の責任として避難指示を優先し、自分の側にいた秘書に突然グレイサードに乗り込んだ貧民らしき少年の対処を任せ、ドゥルーブもまたその場から離れながら、グレイサードの横顔を眺めた。
「……少年、のようであったが。あの年齢の子供が、虹の七騎士を動かしたのか……? 信じられん……!」
イルカとシュロックもまた、ナレッシュがトホ領の至宝、グレイサードを操っている様子を、子供たちを逃しながら呆然とその姿を凝視していた。
「嘘でしょ? ナレッシュ……」
「あいつ……グレイサードに選ばれた、大神官だったってのか……!?」
もはや大型イミニクスの襲撃を受ける危険性もなく、イルカとシュロック――特にシュロックは街の小道から、グレイサードの様子を観察していた。
グレイサードは血走った様子も怯えた感じも受けず、ただひたすら冷静に、むしろ自然体で何も考えていないような感覚を受けた。
「ナレッシュ、初めて機体を操作したっていうのに、いつも通りみたい」
イルカがほっと息をつく。
街中への大型イミニクスの襲撃。機体に乗っての実戦闘。コクピットには、守るべき女の子もいる。
様々な『初めて』がプレッシャーとなってナレッシュを襲っていないかが不安だったが、ナレッシュはいつも通りのナレッシュだった。
「…………」
そんなナレッシュを、シュロックは見上げていた。
驚きと、戸惑いと……そして、大きな失望を胸に秘めて。
後に、『イシュマラ襲撃事件』と呼ばれるその動乱は、ナレッシュという孤児が氷結機士グレイサードを操り、領主の娘を守った事件として、名を残すことになる。
トホ領首都イシュマラを襲撃した大型イミニクス・グラウンドワームの魔の手からカイラを守護し、英雄となったナレッシュは領主であるドゥルーブに気に入られ、彼の養子となった。
以降、彼は彼の養子として最大限の教育・生活を送り、グレイサードの大神官として相応しい人間として成長していく。
……彼の本心がそれを望んでいたのかは、分からないけれど。
後日、ナレッシュはあの時の真相を訪ねられ、酔っ払った彼はつい、『カイラを救い出すためだった』と返答する。
幼い少年だったナレッシュが、見上げたカイラに心を奪われ、そしてグレイサードを操った。
その事実はトホ領に広まり、民衆が混乱する中、ドゥルーブは義兄妹だった二人を婚約者として発表した。
ここに、義兄妹でありながら婚約者でもあるという、歪な関係の二人が誕生した。
周囲の混乱を他所に、二人の関係は冷静、かつ、歪んだものであった。
そうして、ナレッシュとカイラを中心とした醜聞が巻き起こる中――
シュロックは、一人、グレイサードの横顔を見上げていた。
――敗北感。その一言を残した、憂いの表情で。




