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時空機士クロノウス  作者: 宰暁羅
凍結機士編(前編)
69/119

新興の街ベリザステ

ふぃー、今回は早く書き上げましたよ! といっても二週間は経過していますけどね!

今回は短く、18KBです。それでも10KBはオーバーしているのだなぁ……

次回はもっと短くしたいですね!




 グルルードの駅を急行で突破し、テルブ領へ。

 遠目にも塔の先端が確認出来る巨大な神殿を擁するウィンカミクスを抜ければ、後は森の中に静かに佇む終着駅、バルザレール。立派な駅などが作られていないのは『ここまでしか線路を伸ばせない』という理由らしい。

 この先にある防衛拠点――鮫介が守るべきベリザステの地に、巨大な街を作る計画があるという。

 つまり。鮫介がこの先にあるベリザステを守ることに成功すれば、テルブ領に巨大な街が建設されることになる。その成否は、今回の依頼内容――新たに手に入れた土地『旧ゼゥ・セヴェス領ベリザステ、トリミーラ森林地帯』を護衛出来るかどうかにかかっている、というのだ。

 責任重大である。鮫介は長い吐息を一つ吐き、時空機士クロノウスを起動させた。

 列車から立ち上がった他の機体(ナーカル)の二倍の全長を誇る巨体に、運転していた車掌や制動手、保安要員にその他機械保線などを担当する工事のおっちゃん達までもが、熱烈な視線をクロノウスに向けて手を振っている。

 鮫介は手を振り返しつつ、みんなに聞こえないような小さな声でぼやく。


「勇者としての有名税だよなぁ……これからこういうことが、何度も起きるのかなぁ……」


 体の中の臓腑が、目に見えない小さな棘でチクチクと刺される感触。それを意図的に無視し、振り返す手のひらに力強さと優しさを込める。

 かくして、鮫介とオトナシ近衛部隊はバルザレールを出発した。目指すは一路、ベリザステ。

 昔、目的地の周辺はセヴェスという貴族が収めており、その中の街の名前がベリザステ、そして周辺に存在したのがトリミーラという名の森林地帯だったとジン隊長から説明を受ける。

 ちなみにフェグラー領でも『ゼゥ・ガマル』という地名で使われている『ゼゥ』というのは、かつて活躍した偉大な戦士に贈られる称号だ、とのことである。

 そういう話をジン隊長が講義してくれるのを、ずっと鮫介は耳を傾けていた。


「………」

「コースケ様ぁ……ふへへ……♡」

「………………離れてくれないか、ローゼリア」

「駄目ですよぅ。近衛騎兵として、コースケ様をしっかりとお守りしないと……心配しないでくださいね、どんな敵が相手でも、この私が必ず守って見せますから……♡」


 隙あらばひっついてくる、ローゼリアの機体(ナーカル)を意図的に無視して。

 ひっついてくるといっても、全長はクロノウスの半分ほどしかないライヴェリオ(タイプ)の機体。イメージとしては、懐いた子犬が腰の辺りに抱きつく姿になるだろうか。

 とはいえ、そろそろ無視するのも限界だ。鮫介はここ最近多くなったため息を一つつき、仕方なく『命令』を下す。


「…………………ジン隊長」

「皆、ローゼリアを捕縛せよ!」

「はいはい、離れましょうねローゼリア……お姉ちゃん、あなたが変わっちゃってちょっと怖いわ……」

「あっ、ちょっ!? わ、私は近衛騎兵として己の役目を全うしているだけですー! た、助けてください、コースケ様ー!」

「馬鹿者、己の守護対象に庇護を求める近衛騎兵がいるかっ!」

「ほら、ローゼリアちゃん、ちょっと失礼っ!」

「コースケ様をお守りするのは、我がルッホ家の誇り! お前じゃ、ちょっとばかし役者不足だぜっ!」

「……恋に狂うか、ローゼリア。その忠節心を忠節心のままでいられたならば、きっと尊敬出来ただろうに……」

「ぎゅむー。コ、コースケ様ぁー! 例え邪悪なる者が襲いかかろうとも、私の心は常に貴方の側に侍っておりますー!」

「誰が邪悪なる者だ、誰がー!」


 哀れローゼリアは駆けつけたローゼルカを筆頭に、メルボアにスビビラビ、ゼルグラックたち『盾部隊』に伸し掛かられ、トドメとばかりに上から飛び乗ったシュリィに押し潰されて動かなくなった。

 ローゼルカが謝罪しながらローゼリアを引きずっていき、弱体化されているとはいえ『圧迫感』を味わったローゼリアが目を回しながら去っていく。

 その光景を目の当たりにしながら、鮫介は目を覆って首を振り、


「はぁ……自己紹介に失敗したかもしれん……」

「いえ、これはコースケ様の失態ではなく、ローゼリアが近衛騎兵として不適当なだけだったこと。すぐに除名処分にしまして……」

「除名は駄目。なんとか僕と接触しないような配置を、上手いこと組み上げてくれ」

「……承知しました」


 隣を歩く赤い鬼面に青いマフラーをなびかせたギルドリアが、深く頷くのを確認した鮫介は、やれやれといった風情で疲れた風な吐息を吐き出す。


「……流石に、これを現地の人たちに見せるのは……マズいよな」

「そうですね……ローゼリアがコースケ様に寄らないよう、私たちのほうで警戒するしか……」


 ローゼリア……まったく、余計なことをしてくれるなぁ!

 まぁ、問題そのものを作った奴を探せば、鮫介ということになるのだが。その辺りの事情からはすっぱりと目を逸らし、鮫介は黙って歩き続ける。

 目的地はベリザステ、そこにあるトリミーラ森林地帯。そこで働く護衛の騎兵たちが、ヘルプの依頼書を送ってきたのだ。

 勇者は、困っている人を救わねばならない。

 本来ならば、こうして遊んでいる時間すら無いはずなのである。


 はず、なのである。




 そんなわけで、鮫介はたまにジン隊長が講義してくれるテルブ領案内――どこそこの地域の兵士が優秀だとか、あの場所は激戦があったなぁだとか、そこの草花は食べれますといった内容まで――を受けながら、木々の中を歩いていった。

 最前線は盾部隊がガードし、背後では銃撃部隊が周囲を見回っている。例えはぐれたイニミクスがひょいと現れたとしても、彼らなら冷静に処理出来ることだろう。

 途中目覚めたローゼリアは、鮫介から一際離れた最後尾に配置することになったようだ。背後から、ローゼリアの恨めしい啜り泣きが鳴り響く……気がする。きっと気の所為だ、うん。

 そうして歩くこと、数時間。いつまでも続く木々に辟易としていた鮫介は、突然視界が開けて目を細めた。

 そこにあったのは、新興の街ベリザステ。イニミクスの支配領域から奪取した旧ゼゥ・ゼヴェス領ベリザステ内に新しく領民を呼び込んだ、新規にして正式な「街」である。

 その様相は、見る限りだと「街」というより「村」と呼んだほうが正しそうではあった。土地は広く、家は新しいものの、住人たちは湧いて出てくる虫や雑草、蜘蛛の巣を払うのに忙しそうだ。

 ただ、住人の年齢は総じて若い。これは、命知らずな若人が税金ゼロを頼りに住み慣れた家を手放して移り住んだからだとジン隊長から説明があった。

 つまり、彼らは期待しているのだ。自分たちの生活がイニミクスに脅かされることなく、正常に暮らしていけることを。

 ほら、なんかあそこの木陰で休んでいたらしいお爺さんがこちらを見て拝みだしたし! ていうか若者に混じってお爺さん、若いな!


「どうやら、我々の存在が知れ渡ったようですな」


 ジン隊長の言葉通り、こちらの存在に気付いた町民たちがこの街を守る衛兵たち――鮫介たちに手紙を出した主――を呼びに行ったようだ。

 しばらく待機していると、遠くから機体(ナーカル)――腕力強化(エスケルム)型がだばだばと走ってきて、鮫介たちの前で膝を折った。


「はぁ、はぁ。時空機士、クロノウスとその大神官、そしてそのお付きの方々ですね?」

「如何にも」

「良かった! 私は朱狼騎士団の一員、『獲物を屠る禁忌の左前足』のカムル・テルブ・テト・ローモトッグと申します! 勇者様たちには是非、我々のテントへ……」

「獲物を……何?」

「『獲物を屠る禁忌の左前足』、です。朱狼騎士団の面々はこんな風に狼の部位ごとの呼び名が付いていましてな。ギラティム鏡態的だと嫌がる者もおりますが、我が騎士団長はこういうのが結構好きなタイプでして……」

「ああ、そうなんですか。二つ名付きの騎士団か……格好良いなぁ」

「おお、大神官殿は話が分かりますな! 我らが騎士団長と話が合うかもしれません。ささ、こちらへ。機降場(きこうじょう)がこざいますので」


 ローモトッグと名乗った男性(らしき声)はそう言うと、鮫介たちを引き連れて森の外へと案内した。

 奥地に設置された機降場――主に無人の機体(ナーカル)の待機場所、鮫介の世界でいうところの駐車場――で近衛部隊の点呼をしつつ待っていると、森の奥側から男が一人、ゆっくりとした足取りで向かってくる。

 取り立てて特徴的な部分などない、年かさの青年だ。三十~四十代のその顔には無精髭一本生えておらず、だけれども頭部には短いながらもふさふさの毛髪が生え揃っている。

 しかしながら、その顔色は誰がどう見ても悪かった。青白く、頬は痩せこけて、唇はカサカサに乾いている。おそらく、眠れていないのだろう。

 そんな病人一歩手前と見紛う男の顔は、一面の笑顔。ようやく救世主が来たとばかりに揉み手をしながら、鮫介たちをまっすぐに出迎える。


「ようこそ、ベリザステに! 歓迎致します、時空機士クロノウスの大神官、召喚された新たな勇者!」

「えっと……朱狼騎士団の団長さん……ですかね。手紙は届いていると思いますけど……」

「如何にも! 私は朱狼騎士団の団長、『知恵持つ賢狼の頭脳』トリ・トホ・テト・ナヴェです。よくぞ来てくれました、勇者コースケ様!」

「えっ!? ト、トリ……!?」

「? 如何にも、私の名前はトリ・ナヴェですが」

「と、鳥……鍋……っ!!!」


 なんてこった。鴨かな? それとも鶏かな!?

 んん、げふんげふん。鮫介は怪訝な顔を見せるトリ……いや、ナヴェ氏に空咳をして見せて誤魔化し、


「……失礼。ナヴェ氏の苗字と名前の組み合わせが、その、僕の故郷での……食事のメニューの名前だったので、つい」

「そうですか。私のトリは狼の尻尾という意味の古語、ナヴェは朱色の刃物という言葉の略称なのですが……おそらくその料理も、野性的で豪快な料理なのでしょうね」

「え、っと……ウン、ソウダネ」


 思わず機械のごとく無表情になって嘘をついてしまう。

 だって鳥鍋だぜ。鮫介のクラスに大喰(おおぐらい)林檎(りんご)なんて名前の人物が存在したら思わず二度見にしてしまうだろうし、おそらく棒流(ぼうる)来洲(らいす)君なんて人物がいればアメリカ人なら大爆笑……の、はずだ。

 だから、黙っていよう。そうしよう。


「ああ……ええと。それで、ナヴェさん、でしたか。僕を呼んだのは……」

「ええ、はい」


 強引な話題の転換だったが、ナヴェは眉をひそめて真剣な顔を作り、


「我々は、このベリザステの街の警護を務めていました。小型やたまに中型のイミニクスが出現するくらいで、想定通り……いえ、想像以上に平和な毎日でした。しかし……数日前。突如、この地を大型イミニクスが襲ったのです」


 くっ、と歯を軋ませ、悔しそうに絞り出すナヴェ。

 その時、何が起こったのか。鮫介は想像するしかない。その陰惨で、壮絶な事件を。


「その大型イミニクスは……他では見かけたことのない新種のようでした。馬のような体格をしており、その額には捻じくれた二本角が……」

「……バイコーン?」

「バイコーン? バイコーンとは?」

「ん? バイコーンは古典文学……旧約聖書に登場するユニコーンの亜種で、純血を司るユニコーンに対して不純を司ると言われているよ……ユニコーンは知っている?」

「はっ、当然です。しかし我らの宿敵の姿が、異国の本に載っていたとは。では、これより敵大型イニミクスの名前を「バイコーン」と設定します」

「……バイコーンに決まっちゃった。いいのか?」

「名称など、分かりやすければそれでいいのですよ」


 慌ててジン隊長に振ってみるが、ジン隊長は済ました顔でOKサインを出してくる。それに対して鮫介は何も言うことは出来ず、その大型イミニクスは「バイコーン」というネーミングに決まった。

 まぁ、いい。問題は敵の名前ではなく、敵の強さなのだから。


「そのネームド『バイコーン』は馬とは思えぬ恐ろしい強さを発揮しました。その突進で我々の『牙』と『右爪』が撃墜され、振るう前足の一撃で『右目』と『左耳』が死亡。私も上半身と下半身が泣き別れになるような凄まじい角の一撃を腹部に喰らってしまい、最後に敵の脚部を捕まえた『右前足』が……自爆し、その脚部を負傷させ、どうにか撤退を促したところであります」

「自爆……ということは、機体(ナーカル)に搭載されているという気化爆弾……」

「はい、『ヴェルゼ・ラ・ムー(ラ・ムーの激怒)』を使用しました。実に、見事な……最期で、ございました」


 大きな吐息を吐き出すと共に、ナヴェは目を瞑ってその自爆した戦友に思いを馳せる。鮫介はその様子を見て、何も言わずに黙っていた。

 鮫介には、ヴェルゼ・ラ・ムーと(ラ・ムーの激怒)いう兵器に対して、良いも悪いも判断出来なかったからである。

 自殺することは良くないと。自爆兵器を取り外せと指示することは、鮫介に与えられた権力で十分に可能だ。

 だが――もしも。

 もしも、己の使える武装を全て失い、周囲には自分を助けてくれる仲間もいない。イミニクスの牙は一歩、また一歩と接近してくる。

 もはや念動力は何の役にも立たず、コクピットブロックからの脱出も叶わない。

 そんな時に、自分の手に、自爆スイッチがあったら――どうだろうか。

 仲間が助けに来てくてれると信じて、自爆せずに待つのか。

 それとも、これから敵と戦う味方のために、自爆して敵に大ダメージを与えておくのか。

 どっちが、最良の選択なのだろう。

 その判断が、鮫介にはつかない。つけるには、あまりにも戦闘経験が足りていない。

 戦闘の経験を積み、酸いも甘いも噛み分けられるようになって初めて、「自爆スイッチはいらない」「自爆スイッチは必要だ」という判断がつけるようになるのだろう。

 鮫介は、自身の世界の常識をこちらの世界に持ち込むことは間違いだと確信している。

 戦争を知らない自分が、訳知り顔で戦争の中で生きている人々に「○○××は間違いだ!」と唱えることは、正しい行為とは思えないから。


「……いえ、いなくなった者をいつまでも偲んでいてもしょうがありません。どうぞこちらにお出で下さい、我らの本陣で配置の説明を致します」

「どうも……宜しくお願いします」


 鮫介は礼を述べると、己の執事であるゴードン、そして近衛部隊の責任者であるジン隊長を引き連れてナヴェを追う。

 いよいよ、明かされるのだ。

 鮫介の知らない、この世界で行われている『戦争』というものの実態が。


 鮫介は知らぬ間に、ごくりと唾を飲み込む。

 それは緊張からか、あるいは言い知れぬ焦燥からか、それとも早く戦闘をしたいという歓喜からか。

 鮫介には、分かろうはずも無かった。




今日は僕の誕生日です。祝ってくれていいのよ?

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