最終試練(前編)
どうも。生きてます。
2ヶ月も放置してしまってすみません。これからはきちんと続きを書ける……といいなぁ……
やあ、こんにちは! フルペ・フェグラー・メヘレー・シャープだよ!
私はフェグラー領に存在するエッヘレウリ社所属の新聞記者なんだが、周囲から煙たがられていてね。
虹の七騎士の真実を追おうと彼らに付いていこうとするのを、止められているんだ。
彼らが勝利した、あるいは敗北したかは、後で彼らと協力して戦った部隊に聞けばいい、と。
冗談じゃない! そんな又聞きのような話に、何の真実があるというんだっ!
憤った私と妻のレヴェッカは虹の七騎士の参加する戦場に忍び込み――そしてあっさりと正体がバレて、戦場から追い出されてしまった。
そして本社に戻った私達を待っていたのは転勤。フェグラー領内の町々を回って、小さな事件を探す仕事。
はっきり言って閑職だ。憤りが頂点に達し、辞めてやる! と意気込んで辞表を片手に事務所に乗り込もうとしたところ、レヴェッカに取り押さえられて失敗してから一年は経過したか。
確かにうちの生活費は私の酒代とタバコ代でなかなか厳しいけどね。でもギャンブルには一切手を付けてないし、レヴェッカの趣味の洋裁代より遥かにマシ……痛っ! 殴るなよベッキー! しかもグーで!
ええと、こほん。そうやって街中の何々さんが今日百歳を迎えられただとか、何々さんの店が創立五十年を突破しただとか、そんなニュースばかり追い求めて腐っていたある日。
領主のアルキウスさんから、電報が届いたのだ。
内容は、フェグラー領の誇る異世界の勇者のための機体・虹の七騎士が一つ『時空機士クロノウス』の密着取材。その許可証だった。
正直、最初は信じられなかったね。
何せ、領主様から直々のご指名だ。最近新聞に名前の乗らない私達に、どうして許可を出せるというのだろうか?
しかし、内々に調査をしているうちにこの疑問は氷塊した。領主様は子飼いの兵士や神官などを使い、その辺りの調査を徹底していたのだ。
マスコミ関係各所への直接取材から、こちらが間接的に関わっていた取材対象への調査、果ては近所に暮らしている一般人への印象評価など、その徹底っぷりはマスコミ人であるこちらを戦慄させるほどのものだった。
果たして、それ程する価値が異世界の勇者様にはあるのだろうか? それとも、なにか別の事案を含む調査なのだろうか?
謎は残ったが、密着取材は喜んで受けることにした。時空機士クロノウスといえば、数多くの秘密を持つロボット。その取材を出来るというのだから、光栄なことだ。
そして初めて出会った異世界の勇者・オトナシ・ニーガタ・ネア・コースケ殿は、いかにも戦争を知らない国から来たような大人しめで心優しく、よく気が付く少年であった。
約束された対面の日、それまで私は彼のことを、前線に飛び出して働く勇敢な戦士のように考えていた。これは彼がこの地に召喚されて間もなくカオカーン潰しと交戦し、これを打ち倒した評価から来ている。
まだ訓練を受けている最中だというのに、大型イニミクスと交戦したというのは彼が好戦的な性格であり、自分からカオカーン潰しの潜伏先を発見し、これを駆除しようと考えたから……と思ったからだ。これは私の評価だけではなく、街中で噂される勇者様の伝説に寄るものもあった。
曰く、勇者様は先代の勇者の子を説得するために山を越え、深夜の草道を歩み続けて熊と出会ってこれを打ち倒し、朗々と先代勇者の娘に領主の素晴らしさを語って聞かせる。やがてイニミクスが襲撃し、二人は危機に陥るが愛の力(いつ芽生えたんだろう?)でこれを退け、次元の彼方よりクロノウスを召喚。虹の機士たちと力を合わせて大型イニミクスを激突し、ついにこれを滅ぼす必殺の一撃を放ってこれを打ち倒した……というものだ。
勇者様にその話を聞かせたら、爆笑した後に否定されたっけな。「僕の力だけでは到底敵わなかった。みんなのおかげで掴んだ勝利です」って。横に居た彼の婚約者にして先代勇者の娘……クヤコハル様はそんな勇者様にしなだれかかり「遠慮が過ぎるぞ」と笑っていたけれど(そしてすぐに追い散らかされていたけれど)。果たしてどちらが真実なのだろうか? それを調べるのが私の役目だ。ブン屋の腕が鳴るぜ。
勇者様はその後もこちらのお茶が無くなっていることにすぐ気付いたり、肩に糸くずが付いたままになっていたことを指摘したり、レヴェッカがソファが柔らかすぎることに難儀していたことに注目したりと、とにかく気を使う少年であった。
これは真っ当な教育の賜物であろう。彼の暮らしていた平和な日本というのは、あらゆる庶民に教育を受けさせ、成績の良い者には(返却は前提らしいが)奨励金すら与えることもあるという。
我がフェグラー領では貧乏人の庶民も学校に通えるのになったのはつい最近のことで、他の領ではまだまだ貧乏人には教育を受けさせられないところも多い。それを考えれば平行世界の日本というのは裕福であり、とても幸福な世界なのだろう――そんな世界から、このイニミクスの驚異に満ち溢れた危険な世界へ勇者様を引っ張り込んで来た、という話にもなるわけだが。
閑話休題。勇者様は肉体は筋肉質というわけでもなく、肌は白くぷにぷにと柔らかい。眦は優しげで、前述した通りよく人の困り事に気が付く。血走っていたり、イニミクスを滅ぼそうとあちこちに目を配るようなこともない。純然たる銃後の人間――後方でお弁当でも作っているような、そんな仕草が似合いそうな少年だった。
これが、勇者?
私は酷く困惑していた。彼に与えられた「勇者」という称号と、実際に討伐したという大型イニミクス打破の実績。それが眼前にいる少年と結び付かなかったからだ。
勇者と呼ばれるからには、彼はもっと――「強い」人間だと私は考えていた。騎兵に筋肉は必要ないとはいえ、その姿は無駄な脂肪を削ぎ落とした筋肉に張りのあるボディ。その性格は明朗快活で、一切の邪悪を許さない正義の執行人。一般の人が思い浮かべる「勇者」の姿はそんなところだろうか。実際、過去に召喚された飛鷹藤助や九夜勝利はそれに似た体格・人格だったという記録も残っている。牧葉圭子? まぁ……ほら、彼女は女性だし。
ところが、実際に出会ったコースケ殿はそんな一般的な想像の「勇者」からかけ離れた、如何にも貧弱で傷付きやすそうな肉体に、どちらかといえば知恵者寄りの考え方。多少の邪悪――実はコーヒーカップを床に落とす粗相をしてしまったのだが――は笑って許し、イニミクスに対しても特別怒りや憎しみを感じたりはしない。
そんな男が、勇者と呼ばれている。私はその疑問を、直接コースケ殿にぶつけることにした。勇者と呼ばれることを、重荷に感じることはないのだろうか――と。
コースケ殿は薄く笑い、何処か遠い目で何かを思い出すように、我々に語ってくれた。
「全然。この領の――いや、この世界の人たちはみんな僕を「勇者」と祀り上げてくれる。僕を「勇者」として必要に思ってくれる。それなら、僕は「勇者」の役を演じるだけさ。いつか、この世界から「勇者」の存在が要らなくなるその日まで……ね」
「心配するなコースケ! 世界中の人々が「勇者」の存在が要らなくなったとしても、あたしはお前を必要としているからな!」
「……はは、は。それは……うん、嬉しいな。だけど小春、お前取材中に割り込むなって何度言わせれば……」
「わーっ! ごめんってば!」
隣にいる婚約者のコハル殿とそんなじゃれ合うようなやり取りをしながら、笑顔を浮かべるコースケ殿の目は。
自分が「勇者」の役をやることを、喜びを持って迎えている――そう、信仰心篤き神官のように純心で。
少し仕事を外されたくらいでぐだぐだと妻に愚痴を呟いては腐っていた私と比べて、とても勇者らしいと、感じたのだった。
そして、現在。
コースケ殿は平行世界から召喚された勇者にしか乗れないと噂の時空機士クロノウスに搭乗し、オトナシ近衛部隊――いや、そう名乗っているだけで実際はクヤ近衛部隊なんだろうが――と、対決する運びとなっている。
未だ訓練期間中の(大型イニミクスを討滅しておいて何を言っているのか、という気がするのだが)コースケ殿が戦場に向かって大丈夫なのか、その力量を確かめるための最終模擬戦という話だ。
いよいよ、時空機士クロノウスの戦闘力が衆目の前に晒される。我々はそれを記事にするため、こうして外側の安全地帯でその光景を今か今かと待っている最中だ。
レヴェッカはカメラを構えてその瞬間をウキウキと待ち構えている。表情にこそ出さないが、私はそれが分かるのだ。夫婦だからね。
「クロノウス、起動」
そうこうしているうちに、勇者様が時空機士を起動させる。
コクピット席でマニューバーに触れているであろう勇者様を写真に収められないのは残念だが、生憎とそこは不可侵と禁止命令を出されている。クソッ……と思わず悪態をついてしまうが、婚約者のコハル殿ならば入れるのだろうか。コースケ殿は邪険に扱っているようだけども。
そうして、模擬戦は始まった。
今回の戦闘相手はオトナシ近衛部隊の九人。隊長のジン殿は審判、副隊長の三人は参加せずにコースケ殿を……お、応援? ……している。
前衛をサイコバリアを左腕に生じさせた盾役が努め、その後ろに短機関銃を構えた後衛が並び、更にその背後には罠を仕掛けた工兵たちが今か今かとトラップ作成に勤しんでいる。
正直、バランスの良い布陣に見える。この部隊を突破出来るのだろうか……勇者殿は?
「今代の時空機士クロノウス、ついに出陣! 民衆は新たな勇者様の活躍を期待していますよ!」
勇者殿へと、ブン屋ならではのエールを送る。
時空機士クロノウスはその姿を衆目に晒し、力強く屹立していた。人に寄っては感涙するシチュエーションであろう。フェグラー領で暮らす信心深い老人たちはこの光景を目にするだけで涙を流すに違いない。
クロノウスは地面に置かれた『武器庫』――樹甲店なるトホ領のメーカーが送ってきた様々な武装満載の箱――からプレーンなロングソードを取り出し、構えた。
右腕を一閃し、右腕のロングソードが前面右翼の敵のサイコバリアと衝突する。当然の結果として剣の威力は失われ、鍔迫り合い(相手は盾だけど)の形となった。その間に前面左翼から別の隊員が距離を詰めてきたので、クロノウスはサイコバリアで相手のサイコバリアを防ぐ。
だが、その間にも背後から敵機が迫っている。両腕を封じられ、どうするのだろうか――と、訝しむ私の目の前がクロノウスは半回転しながら左脚でローキック。背の低い機体には直撃のコースだ。慌ててサイコバリアで攻撃を防ぐものの、機体の外からでも分かるくらい驚いたアクションを見せている。
「よっしゃ、かかってこい!」
クロノウスから聞こえてくる、勇者様の威勢の良い声。
だが、この状況をどうするつもりなのだろうか? 三方を盾役に囲まれ、片足も使用して身動き取れない状態だ。果たして……?
と。クロノウスが伸ばした左足をひょこひょこと……ええと、あれは蹴って……いや、バリアを突っついている、のか? とんとんとん、とリズムを刻むように……と、次の瞬間。背後で蹴りを受け止めていた機体のサイコバリアが破砕され、その機体が大慌てで飛び退く。両目のカメラアイが瞬きをするかのように点灯し、搭乗している騎兵――確かゼルグラックという名前だったか、その焦燥ぶりが目に見えるようだ。
サイコバリアはあらゆる衝撃を無効化し、全ての打撃を受け止める。その反面、割れやすく脆いというのはよく知れた弱点だ。しかし、その弱点を並行世界からやってきた勇者様が知っていたのは素直に驚いた。きっとゼルグラック氏も同じ気持ちだったのだろう。眼前で自前のサイコバリアを割られた彼の心境は、驚天動地だったに違いない。
普通サイコバリアを割られてもいいように何重にも張り巡らしておくサイコバリアだが、ゼルグラック氏は多重サイコバリアを形成するのが苦手なようだった。驚き竦むゼルグラック氏を尻目に勇者様は直様片足を戻し、バックステップ。(歩幅の関係で)ゼルグラック氏のライヴェリオの隣に並び、同時に右腕を振るう。ゼルグラック氏は腰元からナイフを取り出して受け止めたことで、距離を離されるもののどうにか防いだようだった。
「ぐぅ……!?」
「やはりな! お前のサイコバリアは巨大で幅が広いが、多重になっていない!」
「し、知っていたのですか……!」
「いいや、知らない。だが、気付いていたよ。お前が訓練の時、いつも連続攻撃を受けないよう振る舞ってたことをなっ!」
クロノウスは右手の剣を振り回し、連続攻撃をゼルグラック氏に仕掛ける。
これにはゼルグラック氏は大慌てで腰のナイフでどうにか防ぐも、防戦を強いられていた。むしろあんな小さなナイフで剣の攻撃を全て弾いている事実を褒めるべきか。
「くっ……! 勇者様、お覚悟を!」
「空間膨張! ディメンション・エクスパンション!」
ゼルグラック氏の背後にいた別の男性――セレベタル氏が短機関銃の筒の先をクロノウスに向け、弾丸を放つ。
だが、その弾丸はクロノウスが唱えた念動力によって、クロノウスの眼前の空間を泳ぐがごとくゆっくりと進んでいる。事前調査によると、あれは空間を膨張させて相手の攻撃を防ぐ念動力らしい。
原理は私の拙い脳内では完璧に把握出来なかったのだが、あの様子は目で見て理解出来る。吐き出した銃弾が超高速で飛来するが、クロノウスの眼前の一定の範囲に入った瞬間から動きが緩慢なものに変化したのだ。水中を泳ぐように、ゆっくりと。
あれが空間が膨張している証なのだろう。つまりあの場所には我々の想像もつかないような『距離』があり、弾丸はずっとその距離を進行している……というわけだ。そのうち力を失い、落下するに違いない。
セレベタル氏は己が発射した弾丸がクロノウスに命中しないことを悟り、チッと舌打ちしてゼルグラック氏の背後に逃げ込む。
「や、やりますね……!」
「お前たちは僕がどれだけやれないと思ってたんだ……? 僕はお前達におんぶに抱っこで守ってもらう子供じゃないぞ!」
勇者様は駆け出すと武器庫から新たな打撃武器――小型のハンマーを取り出し、そのままの勢いで今度は正面左翼にいたライヴェリオ――メルボア女史に突撃した。
右手の剣と左手のハンマーの二刀流で、挟み込むように同時に降る。その必殺の一撃を、サイコバリアを生じさせて受け止めるメルボア氏。衝撃が吹き飛び、それが実際の絵面としてサイコバリアに生じる波紋となる。うーん、美しい文様だ。
「ぐぅぅ……! 狙いは、私か……!」
「六機に囲まれてピンチの状況だ、倒せる敵からどんどん倒していくぞ」
「私を! そう簡単に倒せるとは思わないでいただきたい!」
パリパリ、と。メルボア女史の機体を一瞬、紫電が走った。
紫電はどんどんと面積を広げ、やはて肉眼でしっかりと視認出来るレベルで機体の装甲を駆け抜け、そしてぐっ、と何かを溜め込むような動作をメルボア女史が行い、紫電の塊を周囲に放射する。
「紫電全方向放射!!!」
「おぉぉ!?」
彼女を中心として、目測でおよそ半径15メートルほどの範囲が紫電で染まる。
地面だけではなく、空中に至るまで放射された電流の範囲内。その紫電疾走る世界の中を、慌てて飛び退る影が一つ。
「ば、馬鹿野郎! 仲間が近くにいるかどうか、確認してから使えよなっ!」
「あっ!? ご、ごめんなさいクゥシン、つい……!」
その影はメルボア女史の背後で短機関銃を構えていたクゥシン女史のライヴェリオだ。あまりに慌てていたのかバランスを崩してその場に尻もちを付き、腰を抜かしたまま抗議している。
「で、でも! 時空機士クロノウスはご覧の通り、私の紫電の網に捉えたわ!」
「どこに?」
「え? ……あぁ!? いないっ!?」
メルボアが前方を見やり、こちらも大慌てで視線を左右に降る。
しかし、勇者様の姿は何処にもない。
果たして、どちらに移動したのか。その答えは、段々と大きくなる影が示していた。
「上かっ!?」
「正解だっ!!!」
「ふげっ!!!」
声に導かれて上方を仰ぎ見たその瞬間、クロノウスの攻撃がまさに迫っていた。
右手の剣と左手の槌、振り被って放った双方がクゥシン機の頭部に思い切り突き刺さる。がごん、という金属がひしゃげる音が鳴り響き、頭部を激しく強打されたライヴェリオが大地に沈む。
そう。クロノウスは雷が周囲を包み込む瞬間、簡易テレポートで空中に逃走していたのだった。そこから落下しながらの強襲。素晴らしい、まさに戦闘の権化。
およそ、戦を知らぬ世界の人間とは思えぬ戦い方だ。
「クゥシン、アウト! クロノウスが近くにいないときに戦場の外に移動しておくこと!」
「ち、チクショー! 決闘ではあんなに活躍出来たのに、一番に敗れるなんてーっ!!!」
コハル殿の身柄を駆けたガムルド領での決闘騒ぎ(当然私と妻も観戦した)で大活躍をしたクゥシン機が一番最初に脱落。これは衝撃的だろう。
クゥシン機の敗北の姿を(非情だが)写真に写している妻を横目で見ながら、私はクロノウスに注目する。
さぁ、ここからどうするのか。どう押し返してくれるのか。
私は興奮と期待と、そして……
「チィッ! ならば接近戦で行きますよ、コースケ様!」
「来いっ! 勇者鮫介、逃げも隠れもしないっ!!!」
領主様へのとある感情を隠して、この戦いの結末に集中するのだった。




