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時空機士クロノウス  作者: 宰暁羅
時空転移編
5/115

ラライラーイ、ラララーイ




 かくして第一村人に遭遇した音無鮫介は勇者と認められ、この異世界を守るため最強の装備が与えられた! やったね!




 ――なんてことは勿論無く、フィオーネと名乗った超絶美人に連れられて、フェグラー領にある神殿とやらに向かっている最中だった。

 本来、鮫介はそこに召喚されるらしかったようで、この地までぶっ飛んだのは原因不明のミスということだった。

 ミスならしょうがない。と、鮫介は召喚主を責めることなく、フィオーネが両肩を掴んで運んでいる最中のロボットのコクピット席に座り、若干傾いたまま悠然と待機している。

 奇妙だと、フィオーネ女史は言った。

 本来、このロボット――時空機士『クロノウス』は僕のものであり、個別の『マニューバー・クリスタル』……ひじ掛けの紫水晶……に触れて反応がないのは、おかしいらしい。

 そのフィオーネ女史だが、髪色と瞳の色は茶色になっていた。それが元々の色らしい。

 フィオーネ女史の乗るロボット――万雷機士『ガルヴァニアス』は七色の黄色であり、搭乗の最中はそのように変色するそうだ。黄色というより金色に見えたんだけど……

 フィオーネ女史が答えてくれたのはその辺りで、詳しいことは召喚した領主兼神殿長に聞いてくれということだった。


(ううむ……)


 口元に手を当て、悩む鮫介。


(このロボット……クロノウス、だっけ……が、反応しないのは、召喚する相手が僕じゃなくて響太郎……だったからでは……)


 思い出す。召喚されたときの教室を。

 あのとき。確かに鮫介は見た。おそらく、召喚に使われたのであろう幾何学模様。あれは、一体どこに生じた(・・・・・・)

 記憶している限り、()()()()()()()()()()()()()

 そして手が伸びて、僕と響太郎を飲み込んだ。

 飲み込んだ後、何かあったような気がしたけど……忘れてしまった。


(つまり……クロノウスが必要としているのは響太郎で……彼はこの世界のどこかに召喚されているのでは……?)


 響太郎は……凄い奴だ。勇気があるし、優しさもあって、異世界召喚なんて響太郎にまさにぴったり。

 僕は……おまけだ。あるいは、仲間その一。僕を助けるより、響太郎を探すことに力を尽くすべきなんじゃないだろうか。


「僕は……」

『はい。なんでしょうか』

「っ!!?」


 呟いた小声をつぶさに聞き取り、フィオーネが鮫介に尋ねる。

 鮫介は瞬時に悩む。即ち、フィオーネに響太郎のことを尋ねるか、否か。


「……い、いえ。神殿までは、まだ?」

「はい。もう少々お待ち下さい」

「わかりました」


 言えない。

 鮫介は音を立てないよう、静かに吐息を漏らす。

 自分を召喚した領主兼神殿長とやらに、密やかに話してみるしかないだろう。






「ようこそ! ようこそいらっしゃいました、勇者様!」


 領主兼神殿長……とやらはずいぶん気さくな人のようであった。

 ロボットが神殿の入り口に到着するなり神殿を飛び出し、周囲の人に支えられながら両腕をぶんぶん振り回して歓迎の意を示している。

 これは……なんていうか……話しづらい。

 鮫介が逡巡していると、上から誰かが飛び降りてハッチへと着地した。

 フィオーネだ。すっかりブラウンとなった髪の毛を掻き上げ、こちらに手を伸ばす。


「さあ、勇者様」

「……う、うん」


 鮫介はその手を取り、ロボットの外に出た。

 神殿は……まさに神殿という言葉から予想される外観をしていた。構造としてはピラミッドに近く、長方形に切り結んだ石を何段も重ねて神殿を形作っている。

 神殿の周囲にはそれっぽい服装をした神官たちがあちこちにおり、こちらに向かって手を降っている。

 フィオーネ女史の格好はユニセックスな法衣であり、この神殿の様子に似合っていた。

 やがて、領主兼神殿長の前に連れてこられる。


「こんにちは勇者様! すみません、召喚場所が変な位置になってしまって」

「い、いえ。お気になさらず」


 領主兼神殿長は、アルキウスという名前で、顔は若く見えるが髪の毛は金髪の面影が少しだけ残る白髪。顔色に生気はなく、今にも倒れてしまいそうな雰囲気を醸し出していた。


「フィオーネ。すまなかったな、お前に無茶をさせて」

「いえ。構いませんよ、アルキウス」


 フィオーネはアルキウスの謝罪を受け入れ、微笑みを浮かべている。

 ど、どういう関係なんだ?


「フィオーネ様は、アルキウス様の奥さんです」


 途端、慌てだした鮫介に気付いたのか、隣にいた若い神官が、こっそり耳に入れてくれる。

 結婚してたのか……というか、よく見れば左手の薬指に指輪がある。

 この世界でも、指輪の交換文化があったのか……


「フルディカ・ダロン・ネア・フィオーネと申します。普段はナセレ・ダロン・ネア・フィオーネと名乗っておりますが……」

「フルディカ……ナセレ……はぁ」

「ははは。コースケ君、我が国も貴殿の祖国と同じく、名字・名前の順番で名乗っているのだよ。フルディカやナセレは性、ダロンは産まれた領。ネアは職業。フィオーネが名前だね」

「な……なるほど……?」

「では私、フルディカ・フェグラー・ネア・アルキウスが、この世界のことを教えよう」

(フルディカが性、フェグラーが領、アルキウスが名前……ふむ)


 心の中で復習しながら、鮫介は彼の言葉を待った。


「さて。コースケ君が知っているかわからないが、ここは古に沈んだはずの幻の島……ムー大陸なのだよ!」

「ム……ムー!?」


 鮫介は目を白黒させる。

 ムー大陸。それが流行ったのは何十年昔だろうか。一夜で沈んだとされる、幻の島だ。

 一万二千年前。ムー大陸には地上よりも優れた科学を誇るムー王国が存在した。しかし一夜のうちに巨大地震などの天変地異で滅んだとされる。

 現在ではインチキだったと言われ、そのような大陸は存在しない。そう結論付けがされているのだが……


「とんでもない! ムー大陸は確かに存在した。だが、尊き王が一万二千年前、この世界に大陸を転移させたのだよ!」

「はぁ」

「なんだねその気のない返事は!? 確かに王が一万二千年前、何の驚異と戦っていたのか、それは分からない! だが、それ以来我が国は王を神と称して奉り、王の残した虹の七機士と共にこの地を治めているのだよ!」

「…………はぁ」


 気のない返事と言われても困る。こちらは考古学に関する驚愕で何も言えない状況なのだ。ん、虹の七機士……?


「その、虹の七機士というのはひょっとして」

「おっと、そこに気付いてしまうとは、やるねぇ」


 アルキウスが人差し指を鮫介の胸に突き立てる。若干ウザい。


「虹の七機士、それはかつては王に仕え、今はこの大陸の守護の要たる七機の巨人。フィオーネの乗る万雷機士ガルヴァニアスや、コースケ君の搭乗する時空機士クロノウスも、名を連ねているよ!」

「はぁ」


 ここだ。ここで「僕、乗れません」と言うしかない。

 鮫介は息を吸い込み、


「あの」

「ところが、現在は乗り手の数が減っていてなぁ」


 しかしアルキウスは勝手に言葉を続けていた。


「僕」

「ああ情けなや。機士に選ばれるには念動(ちから)に優れていなければならない。しかし近年、その資質は落ちるばかり。現在稼働しているのはここにいる二機を除くと『爆焔』と『砂煙』、『凍結』だけだ。『波濤』と『烈風』は乗り手が見つからずに死蔵されておる。そして『爆焔』は乗り手を失ったばかりだ……!」


 ぎょろっと、アルキウスが力強い視線を向ける。


「故に! 故にかつてムー大陸が存在した平行世界から、強い力を持った貴方を召喚したのです、コースケ君! 必ずや私達を救ってくださると、信じていますよ!」

「せん――」


 小声だったので、熱弁を振るうアルキウスには聞こえなかったようだ。

 あるいは、聞こえなくて良かったのかもしれない。こんな常軌を逸したおじさんに「乗れません」なんて伝えたら、どんな目に遭わされるか。

 それより、会話の中で見過ごせないものがあった。


「ちょっと待ってください。『強い力』――? 僕はその、念動力……ですか? そのような力は所持していないのですが」

「うむ! それはあなたが使い方を知らないだけです!」

「はぁ」


 さっきから「はぁ」しか言ってないな、と思いつつ、他にどう答えろと言うのだろう。

 鮫介は、再び「はぁ」と答えて、アルキウスの言葉を待つことにした。


「あなたの世界で、あなたは念動力に目覚めていなかった。それは、きっかけが無かったからなのです! きっかけさえあれば、あなたは内に眠る莫大な力を扱うことが出来るでしょう!」

「きっかけ……」


 鮫介は自分の右手の手のひらを持ち上げる。

 力をこめた。

 なにも起きない。

 本当に、そんな力が扱えるのだろうか?


「ムー大陸はこちらの世界に転移した後、当時の虹の七機士の出身それぞれ7つに分譲された。それが今も続く7つの領だ。ここはフェグラー領。かつての英雄フェグラーが治めた地さ」

「フェグラー」

「フェグラー領の領主は、時空機士の乗り手にはなれない。だが、時空機士の力を借りて、かつてムー大陸の存在した君の世界に干渉が出来る。莫大な生命力と引き換えにね……ゴホッ、ゴホッ」

「アルキウス!」


 さっきまで生力全開といった様子で喋り続けていたアルキウスが突然咳き込み、脇にいたフィオーネがそれを支える。

 成程。

 アルキウスさんの容姿が色々とチグハグだった原因に、ようやく思い至る。


「君は……多分、御両親が古ムー大陸人の末裔なのだろう。その二人が交わり、君という力を持った子が産まれた」

「うちの両親に、そんな血縁関係は無いと思うのですが……」


 どこにでもいるサラリーマンと公務員だ。


「末裔といっただろう! 気の遠くなるほどの祖先が、子を成したのさ!」

「はぁ」


 一万二千年前……石器時代か?

 そのころの人間は、まだ知能が薄く、獣と遜色ない暮らしをしていたはずだ。

 それが……交わって、子を残した? そのチャレンジ精神は、あまり想像したくないが……


「しかし……今。このムー大陸は危機に瀕している。『イニミクス』――君が遭遇した、あの黒い獣にね」

「イニミクス……」

「あれは小型でね。まだまだ中型、それに大型もいる。既に北部のテルブ領やナロニ領は、半分は奴らに制圧されている。それらを開放すること、それが君の……いや、我らの悲願なのだっ!」


 アルキウスが片腕を振り上げて叫ぶと、周囲にいた神官たちも同調して叫んだ。

 それにより、鮫介は彼らの本気さを知ることになる。

 本当に、彼らはあの黒い獣……『イニミクス』に困っており、それの排除を望んでいるのだ。


「君のために屋敷を用意した。ここから北東に進むと見えてくる。フィオーネに運んでもらうといいだろう……どうやら、クロノウスに乗ることが出来ないみたいだからね」

「!?」

「大丈夫、大丈夫! 『時空』は君を選んだからこそ、この地に召喚したのだ。今は乗れなくて、そのうち乗れるようになるさ!」


 気付かれていたことに驚き、鮫介は瞠目した。アルキウスは朗らかな笑顔を見せ、咳き込んでいる。

 乗れるようになるんだろうか。

 背後のクロノウスと呼ばれる巨人を見上げ、鮫介は心の内に本音を隠した。




 あなたが呼んだのは、僕じゃなくて響太郎だったのでは? ――と。




領名と苗字には、とある関係性があります。

普通は気付きません、こんなの

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