氷結の狩人
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万雷騎士、ガルヴァニアス。
十の稲妻が落ちる速度よりも早く、百の雷を束ねたものより強靭で、千の雷光の輝きよりも眩しい電流をその身に帯びた雷の戦士。
まさに、万雷の騎士。
そんな万雷騎士を操るのは、フルディカ・ダロン・ネア・フィオーネ。
かつてはナセレ・フィオーネを名乗っていた、ダロン領主ナセレ・レオースの姉にして、フェグラー領主アルキウスの妻である。
趣味は植物の世話をすることと、野草などを採取して料理を作ること、あとは筋トレ(本人は否定)、夜中に全裸で徘徊すること(否定)。
特技は我流の拳法と、子供の世話(本人談)、そして全裸で徘徊した周囲の地形の把握(全裸で徘徊の部分は本人が強く否定)。
そんなお茶目な彼女の得意とするのは、当然、近接格闘の肉弾戦。
雷の念動力を纏った拳で敵を粉砕し、蹴りで敵を吹き飛ばす。そんな戦法が、周囲に知れ渡っていた。
そして、その拳法は伊達ではなく。
(やりにくい……っ!)
二角獣はガルヴァニアスの放つ拳や蹴りの一撃一撃を、眉間に皺を寄せて面倒臭そうに回避する。
先程の巨人は厄介な難敵であったが、その戦法は殺るか殺られるかの一瞬離脱の戦法だった。その戦い方ならば、二角獣も望むところだったのである。
しかしながら、今度の巨人は戦法が違った。
考えなしなのである。
それでいて、拳は重く、蹴りは鋭い。
馬鹿の見本市のような戦法なのに、その拳技は異様に高度で、どんなに避けても追撃されてしまう。
こちらの立てた戦法・戦術が、全て無意味と化してしまうのだ。
単純に過ぎるその戦法は、ある意味、こちらの予想を全て跳ね返す……否、こちらの立てた予想を全て破砕する、獣のごとき鋭く、無邪気で、それ故に読みにくい思考。
(やりにくい……っ!!!)
二角獣は、たまらず後退する。
それを逃さず、ガルヴァニアスが一歩詰める。
雷を帯びた拳の連打。殴るたびに電流が迸るそれは、二角獣の動きを一瞬だけ麻痺させる。
その隙を逃さず、必殺の蹴りが襲来する。拳の何倍もの威力を誇るそれが、雷の念動力で更に強力なものに変化し、二角獣に襲いかかった。
お腹の部分に襲いかかる衝撃に、たまらず胃の中ものを吐き出しそうになる。
ガルヴァニアスは更に追撃。今がチャンスとばかりに、必殺の正拳突きを放とうと腰を落とし、
(やりにくい……が、やりにくいだけだ。対処法は、それこそ無限にある)
二角獣が放った鬣の手斧に、慌てて拳を当てて対処する。
その後は二角獣が攻める番であった。
前足での踏みつけ、頭部の突撃、鬣の手斧。ありとあらゆる手段でガルヴァニアスを追い詰め、攻撃を行っていく。
ガルヴァニアスは攻めるのは得意だが、受けるのは大の苦手であった。
そのため、相手の連続攻撃を防ぐ手立てもほころびが見え始める。
既のところで拳が遅れ、相手の手斧や二本角が装甲を掠める。
足捌きで先手を奪われ、どんどんいい立ち位置を奪われていく。
格好良く救援に現れたはずのガルヴァニアスは、途端に崖っぷちに追い込まれていた。
これが、大型イミニクス。
討伐に虹の七騎士数機が必要とされる、人類を遥かに凌ぐ漆黒の獣――!
「くっ……! 双雷咬掌! 喰らえっ!!!」
結果的に、念動力を使用させられたガルヴァニアスの負けであった。
両腕から伸びた雷の鞭のような電流が、二角獣を締め上げようと伸びる。
それはまるで、雷で形作られた蛇が相手の首を狙って空中を飛び回ったかのように見えたかもしれない。
それを、
「クォォォォッ!!!!」
「チッ!」
二角獣は地面を深く蹴り込み、土砂の壁を作って防ぐ。
伸びた土砂はアースの役目を果たし、雷を散らしてしまう。それに負けないほど強いイメージは、咄嗟のことでフィオーネは保てなかったのだ。
土砂が伸びて雷に触れた途端、電撃が形作る両手は手首を切断され、消失する。
ひるむガルヴァニアスに、二角獣は突撃。ガルヴァニアスに肩アーマーに噛みつき、それを食い千切ってしまう。
「あうっ!」
「キァァァァァァッ!!!」
「助けに来て、このザマとは……! そうはさせない、私の命に賭けても、貴様だけは……!」
ガルヴァニアスの攻撃。ガルヴァニアスの放った雷電貫手が二角獣の肉体を粉砕し、胴体の内部にまで貫通する。
二角獣の反撃。至近距離から放たれる手斧の猛襲は、ガルヴァニアスの背面装甲を削り取っただけで終わる。
ガルヴァニアスの追撃。相手の体内で、雷光波を発動。荒れ狂う電流が相手の体内を掻き乱し、電気ショックで痺れさせる。
二角獣の再反撃。体内に電流を食らってなお、身体を麻痺させることなく動く巨大な二角獣は、体内に残る帯電を強引に無視して頭部の角による突撃。ガルヴァニアスはどうにかそれを避けるが、体勢を崩されてしまう。
まさに一進一退の攻防。お互い、隙を見せれば食い破られる緊張感を抱えたまま、さりとて戦いを止めるわけにはいかない。
一方には、人類を殺害したいという欲求が。
一方には、後ろで倒れている勇者を救いたいという欲求がある。
その欲求は、お互いに相反している。ならば、相手を殺害しなければ、この動きは止まらないのだろう。
二角獣の攻撃を、ガルヴァニアスが雷影点滅で回避する。
ガルヴァニアスの放つ電光衝撃波を、二角獣が再び土砂の障壁を張って回避する。
土砂で攻撃が防げる分、戦局は二角獣が有利であった。
ガルヴァニアスの電影点滅ですら、土砂を浴びせると一瞬動きが硬直し、効力が無効となるのだ。
二角獣としては、それを逃さぬ手はなかった。
相手の出方を伺いながら、隙を見せれば飛びかかり、自分のありとあらゆる武装を以て着実に、堅実に、ガルヴァニアスを追い詰めていく。
ガルヴァニアスは背後にクロノウスを庇っており、思うように後退は出来ない。
クロノウスを見捨てるか?
否。
否、否、否!
フィオーネにその選択肢はない。彼には恩義がある。その恩義を返せぬまま、ここで見捨てることなど、フィオーネの思考にはない。
ならば、どうする。
状況は著しく不利だ、身体を半分電気、半分実体の状態する電影点滅まで、相手は土砂をかけるという単純かつ効率的な方法で防いでいる。
――戦闘経験の差が著しい。
電気の念動力は確かに、地面と繋がった土砂がアースになって妨害されてしまうケースが多い。
だが、それを野生の獣であるイミニクスが知っているとは考えにくい。
イミニクスに教育機関のような――言ってみれば、知恵を教えるための場所があるとは思えないからだ。
事実、様々なイミニクスが目撃されているが、その中で教育を主目的とした空間は存在が聞いたことがない。
でも、このイミニクスは土砂が電気の弱点だと知っている。
つまり、何かしらの電気を使う念動力者との戦いを経験しており、その中で幸運にも、土砂が電撃に有効だと気付き、その経験を保持して、今この場に立っているというわけだ。
こういうケースは多いというわけではないが、稀にある。
戦闘経験を積んだイミニクスとの戦いは厄介だ。こうして、自分の念動力が通用しないケースが多々あるからだ。
「それが、どうしましたか」
関係ない。
フィオーネは血走った眼で、眼前の大型イミニクスを睨み付ける。
自身の念動力が通用しないこと。そんなことは、今までの大型イミニクスとの戦いの中で経験したことのあるケースだ。
そういった中、自分はどうしていただろうか。
他の虹の七騎士に、敵を譲る?
馬鹿な。虹の七騎士が複数揃って勝利出来るという大型イミニクスを前に、そんな悠長なことしていられるか。
答えは、念動力が使用不可能な状況でもどうにか勝利に貢献するため、相手の隙を見つけて攻撃に参加する。
それしかない。それ以外の方法を、自分は知らない。
自分はそんなに頭が良いわけではないのだ。だからどんな敵が相手であろうと、少しでも勝利の手段を見つけて戦いに参加するだけ。
ましてや、今は防衛戦。
時空機士クロノウス、その大神官の音無鮫介を守るための戦いだ。
虹の七騎士、そしてその大神官はみんなそれぞれが貴重な戦力であるが、音無鮫介だけは別だ。理由は色々と複雑なのだが……とにかく、彼だけは絶対に守り通さねばならない。
絶対に、絶対に。自分がどんな大怪我を負うことになろうとも! 彼だけは、なんとしてでも……!
「来なさい、イミニクス!」
「ガァァァァァァッ!!!」
体重を乗せての前足の振り下ろしを、自分の両手を振り回してどうにか受け流す。
相手の額に生えている二本角を用いた突進を、今度は自分が地面の土砂を蹴り飛ばして瞳を潰し、回避。
首の鬣を変化させた手斧の一撃は、肩アーマーをやれたもののどうにか弾き飛ばす。
先程から、防衛で手一杯だ。
でも、大丈夫。
耐えれば耐えるだけ、ガルヴァニアスには勝利の確率が上がる。
それは、
『フィオーネ様! ナレッシュ様が現着! 現在、空中に氷の道を作成してそちらに急いでおります!』
「了解。こちらも……なんとか、ナレッシュの到着まで耐えてみせます」
新たな虹の七騎士が増援で現れることだ。
氷結騎士グレイサードが現在、こちらに向かっている最中だということは、ここに来る途中に交信を送ってきた朱狼騎士団の通信用兵士たちから聞いている。
虹の七騎士が3機集まれば、倒せない大型イミニクスはいないだろう。
――大型イミニクスとの戦闘は、そんな希望的観測に基づいた戦いばかりだ。
それでも、やらなくちゃいけない。
ムー大陸の――いいや、人類の平穏を守るため。
一匹でも多くのイミニクスを駆逐するために。
「クェェェェェェッ!!!」
「さっきから、甲高い声で……耳障りですよっ!」
相手の前脚が迫る瞬間、即ち相手が土砂の壁を展開出来ない瞬間に、自身に電影点滅を使用。
相手の攻撃を半分電気となった胴体ですり抜け、その隙に相手の前脚を掴み、強烈な電撃を喰らわせる。
二角獣は前脚に多大な電撃の負荷を感じ、たたらを踏んで後退した。その脚は痺れて、しばらくはまともに動かせないだろう。
「クォォッ!!?」
「ハッ! ざまぁみなさい……!」
どうにか一矢報いたところで、相手の反撃が届く。
鬣の手斧は自身の肩アーマーを砕き、同時に背中へと強烈な一撃を与えた。
ガルヴァニアスの身体が崩れる。
ああ、でももう構わない。
何故なら、
「グレイサード、接近! 3秒、2秒、1秒……!」
彼が、到着したのだから。
トホ領主、ドゥルーブの義息子。わずか8歳でグレイサードに乗り込み、以来向かうところ敵無しの天才児。
ケリン・トホ・ネア・ナレッシュ。
氷結機士、グレイサードに選ばれた大神官。
そんな彼が到着と同時、構えていた薙刀を力強く振りかぶった。
「氷雪凍像」
ビシビシビシビシッ!!!
そんな効果音が聞こえた刹那、二角獣が猛烈な氷雪に襲われ、強烈な吹雪の中、一個の氷像と化してしまう。
超巨大な氷の中に、大型イミニクスを捕らえた、と言ったほうが早いか。
そんな中、氷像を前にして、グレイサードが現場に静かに着地した。
慌てて駆け付けたなど、気付かれもせぬような優雅な動作で。
ガルヴァニアスはそんなグレイサードの様子を見て、小さく吐息を吐き出す。
「はぁ……もう少し、到着を早められなかったんですか?」
「それは失礼……これでも全力で急行したのですが」
「……いえ、こちらこそ失礼なことを申しました。よく来てくれましたナレッシュ、おかげでコースケさんも五体無事です」
「勇者殿……これは、気絶しているのか……」
「でも、命に別状はありません。私の加勢もあなたの救援も、無事間に合いましたよ」
「それなら……良かった」
と、言っている間に……
氷像の中の二角獣が、ぴくりと動いた。
目ざとくその様子を発見したグレイサードは、薙刀を腰だめに構え、静かに呼吸を整える。
「いえ……まだ、終わっていないようですね」
「なんですって?」
「流石大型イミニクス。やはり、氷像にしただけで終わり、とはいかないか……」
と、ナレッシュが警戒している目先で。
バリバリバリ、と氷を割り、二角獣がその姿を現した。
その瞳は、自らを氷漬けにした新たな敵――グレイサードを、真っ直ぐに睨みつけている。
「……怒らせましたかね」
「別に怒ってもらって結構。コースケさんがこいつにやられているんです、その敵討ちをしなくてはなりません」
グレイサードと二角獣が、互いを獲物として一瞬の隙を伺う中――
ガルヴァニアスは両手に雷を発生させながら、ボクシングのような構えを取り。
クロノウスは、相変わらず地面にダウン中。
三者三様の体勢のまま、二角獣討伐作戦が開始されるのであった。
優雅に着地を決めたナレッシュ選手、本人は思うところあるのかフィオーネ相手にちょっとビビり中(笑)




