表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
時空機士クロノウス  作者: 宰暁羅
時空転移編
4/115

第一村人遭遇!




「……これから、どうすればいいんだろう」


 三十分後。

 ようやく放心から開放された鮫介は、腕を組んで静かに頭を悩ましていた。


(待ってても誰も来ないし、移動するべきなんだろうけど……)


 ちらりと、ハッチの下方を覗き見る。

 二十数メートルはある、奈落の空間。落ちたら、まず助からないだろう。

 鮫介の乗っている巨大ロボットは、最初からその姿勢だったのか、それとも何かしらの事故でも発生したのか、崖を背面にして中途半端に腰を下ろしていた。あちこちに巨大な布が敷かれており、その全体像を確認することは不可能。かろうじて、あちこちの隙間から色彩をどうにか確認出来る程度だ。

 全長、およそ三十五メートル前後。機動戦士なアレより一回りも二回りも大きい。


(この……仮称ロボットが動かないんだよな。電源スイッチらしきものが見当たらないし、ボタンを押してもうんともすんとも言わない。何か……充電とか必要なのか? ここには、そんなものは見当たらないけど……)


 そもそも、移動してどうなるというんだろう。

 まったくの未開の地、現地人と遭遇出来たとしても日本語が通用するとは到底思えない。まさか、遭遇した純日本人が朗らかに「やあ! ここが有名な鳥取砂丘だよ!」なんて言いはしないだろう。そうだったら笑ってやる。

 鮫介は顎に手を添え、最後に見た光景を思い返す。

 意図こそ不明だが、あれは異世界召喚……のための何か、だろう。空想だとか電子映像だとか、そんなものではとても言い表せない生々しさがあった……ような気がする。多分。鮫介に救いを求めているのか、それとも食料にするためかは不明だが、何かしらの『術士』的な存在が呼び寄せた……んじゃないかと、思う。

 それなら、やはりここで待つべきなのではなかろうか。

 自分から行動を起こして、それが原因で取り返しのつかない失敗をしたら最悪だ。責任は自分ではなく、他人を押し付けるべきだろう。

 無論、術士が『異世界の人間を召喚して食料にしてやるぜ!』的な要因で鮫介を呼び出した場合、絶体絶命の危機に陥るわけだが――


(……面倒くさいな)


 はぁ、と苦いため息をつく。

 こんな時、響太郎がいてくれれば――そう考えてしまう自分が情けない。

 響太郎なら、迷うこと無く行動している。自らの足で動き出し、尻込みする鮫介の肩を叩き、大丈夫、何とかなるさと笑いかけ、結果として本当にどうにかしてしまうのだ。

 だが、ここには鮫介しかいない。自分で考え、自分で行動し、自分のやることに責任を持たなければならない。


(……僕があの時死んでれば、良かったのに)


 諦観の眼差しを虚空へと向けつつ、鮫介は『待機』を選択する。

 そして投げやりにハッチへ寝転がり、目を閉じた。

 何故、響太郎は自分を庇ったのか。

 その回答を、延々と熟慮しながら。






 二時間後。

 麗らかな春の陽気に誘われてウトウトしていた鮫介は、遠くから迫る足音に飛び起きた。

 見れば何やら黒い物体が群を成し、地平線の向こうからてとてと近づいて来ている。

 随分と小さく見えるがこの距離であの大きさなのだ。実際はかなり巨大な物体だろう。


(なんだ、アレ)


 目を細める鮫介。

 黒い物体は、なかなかユーモラスな外見をしていた。

 全身真っ黒。手足は短く、歩くことに慣れていないのかよくバタつかせており、前後にいる同種に掴みかかってはどちらも転んでいる。

 その動きの滑稽さは小動物じみていて、見ていて飽きない。


(され、アレは……思いつく限り、2通りあるが)


 1。僕を迎えに来た何者かの乗り物。

 2。僕を抹殺しに来た生物兵器。


(2とは……思いたくないな。なんか可愛いし)


 まるでハムスターがうこうこ蠢いているような稚拙な歩行動作に鮫介が和んでいると、その生物は奇妙な行動に出た。

 眼前に岩が存在していた。通行の邪魔だ。普通なら避ける。多少頭が悪ければ、まぁ、登頂にチャレンジしたりするかもしれない。

 だが――


「!?」


 鮫介は、吐息が口から漏れるのを抑えられなかった。

 岩を眼前にしたその黒い生物は、右肩の辺りから何か突起のようなものを生やした。その速度は異様なほど早く、生物としてあり得ないレベルだった。

 突起はどんどん形状を変質させ、まるで漆黒の大鎌のような形となる。

 その大鎌が、振られた。

 眼前の岩が一刀両断され、切断面に沿って上部が進行……しない。岩石の上部は黒い生物が文字通り牙を伸ばし、貪り尽くしてしまった。

 貪りながら、黒い生物は進行する。真っ平となった岩石に足をかけ、何事もなかったかのように前進を続ける。


「アレ、は」


 そんな一部始終を目撃してしまった鮫介は、その生物を、先程までのような可愛らしい小動物のように見ることは出来なかった。

 アレは、『殺人生物兵器』だ。

 人を殺すことに特化した、邪悪な兵器。

 もはや生物とは思わないほうがいい。あの大鎌を繰り出すスピードは、幸助の知る並の外界に存在していいものではない。

 それが……複数? 群れを作って? こちらへ一直線に突き進んでいる?


(馬鹿な)


 心の奥底で、あらがえない悲鳴の声が上がる。

 即ち――僕はあれによって殺されるのか? と。

 右肩は役目を終えたらすぐに変形を終了し、右肩に収まっている。残されたのは光さえ吸い込みそうな漆黒の毛皮のみだ。

 闇夜の化身のような謎の生物を前に、鮫介の心臓は鼓動を早め――そして静かになっていく。


(ま、いいか)


 ここで死ぬのなら、それが運命なのだろう。もう一度ハッチに寝転んで、鮫介は瞳を閉じた。

 キー………ン…………

 甲高い音が耳朶に響き、瞼を開く。

 青空に、巨大な物体が見えた。雲を破り、空を裂き、この大空を征くは――


「……ロボット?」


 鮫介がハッチの周囲をうろうろしている、この巨大ロボットに似た何かだった。

 四肢を伸ばし、やたら不自然な体勢で上空を飛行している。

 やがてこちらに気付いたのか、瞳を数度金色に瞬かせた。カッコいい。


(って、モールス信号だったらどうするんだ)


 幸い……というか不幸なことにというべきか、モールス信号なぞ分かろうはずがない。

 黄色をアクセントに、全身真っ白なロボットが高度を下げる。一体どういう機能で高度を制御しているのだろう。さっぱりわからない。

 そして真っ直ぐ鮫介のところへ――来ない。予想落下地点で目測で計算すると……


(あの化物に向かってる!?)


 まさかと思ったが、事実だ。ロボットは高度を落とし、機体の表面に電光のようなバリバリを生じさせている。

 観察していると、そのバリバリはどんどん広がり、機体全てが電光と同一化したかのようであった。半分ロボット、半分電光と化したロボットが、黒い獣に突撃を敢行する。


 光と衝撃音、そして遅れてやってくる衝撃波に、ひっくり返りそうになってそれを耐えたのが五秒。


 再び目を開くと、横倒しになった黒い獣が五匹。ダメージを受けたがまだ無事らしいのが二匹。無傷なのが三匹だった。

 飛来したロボットは、突撃した勢いのまま地面を踏みつけ、まるでスキーをするかのように地面を流れていく。

 後方にいて難を逃れた獣のうち、一匹がロボットに向かい大鎌を生やして振るう。

 その大岩を切断する一撃は、ロボットの差し出した片腕によって止められていた。

 片腕と大鎌の間には……何だろう、何か空間が歪んでおり、なんらかの力場が働いているみたいだ。

 ロボットは上半身を捻り、もう片腕を獣へ差し出す。先程まで機体の表面にあったバリバリが、左腕の掌で球状になっている。

 ロボットは左腕を獣に叩きつけた。ピギャッという悲鳴を上げ、獣がばたりと地面に倒れる。

 何が起きたのか。鮫介は理解出来ない。いや、ロボットがあの電球ボールを放って黒い獣を撃破したのは理解出来る。だけど、どうやってその電球ボールを出したのか。右腕はどうやって刃を食い止めたのか。その辺りが、あの光景を意味分からなくしている。

 もう一匹の無傷の獣が、鎌を作りつつ飛びかかる。ロボットは怯まず、真正面を向いて相対し、中腰になって、両腕を突き出した。

 バリバリと。ロボットの表面を流れていた電流が、唸りを上げて放電される。そのロボットは、自身に集めていた……いや、残っていた? 電流を、前方に放出したのだ。


(うわ……)


 黒い獣は、一匹残らず倒れ伏していた。傷を追った2匹、無傷で少し離れた場所に退避していた一匹まで巻き込んだ放電だった。

 そのロボットは人間臭く首を振り、全員の死体を確認すると、こちらに近づいてきた。

 鮫介の中ではあの黒い獣が自分を始末するため現れた処刑人……所見獣? であり、このロボットのパイロットこそが自分をこの世界に呼び込んだ一派なのではないか、という結論が生じているが、油断は出来ない。

 やがてロボットは鮫介の眼前でストップした。鮫介と、それから鮫介が目覚めたロボットをちらちら見ている。


『……無事ですか』

「お、おおっ!?」


 鮫介は驚いて目を瞬かせた。眼前のロボットから、日本語が飛び出たからだ。


『すみません。言語は通じているはずなのですが』


 そう言って、ロボットのハッチが開く。

 鮫介は呆然と立ち尽くした。

 何故なら、ロボットから姿を現したパイロットは――




 ―――黄金の髪と瞳を持つ、超絶美人の女の人、だったからである。



 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ