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時空機士クロノウス  作者: 宰暁羅
時空転移編
28/119

遥かなる蒼穹の下で




 昔のことを、ふと思い出した。

 小学生のころだったか。響太郎と二人並んで、空を見上げたあの日。

 あの日は学校行事で登山をすることになっていて、僕は響太郎にほぼ無理矢理連れてこられた形で、一番に登頂した。

 下を見れば、小学生用のコースをとぼとぼ歩くクラスメイトの姿が、よく見ることが出来る。

 響太郎はタオルで汗を拭いて、気持ち良さそうな顔をしていた。

 誘えば女子たちの誰とでもと仲良く山登り出来たというのに、なんで僕を連れて登ったのか。

 疑問はいくらでも頭に浮かんだけれども、この青空を眺めていたらどうでも良くなった。

 吸い込まれそうな快晴は、人の夢の象徴なのかもしれない。

 自衛隊の飛行機が爆音を鳴らして、その空を滑空している。

 それを見ながら、鮫介は右手を頭上にかざして、ぽつりと呟いた。


「僕も、あそこに行きたいな」


 それは独り事であって響太郎に話しかけたわけではなかったが、響太郎は僕に視線を向けて爽やかな笑顔を向け、


「それは、飛行機に乗りたいってことか? それとも、パイロットになりたいっていう……?」


 そう問うてきた。

 どうやら、彼に誤解を与えてしまったようだ。鮫介は首を横に振り、小さく微笑む。


「そういうのじゃないよ。ただ、この青空に飛び立って、外界を眺めてみたい……」


 あんなに高いところから下を眺めたら、どんな光景が映し出されるのだろうか。 

 鮫介は、ただそれが知りたかっただけだ。

 響太郎は分かったのか分かっていないのか、ふぅん、と気の抜けたような返事をして、


「飛行機って、およそ1万メートル上空を飛んでるんだってな。前にテレビで言ってた」

「へぇ?」

「正確には八千メートルから一万二千メートルの間……だっけな。そこから下の光景を、眺めてみたいってことか」

「そうなる……のかな」

「そう言ってもな。この島には飛行機なんて自衛隊のものしか無いし……自衛隊に入隊するか?」

「もう。言ってみただけだよ」


 そう言うと、響太郎はなんだ、と興味を失ってしまったようで、山を登っているクラスメイトの話に移ってしまった。

 鮫介はその話を静かに聞きながら、心の中で青空に別れを告げる。

 さようなら。

 いつかそこに行けたら、きっと僕を迎えてね。




 ああ、響太郎とそんな話をしたっけ。

 でも響太郎。

 僕は今、その青空の下にいるよ。

 現在地、高度一万メートル。

 飛行機に乗らず、自衛隊に入隊もしてないけれど、その光景を目撃したんだ。







「ここが、限界、か……!」


 テレポートを解除する。

 空の下には、雲海。もはや高々度の白雲さえ突き抜けて、その位置にクロノウスと、そしてカオカーン潰しレ・カオカーン・ヴォルンは存在していた。

 周囲の様子が、視界に映る。

 現在時刻は午前の十字前後。夜だったなら、街の明かりが綺麗に灯っていだろうに……

 いや、と鮫介は思い直す。

 ムー大陸以外の町や都市は、全てイニミクスに滅ぼされたのだ。生き残っているのは、鮫介が召喚されたこの大陸だけだ。

 少々残念に思いながら、視点を動かす。

 そして、見た。

 この高度であれば角度的にギリギリ視認可能な、日本の姿を。

 東京、そして大阪に建造された、謎の巨大な鉄板群。あれはなんだろう? まるで……イニミクスの進行を防ぐための、防御壁だ。

 心臓が高鳴る。鼓動がどくん、どくんと激しく高鳴っていく。

 あの縦に突き刺さった鉄板たちが、イニミクスの進行を封じ込めているのならば……その中にいる者は、安全であるといえる。

 今が夜でないのが惜しい。文明の明かりを見れば、人が生存しているかどうか、確認出来るというのに!

 ひょっとしたら、単に跡地であるのかもしれない。でも、可能性が一つ生まれた。

 即ち――日本人が、まだ生き残っている可能性。


「あぁ」


 思わず、陶酔したため息が漏れる。

 初代勇者の飛鷹藤平も、この光景も目撃したのだろうか。

 勝手な想像だけれども、きっと飛鷹氏はあれを見てしまったのだろう。当時はもっと人間を収容出来る避難所が多かったのかもしれない。

 それで、日本に行きたがった。多くの日本人を救出して、このムー大陸に迎え入れたかった。その途中、殺されて終わってしまった。

 そういうこと、だったのかもしれない。


「こ、ここは……!?」

「高度一万二千メートル……この場所にネームドを飛ばした」

「一万!? そんなに高いところなら……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

「その通りだ! 行くぞ、小春!」


 転移したことに気付いた小春に手短に説明し、カオカーン潰しレ・カオカーン・ヴォルンに対して右手をかざし、叫ぶ。


「空間切断……ディメンション・スラッシュ!」


 右手から放たれる不可視の一撃が、空間を裂く。

 一直線に放たれたそれは、しかし薄い傷を与えただけだ。迸る出血量の少なさに、小春が舌打ちを漏らす。


「チッ! 効かないぞ!」

「やはり、空間切断は無効化か……なら、直接仕掛ける!」


 地上まで残り、一万千メートル。

 クロノウスは海を泳ぐように空を泳いで、ネームドの顔面に接近する。

 ここでカオカーン潰しレ・カオカーン・ヴォルンが混乱から立ち直る。地上から空中に突如飛び出した混乱が解消し、目の前の巨体を『敵』と認識する。

 六つの腕がたなびき、クロノウスへと走る。鮫介はサイコ・バリアを展開し、二つを弾き飛ばし、一つに蹴りを入れて跳ね返すが、残る鋏の一つが左足に、一つが胸部装甲に、一つが左腕に食い込んだ。


「鮫介!」

「まだまだ!」


 左足の鋏を右足で蹴り、胸部装甲の鋏を右手を引き剥がす。胸部装甲は鋏がコクピットまで届いているが、致命的な損傷ではない。

 左腕に鋏が食い込んだままだが、痛覚は遮断しているので痛みはない。


「左腕に食いついたままだけど……」

「丁度いい、このまま顔面まで届けてもらうか」


 鋏がぐんと引っ張られ、クロノウスはそちら側に流れる。

 左腕に噛み付いたこの鋏は、カオカーン潰しレ・カオカーン・ヴォルンの右腕から伸びたものだ。引っ張られると、大型イニミクスから見て左上の位置に存在するクロノウスはネームドの顔面の前を通過することになる――!


「今だ!」


 鮫介は機会を見計らってクロノウスの左足をカオカーン潰しレ・カオカーン・ヴォルンの口内に突っ込み、右腕で左腕の鋏を破壊する。

 左足の装甲は噛まれて砕けたが、敵ネームドを真正面に捉えることに成功した。

 地上まで残り、一万メートル。


「行けぇ、鮫介!」

「うぉぉぉぉぉ!!!」


 右手に僅かなサイコキネシスを込めて、振るう。

 ガツン、と大きな音と共に、蛇の形状をした頭部が僅かに逸れ、左足に牙が食い込む。

 その痛みに顔を顰めつつ、鮫介はもう一度拳を振るおうと右手を振りかぶり、


「鋏が来る!」

「!」


 先程弾いた黒い鋏がもう一度狙いを定め、クロノウスに襲いかかった。

 一つは右足で蹴り壊し、二つは右手で腕にあたる部分を切り裂いていたために、残りは三つ。上空に位置するため、鋏が回復することはない。

 三つの鋏が風を斬ってクロノウスに食らいつく。一つは左肩、一つはパックパック、一つは胸部装甲だ。装甲が圧迫されてコクピット側まで迫り、小春が小さく悲鳴を上げる。


「こ、鮫介……!」

「余分なものを食らってる二つは無視だ!」


 胸部装甲を挟んでいる鋏を切り飛ばし、鮫介は叫んだ。

 地上まで九千メートル。

 残る二つの鋏は引き剥がそうと力を込めるが、クロノウスは強引に体に力を入れてそれに反発する。


「耐えろ、クロノウス! 今はとにかく、攻撃あるのみ!」


 右手で何度も殴りつける。カオカーン潰しレ・カオカーン・ヴォルンは口を開いてクロノウスを飛ばそうとするが、牙が食い込んでいるのでそれもかなわない。

 左足の痛覚を遮断し、右手の殴打を何度も、何度も、何度も、何度も、何度も続けた。

 地上まで残り八千、七千、六千メートル。

 ついに鋏が左の肩部とバックパックを噛み砕き、離れる。

 鋏は少し離れた場所で狙いを定め、もう一度突進した。一つは右足、一つは胸部装甲を挟む。三度目の攻撃を受けてついに胸部装甲が破壊され、ぽっかりと巨大な穴が鮫介と小春の眼前に現れた。


「わっぷ! 風が……!」

「手を離して、俺の背中に隠れてろ、小春!」


 胸部装甲の鋏を右手で裂き、残りは右足の鋏のみ。右足の痛覚を遮断し、攻撃を続行する。

 カオカーン潰しレ・カオカーン・ヴォルンは蛇の顔面を真っ赤に腫らして、情けない表情をしている。だが、その双眸はクロノウスに対する殺意に溢れていた。

 地上に堕ちたら、身体に衝撃を迎えるより早く、今まで与えた傷を癒やしてしまうだろう。残り五千メートルで、決着をつけるしかない。


「喰らえぇぇぇぇ!!!」


 フック、ストレート、アッパーカット。右腕による打撃が続き、ついに皮膚を裂き、中の筋肉に突入する。

 風に煽られ、カオカーン潰しレ・カオカーン・ヴォルンは痛そうに首を降る。その弾みで左足を食い止めていた牙が外れ、クロノウスが空中へ弾き飛ばされた。


「くっ……!」

「鮫介っ!」

「小春……背に隠れてろって言ったのに……!」

「うるさい! 一緒に死ねって言ったのはお前だろ! お前の側を離れるなんて、出来るか!」

「……ハッ。それも、そうだな……!」


 そうだ、小春とはもう一蓮托生なのだ。

 このまま地面に激突すれば、自分はもちろん、小春も死ぬ。

 そんなことは許されない。彼女を生かして地上に返すためにも、この作戦は絶対成功しなくてはならないのだ!

 残り四千メートル。

 ここで、脳内に響き渡る、声。


『……まったく。無茶をするな、君は』

「ナレッシュ!?」


 ナレッシュの交信(テレパス)だ。

 しかし、四千メートルも離れた位置に交信(テレパス)を送るなど、どの虹の七騎士にも不可能な技術のはずだが……


『俺は……地上から三千メートルの付近にいる。地上から大空を見上げた時……点が見えたので……こういう作戦なのだと……悟った』

「点で!? ……凄いな」


 天才児だという話は聞いていたが、まさに一を聞いて十を知る……っていうのだろうか、これは。


『とにかく……話している時間は……ない。待っているぞ……』


 交信(テレパス)が切れる。

 地上三千メートル付近にいるというのなら、そこまで行けば居るのだろう。鮫介はクロノウスのダメージを確認しつつ、その言葉を信じることにする。

 黒い鋏の最後の一つが、右足を打ち砕かんと装甲をあらぬ方向に捻っている。鮫介は右手を振るいそれを叩き落とした。

 そろそろ、地上三千メートル。グレイサードの姿は……いた!


「ナレッシュ!」

『任せろ』


 グレイサードは大薙刀を静かに持ち上げて、カオカーン潰しレ・カオカーン・ヴォルンを待ち構えていた。

 その足元には、氷の柱。片足一本分くらいの細い氷の柱が、延々と伸びて地上まで繋がっている。

 まさか、と思うが間違いないだろう。グレイサードはその折れそうな氷の柱を延々と伸ばして、地上三千メートル近辺まで辿り着いたのだ!


『行くぞ』


 落下するカオカーン潰しレ・カオカーン・ヴォルンとすれ違う瞬間、グレイサードは大薙刀を振り下ろし、その胴体に斬撃を加える。

 更に伸びた氷の柱を少しずつ己の念動力で削って相対距離を同一化しながら、舞うように、踊るように大薙刀を振るい、斬撃を与え続ける。

 鮫介にはとてもじゃないが真似出来そうにない。まさに戦闘の権化、天才の所業だ。


『さあ……行くぞ勇者殿……今こそ……ネームドを狩る……時間だ』

「お、おう!」


 削られた氷の破片を散らせて戦うグレイサードはただひたすらに煌めいて美しかったが、グレイサードに見惚れてばかりはいられない。

 鮫介はバタバタと空中を泳ぎ、再びカオカーン潰しレ・カオカーン・ヴォルンの顔面、筋肉が露出した部分を右手で殴りつける。

 途端、ネームドはむずがるように頭を振り、クロノウスの身体がもう一度吹き飛ばされる。

 

「ええいっ! こうなったら……」

「こうなったら?」

「遠距離攻撃だ!」


 右の掌に力を集中、サイコキネシスをマシンガンがごとく放出する。

 蛇状の頭部を狙って放出されたサイコキネシスは何発かが外れ、何発かが命中する。

 しかし狙った箇所に当てるのは難しく、全て皮膚や毛皮の部分に当たったようで、元気そうに首を振っている。


「当たらない! くそっ!」

「ど、どうしたんだ鮫介……あの氷のやつ相手に張り合ってるのか?」

「張り合う? 僕が……?」


 驚いた、というよりぎょっとした顔で、鮫介は小春、そしてグレイサードを覗き見る。

 氷の柱を削りながら胴体を次々切り裂いていく天才児。

 天才と呼べる存在に、鮫介は一つ心当たりがある。決して最初から上手く出来たわけではないけど、最後にはどんなことでも必ず成し遂げてしまう才能の麒麟児。

 ……旭響太郎の姿を、ナレッシュに当てはめているのだろうか。


「いや、まさか。僕は……」


 首を横に降って、妄想を払い飛ばす。

 地上二千メートル。そろそろ地表も近くなって見える頃合いである。

 地上のほうからぐんぐんと何かが近づいてくる。カクカクとした動きで、幾重もの直線をバラバラに重ね合わせた動作のそれは、


「ガルヴァニアス!」


 フィオーネさんの搭乗するガルヴァニアスだ。機体の半分を電流と化し、カオカーン潰しレ・カオカーン・ヴォルンに特攻する!

 流石に胴体を貫通はしないものの、電気による痺れと共に衝撃が伝わっているようで、止めて欲しいとばかりに胴体をくねらせている。

 突撃をしかけたフィオーネさんはブレーキのための足場が存在しないため、スピードそのままに遠くのほうで大きくグラインドしてこちらに戻ってくる。

 戻ってくる途中、交信(テレパス)が飛んでくる。鮫介はびくりと背筋を伸ばした受け入れた。


『……鮫介さん』

「はい! 申し訳ありません!」

「謝罪が早いぞ鮫介!?」

『……別に怒っているわけではありません。作戦自体はこれしかない、という見事なものですし……ですが一言、何をするか告げてから行ってほしかったです』

「はっ……す、すみません」

『……構いません。オトナシ近衛部隊の面々には既に脱出を命じてあります。後は、この敵を地上に至るまでに討滅するのみ……!』


 ガルヴァニアスが帯電したまま、敵の背中に抱きつく。バリバリと紫電を撒き散らせて、体内に電流のダメージを通そうという腹だろう。

 カオカーン潰しレ・カオカーン・ヴォルンは盛大に暴れ散らすが、ここは上空。ぶつけて払おうにも岩などは存在しない。

 結果、直接的に電流を喰らい、苦しみ藻掻く声を上げる。その声を聞きながら、鮫介は動かなくなった左腕に、エネルギーを込め始める。


「何してるんだ?」

「お前もエネルギーを込めろ! 必殺技を食らわせてやる!」

「ひっさつわざ……!」


 その言葉に何か感銘を受けるものがあったのか、小春も目を閉じて集中し始める。

 その間も、敵ネームドはどんどん落下している。地上千メートル。

 地上から、何かが爆焔と共に近づいている。爆炎を蝶の羽のように広げて空を飛ぶ、あの姿は――


『ヴォルケニオン! グンナル様!』

『はっはっは! どうやら、間に合ったようじゃの!』


 現れたグンナル老は相も変わらずの快活な笑いを繰り広げながら、手に持った二本の刀をカオカーン潰しレ・カオカーン・ヴォルンに突き刺す。

 カオカーン潰しレ・カオカーン・ヴォルンは痛みに暴れるが、その勢いは最初の頃に比べると緩やかだ。体力が、残り僅かなのである。


『そら、ディザーディからも援護が来るぞ!』


 見れば、下方から何かが飛んでくる。尖った鉱物を弾丸のように飛ばすそれは、ディザーディの鉱石飛ばし(クリスタル・ミサイル)だ。

 ミサイルはカオカーン潰しレ・カオカーン・ヴォルンに直撃。大型イニミクスは血反吐を吐いて呻く。

 残り八百メートル。

 エネルギーが左腕に込められていく。鮫介は右手を操作して左手に握り拳を作らせ、左腕を相手の顔面――筋肉が表へ出てきた箇所へ向ける。


「……動かなくなってきたな。悲鳴も小さい。チマチマ与えてきたダメージが、ようやく表に出てきたか」


 ずっと腹部側面を斬撃しているグレイサード。背中を雷撃しているガルヴァニアス。

 グレイサードとは違う腹部側面を切り裂き、燃やしているヴォルケニオン。腹部を射撃しているディザーディ。

 彼らの協力無くば、ここまでのダメージは与えられなかった。一人で大型イニミクスを倒そうとするほうが、間違いなのだろう。


「勇者っていうのは、まだ分からないけど。召喚されたからには、勇者としてやっていこうと思う」

「……鮫介?」

「そう、僕こそが勇者、鮫介。響太郎じゃない。僕が呼ばれたんだ。僕が、僕が、僕こそが――勇者だ!」


 地上500メートル。

 左腕のエネルギーは充填された。

 左腕を、相手の顔面へ向ける。狙うは、皮膚を貫いて出てきた筋肉層。

 サイコキネシスを込めた左腕を、テレキネシスで相手にぶつける。

 それは、昔放映されていたロボットアニメの必殺技。拳を飛ばして敵をやっつける、痛快無比、まさに相手を必ず殺す技――


「飛ばせ、鉄拳――」


 叫ぶと同時に、サイコキネシスを発動。ギリギリ繋がっていた装甲が砕け散り、左腕が莫大なエネルギーの塊となって発射される。

 それは、黒き鉄拳。

 あらゆる妨害も、防壁も、難敵をも全て吹き飛ばす、鋼鉄の拳――!


「――ロケット・パンチ!」


 爆音と共に射出された拳は、テレキネシスの誘導により方向を僅かに変え、筋肉の露出した部分に直撃する。

 それどころか筋肉を突き破り、相手の頭部を粉砕し、反対側から突き抜けた。

 まさに、必殺の一撃。

 カオカーン潰しレ・カオカーン・ヴォルンの瞳から、力が失われる。

 ようやく――皆の協力の元、全ての力を出し切って――この凶悪な魔物を、討滅したのだ。


「やった! やったぞ、鮫介!」

「ああ……!」


 興奮して抱きつく小春に苦笑しながら、鮫介はクロノウスをレ・カオカーン・ヴォルンの亡骸へと接近させる。

 地上200メートル。もう時間がない。

 クロノウスの頭部に右腕を触れ、念動力を発動させる。


「時間遅延……タイム・ディレイ!」


 以前は結界のように周囲に貼ったが、今回は個別に選択して発動する。

 途端、ガクンとカオカーン潰し(カオカーン潰し)の落下速度が弱まる。

 あとは自分だ。鮫介は自分に念動力を発動させようとして、


「ぐううっ……」


 力が入らない。

 時間に関する念動力は精神力の消耗が激しい。もう、クロノウスにかけるだけの念動力を発動するだけの精神力が、鮫介には残されていないのだ。


「鮫介……?」

「悪いな……本当に人生を終えてしまいそうだ……!」

「……構わないさ。お前と一緒なら」

「小春……!」


 小春のまっすぐ見つめてくる瞳が、眩しい。

 その瞳に恋愛感情らしき潤みが混じってるのが本当に信じられないけど!

 小春だけは、どうにかして、なんとしてでも助けなければ。

 それが、小春をこの場所に突き合わせた責務。勇者としての挟持だ。

 地上まで100メートル。

 何かが、クロノウスの下に集まっている。


「!?」


 それは、機械のパーツのようであった。

 小さく回転する歯車のようなそれは、如何なる原理によるものか空中を移動してクロノウスの下に待機する。

 総数、十二個。そして全ての歯車が回転して、エネルギーのようなものを出す。

 あの、何処かで見たことのある不可視の盾は――


「サイコ・バリア!?」


 驚きと同時に、歯車の一番上に存在する二つの歯車にクロノウスがぶつかる。

 サイコ・バリアは落下の衝撃に耐えられず、触れた瞬間粉々に砕け散った。

 しかし、歯車はまだ二対ずつ、総勢十個がクロノウスの下部で待ち構えている。

 どんどん歯車にぶつかり、砕けていくサイコ・バリア。しかしその度にクロノウスの落下速度が軽減されていく。


「くそっ! 間に合え……!」

「私と一緒に死ぬのはそんなに嫌か!?」

「お前はそのちょろっぷりを何とかしろよマジで!」


 地上20メートル。

 最後のサイコ・バリアを砕き、クロノウスが地へと落下する。

 しかし落下速度は大分減少しており、精々子供が高い木から落ちた程度で済んだようだ。

 コクピットの大穴から呆然と青空を見ている鮫介に、交信(テレパス)で恩着せがましい声がかかる。


『ディザーディの奥の手を使ったんだ。感謝しろよ』

「……ディンケインさん」

『サイコ・バリア・ビットはあらゆる攻撃を防ぎ切る、六対十二枚の究極の盾だ。この盾を貫く槍など――』

「サイコ・バリア、全部割れたけど」

『なにぃ!?』


 途端、慌てた声。歯車が空を飛び、ふらふらとした動作で何処かへ去っていく。

 きっと、ディザーディのもとへ帰ったのだろう。

 鮫介はそれを見送ってから、我慢出来ないとばかりに、


「……くっくっく、あっはっはっはっは!」

「鮫介?」

「いや……一人でなんとかしようなんて、やっぱり無理だったなって」

「そりゃそうだ。お前が召喚した勇者だからって、何でも任せてたら潰れちまう。だからみんなで協力するんだろ?」

「協力……そうだな、その通りだ。ははは……」


 笑う。こみ上げるおかしさに耐えきれず、腹の底から大きな声で笑う。

 横の小春は最初は奇妙な視線を送っていたものの、いつしかつられるように笑っていた。

 速度の遅くなったカオカーン潰しレ・カオカーン・ヴォルンが地上に落下し、ヴォルケニオンとグレイサード、ガルヴァニアスが地上に戻ってこちら側に駆け寄って来る際も――

 ――鮫介は笑っていた。




 青空は、とても美しく。

 見下ろすのはしばらくいいや、なんて考えていた。




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