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時空機士クロノウス  作者: 宰暁羅
凍結機士編(後編)
109/116

街中の騒動




「うーんうーん……頭いたーい……」

「スビビラビ様、頼まれていたお水です」

「ん……ありがとうメイドさん。お礼に、今度お酒でもどうかな?」

「その二日酔いがなければ、付いていったんですけどね」

「え、マジで? じゃ、お兄さん、頑張っちゃおうかな……っと!」


 領主の屋敷。

 二日酔いで寝込んでいたスビビラビは、夕方にようやく置き出したものの、今度は二日酔いでグロッキーな状態であった。

 客人である鮫介の部下であるスビビラビは屋敷のメイドたちに介抱されていたものの、段々と「コースケ様が活動しているのになんでこの人は酔っ払って寝てるんだろう」という空気が流れ始めて、現在危機感が舞い降りている状況だ。

 メイドたちもほとんど寄り付かない中、この娘だけは自分に甲斐甲斐しく尽くしてくれる。

 スビビラビは、それが非常に嬉しかった。


「しかし、俺の何が君の琴線に触れたのかな? 俺は正直、さっぱりわけが分からないのだが……」

「私が領主様の屋敷で働く前。まだ村娘であったころ、あなたの所属する騎兵団に助けてもらったことがあります。あのころのことは、忘れようもありません」


 見下すような視線をスビビラビへと向けながら、あくまでも無表情を貫き、それでもメイドの娘は大切な思い出を語る。


「逃げ惑っていた私達家族を救う、炎の盾。あなたは私たち家族にとっての恩人なのですよ、スビビラビ様」

「そうだったのか……ここでこうして再会出来たってのは、俺達が運命の赤い色で繋がれていたから……なのかな?」

「それなのに。憧れていたあの男の人が、こんな二日酔いで駄目になる人だったとは、がっかりですよ」

「あら……」


蔑まれているようだったが、それでもスビビラビは良かった。

 別にドMというわけではない。

 ただ、人に構われることが嬉しかったのだ。


「それは、期待を裏切って悪かったね。それで、二日酔いからすっかり醒めたお兄さんは、どう見える?」

「素敵ですね」

「だろう? じゃあ、お酒に付き合ってくれるかな?」

「あなたが、もう少し目が良かったらよいのですが」

「おおぅ……」


 彼女が掲げる左腕には。

 薬指に指輪が、ばっちりと光っていた。


「そ、その指輪は……」

「私と夫のものです。駄目ですよ、人の薬指はしっかりと確認しなくては。人妻をナンパしていたのならば、あなたは鬼畜人として通報されていましたよ」

「お、おぉ……」


 頭をベッドに突っ伏し、嘆く。

 結婚したことを証明する指輪というものは、北米や欧州から齎された人類の歴史の一種だ。

 指輪を交換し、互いに愛を誓い合う。

 そんな風習は、ムー大陸にも迎合した。

 欧州から来たる習慣は、イミニクスが迫るムー大陸をも飲み込んでいた。指輪の交換こそ、夫婦の契り。結婚を果たした証――

 即ち、『自分はもう人のものである』ということを対外に示す、契約の証明。


「なんてこった……まさか他の男に取られていただなんて」

「あなた、ひょっとして、今までも人妻相手にナンパとかしてきたんじゃ」

「い、いや、そんなことはない! 無い……はず、だ……よ?」

「駄目そうですね……」


 思わず自分の記憶を思い返すスビビラビを見下ろし、メイドの少女は薄く吐息を漏らす。

 と、屋敷の外がにわかに騒がしくなった。

 何やら、人の悲鳴と、人がバタバタ走り回る音。


「? 何――?」

「し、静かに」


 訝しげに首をかしげた少女の口を、スビビラビが伸ばした手が覆い隠す。

 それは、対イミニクスに特化したプロの姿。

 周囲を警戒するスビビラビの様子に、思わずメイドの少女はときめいて頬を染めてしまう。


「これは……まさか」

「え?」

「イミニクスの襲撃……? いや、まさか……しかし」


 スビビラビの疑問の声を他所に、事態はどんどん推移していく。

 人々の悲鳴。イミニクスと思わしき存在の動く音。避難を呼ぶ声……


「俺は、行かなくちゃいけない」

「あ……?」

「水、ありがとうな。危ないから、あんたは屋敷の中心に避難しておいたほうがいい」


 そう言うと、スビビラビは少しだけ水を口に含み、残りは頭から被ってしまった。

 そのまま手櫛で髪の毛をオールバックに整え、窓を開くとそこから出ていこうとする。


「スビビラビ様!」

「じゃあな、お嬢さん。旦那さんとよろしくなっ!」


 そう言ってニヒルに笑い、手を上げてさよならの挨拶をすると、スビビラビは窓枠を蹴って外に飛び出し、そして引き返すことは無かった。

 メイドの少女は頬を赤らめてその影を追い、遠くに消えるスビビラビの姿を見下ろして、ほぅ、とため息を吐き出す。


「……あなたは今でも素敵ですよ、スビビラビ様」


 頬を紅潮させたメイドは、深いため息を漏らし、


「貴方は、私の……そう、『推し』ですので、頑張ってくださいね」


 そう呟いてスビビラビへの熱視線を打ち切り、屋敷へと駆け出した。

 見かけたメイドたちには、避難を呼びかけないと。今のような真面目なシーンで、スビビラビが嘘や冗談を口にしないことを、メイドの少女は確信していた。




「見えてきましたよ、領主の屋敷です!」


 デイルハッドが、風の中叫び声を上げる。

 二人は樹甲店から機体(ナーカル)を借り、ここまで急いで来たのだ。

 領主の屋敷がぐんぐん近づく。早く、早く作業員に連絡をし、コースケ様を救ってもらわねば……と。


「うわっ!?」

「な、何っ!?」


 ごごん、という大きな音と共に、眼の前の道路が陥没した。

 慌てて機体をブレーキさせ、どうにか落下は回避したものの、道路の陥没自体は大きく広がっていく。

 そして――


「あれは……っ!?」

「まさか……イミニクス!!?」


 陥没した地面から、ひょっこりと、気軽い感じで首を出した影が一つ。

 イミニクス。

 それも、ただのイミニクスではない。

 全長は、小型イミニクスと同等。

 しかしながら、その体躯は通常のイミニクスと大きく違っていた。

 異形のその姿は、普通の毛むくじゃらなイミニクスと比べると、ただの()

 そう。そのイミニクスは、体長およそ3メートルの体躯。

 比べるならば、間違いなく小型イミニクスの範疇だろう。

 だが、その姿は小型イミニクスと大きく異なっていた。

 全身を覆う黒い毛を引っ込めて、六本だけになった腕部。

 頭部・胸部・腹部としっかり分離出来そうな身体。

 蜂の進化系であり、翼を失った代わりに地上を徘徊する能力を得た――蟻であった。

 そう。彼らは、蟻と呼ぶしかないほどに、蟻の姿をしていた。


「小型イミニクスの進化系……なのか?」

「いえ。小型イミニクスの進化は確認されておりません。あれで、大型イミニクスの変化……なのでしょうか?」


 と、二人が疑問に思ったのも束の間。

 そのイミニクスの後ろから、同じ姿をしたイミニクスが穴から這い出す。

 一匹、二匹――十匹。

 瞬く間に数を増やしたそのイミニクスたちは本物の蟻であるかのように首をきょろきょろと動かしつつ、さらなる増援を穴から引き上げようとしているようだった。


「……ふ……ふ……増えたぁ!?」

「あれは、絶対大型イミニクスじゃありませんよ!? もっとこう、眷属的な……!?」


 デイルハッドとフレミアが、思わず驚愕の声を上げる。

 そしてデイルハッドは慌ててフレミアを連れて脇道に逸れ、イミニクスの視界から消える。

 この機体は借り物で、装備も不十分なのだ。未知の敵との戦いは、出来れば遠慮願いたい。


「こ、こえぇ!」

「恐怖体験!!!」

「ど、どうする!? 相手は完全に未知のイミニクスだ、ここは一当てするべきか……!?」

「いえ、我々の機体を借り物ですし、武装も完全ではありません。ここは一目散に逃げるべきでは……デイルハッド、前!」

「え……うおわっ!?」


 視線を前に戻したデイルハッドは、人影が目に入り、慌てて前に出していた足を引き戻した。

 間一髪、足は地面を歩いていた貧民を踏み潰さずに済んだ。

 踏み潰されそうになった人は怒るでもなく、さりとて謝るでもなく、頭をぺこりと下げただけで慌てた様子でどこかへ行ってしまう。


「ん……イミニクスから逃げる、にしても、どこか……明瞭な進行目的地があるようだな?」

「どうですかね……場合によっては、コースケ様よりもこちらの避難誘導を優先させるべきか……」


 二人は悩む。

 コースケは。彼らの上司である『勇者』ならば、こういうとき。必ず、『市民を優先するべし』と告げると想像するのは難くないからだ。

 果たして、想像の勇者の行動を優先し、市民の避難誘導を行うべきなのか。

 それとも、大恩あるアルキウスの意思に従い、コースケを目覚めさせるために移動を優先すべきなのか。

 二人が悩んだ結果は……


「……こちら、オトナシ近衛部隊! 勇者・コースケ氏救出のため、先を急いでいます!」

「どいてください! 我らはオトナシ近衛部隊、コースケ氏救出のため、一刻を争います!」


 結局。二人はコースケの安全を優先した。

 当然だろう。鮫介は薬の影響で眠ったままのなのだ。今は、一刻を争う事態なのである。

 なので、コースケ様には悪いが、今はコースケ様を優先させてもらう。

 それが、二人が下した結論だった。


「通して! 我らはオトナシ近衛部隊! コースケ様……おや?」


 そして。

 二人は、眼の前の道路を通行人たちが堰き止めていないことに気付く。

 どこぞへ避難している民たちも、当然知っているのだ。

 オトナシ・コースケこそは、時空機士に選ばれた勇者。

 そして勇者は、自分たちを救ってくれる存在なのだと。


「……ありがたい! フレミア、突破するぞ!」

「はい! 目指すは整備兵のみなさんがいるエリア、そこまで突っ切ってください、デイルハッド!」


 かくして。

 道を邪魔をする者のいなくなった二人は、己の機体たちを全力進行で前方へと向かわせる。

 途中、何度か掘った穴から出現するイミニクスを見かけたが、その全てがあの蟻のような姿だった。

 一体、あれはなんだったのだろう?

 分からない。分からないが、考えるのは後だ。今は、コースケ様の救出だけを考えればそれでいい。

 やがて、


「おぉ……!? あれは……」

「スビビラビ!?」


 そして、領主邸の前では。

 地面に穴を開けて出現したイミニクスから、避難民を守る影が一つ。

 スビビラビ。

 巨大な二対の盾を両手に構えた巨人が、領主邸の前でイミニクスたちを遠ざけようと、その大型の盾を炎に包んで振るっている。

 それこそは、オトナシ近衛部隊の守護騎士筆頭の証。

 スビビラビの乗るライヴェリオが、迫るイミニクスたちを蹴散らしていた。


「おお! スビビラビ!」

「足元に避難民たちの姿が見えます。どうやら、彼らの退路を確保しているようですね」


 フレミアの言う通り、デイルハッドが視線を下に向ければ――

 数多くの避難民たちが、イミニクスの襲撃を避け、領主邸に向かっている。

 どうやら、領主邸が避難先になるというのは、予め決まっていたことらしい。

 気付けばスビビラビ以外にも、領主所有のものらしいガレアロッドやヴェグケントス(ライヴェリオの一つ前Ver)も集まり、イミニクスたちの突撃を食い止めている。


「おぉーい、スビビラビ!」

「むっ!? 遠い領地で我が名を呼ぶのは……デイルハッドにフレミアか」

「デイルハッドにフレミアか、じゃないよ」

「二日酔いはいいんです?」

「ふむ、心配するでない、フレミア! 今の俺は元気百倍、大型イミニクスも何のそのよ!」

「……デイルハッド、スビビラビが凄い大言壮語を吐いています。危険な匂いがしますよ」

「うん。危ないな、後でコースケ様とジン隊長に報告しておかないと」

「待って!? コースケ様はともかく、ジン隊長には告げ口しないで!?」


 途端、スビビラビは先程までの優勢はどこへやら、中腰になって情けなく寛恕を申し出て、スビビラビとフレミアは思わず苦笑してしまう。

 スビビラビは、どこまで行ってもスビビラビだったのだ。


「やれやれ、仕方ない。スビビラビ、整備兵の皆さんがどこへ行ったのか分かるか?」

「整備兵? それなら、与えれた拠点から移動してないぞ。整備兵は整備が仕事、そう言って動こうとしないのだ」

「持ち場を動いていない? それは……好都合」


 デイルハッドは、そう言って笑みを浮かべる。


「流石、コースケ様専属の整備兵か……とにかく、ありがとう。ならば、私たちは整備兵のもとへ向かうよ、デイルハッド」

「待て。状況があまりに不明瞭だ、デイルハッド。何がどうしてお前たちは、コースケ様の側を離れて整備兵のもとに向かっているのか? それを説明すべきだと思うぞ」

「ふむ、確かに、ならば聞かせよう、私達とコースケ様に遭った出来事を」


 そう言って、デイルハッドは語りだす。

 自分たちとコースケに起きた出来事。

 麻薬によって眠りを余儀なくされたコースケと、それを救うために活動している自分たちのことを。


「それは……まことか!?」

「こんなところで嘘をついて何になる。スビビラビ、ことは一刻を争う。我々は整備兵の方々を召還せねばならない。先を行くぞ」

「お……応。そういうことならば、委細承知。この場は俺に任せて、急ぐがいい」

「すまんな。それでは、失礼する」


 語る言葉は少なめに。

 感謝の気持ちを頭を下げることで示して、デイルハッドとフレミアは先を急ぐ。

 コースケが目覚めることで、この事態が好転する。ただ、それだけを信じて。


「おやっさん!」

「おぉ、お前たち!」


 そうしてデイルハッドたちが見かけた整備班長の、ジルメダ・フェグラ―・ヘステ・エグハム、通称おやっさんは急に姿を現したデイルハッドとフレミアを見て、渋面に微笑みを形作った。

 いつも口煩く、頑固で整備のことになると手が出ることも早い厳格な人格の持ち主だが、その分整備の技術力はこの大陸でも群を抜く実力者だ。

 そんなエグハムは、二人に接近するとほっとしたような口調で、


「無事だったか! 安心したぞ、周囲からいきないイミニクスが現れてな!? 儂らは整備があるからここに留まっていたんじゃが……」

「こちらこそ、無事で良かった! 怪我人はいないんですね!?」

「儂らにはな! だが、避難してくる住人の中には大怪我している者も何人かいる。どこかの病院から脱出してきたらしくてな」

「そんな人たちまで!? くそっ、イミニクスがこんな平和な町中に突如出現する可能性なんて考えられていないから、対応が遅れているのか……」


 デイルハッドとフレミアは顔を見合わせ、眉根を寄せる。


「いんや、ここはまだマシじゃよ。10年ほど前、地下から今のように大型イミニクスが現れた経験があるでな。そのため、当時を生きていた人々は迅速に逃走を開始しておる」

「しかし、それでも10年という歳月がイミニクスに対する『隙』を生んでしまったのか……」

「それで、お前さんたちは何故ここに? コースケ様の護衛任務はどうした?」

「そう、それです。整備兵の力を借りたい」


 そうして、二人はようやく整備班長に事情を説明した。

 二人がここにいる理由を知った整備班長は腕を組んでううんと唸り、そして次の瞬間、ぽかり、と二人の頭を叩く。


「早く言わんか、そういうことは!」

「うぐぐ……申し訳ない」

「痛ぁ……こ、これはコースケ曰くの、パワハラ案件というやつでは……!?」

「馬鹿たれ、お前が先に言わんのが悪いわ! ほら、何を突っ立っておる。さっさと勇者様のところに急ぐぞ!」

「ぐぐ……自分で叩いておいて……」

「デイルハッド、シッ。なんにせよ、これは行幸。急いで勇者様のところに戻らねば」


 かくして――

 デイルハッドとフレミアはスビビラビと合流し、オトナシ近衛部隊の整備兵たちを引き連れ、来た道を逆走することになった。

 整備班班長、エグハムはトホ領に連れてきた半数の整備兵、9、10人を引き連れ、鮫介の元へと向かう。

 この7・8人もまた、精鋭揃いだ。フェグラー領に残った者たちをボンクラ、などという気は勿論無いが、ここにいるメンバーは――全員、鮫介曰くの『モブ顔』ではあるのだが――何かしらの特化技術を抱えた、他の部隊に混じっていたならば確実にエースに選ばれるような班員ばかりであった。

 例えば、そこで工具を袋に詰めているヘルラント。彼は異常までに嗅覚に優れており、装甲に隠れた内部の機械の僅かな故障にも敏感に気付く。

 例えば、そこで階段から降りてくるサーベナー。女性ながらに盛り上がった上腕二頭筋の眩しい彼女は、どんな武装でも僅かな手間暇で全てを分解する解体屋だ。

 例えば、そこで集められた部品の数が正しいのか数えているエレッゼ。普段は人たちの影に隠れる臆病で陰気な青年は、その実、あらゆる兵装に精通し、どんな部分にアレンジが加えられているか、どの部品がまるで使われていない失敗作なのかを瞬時に見分けられる兵器オタク(ウェポン・マニア)なのであった。

 どいつもこいつも、一癖も二癖もあるやつばかり。しかし、逆を言えばそんな連中を大勢集められるカリスマ性こそ、領主であるアルキウス様の器なのだろう……と、エグハムは思う。

 とにかく、と壮年の男は気合を入れた。勇者様を守ってくれ、そう言って微笑んだ領主様の願い、絶対に叶えねばならぬ。

 コースケ様を死なせたとあっては、オトナシ近衛部隊全員の失態。彼の助けとなるならば、喜び勇んでイミニクスたちを退け、危難にある勇者様を救わねばならないのだ!


「急げ、お前ら! コースケ様のもとに向かうぞ、イミニクスなど恐れるな! ここにいる近衛部隊の奴らが、全て殲滅してくれる!!!」

「なんて言い草! あの新種のイミニクス、この人は目撃しているのか!?」

「まぁまぁ、そう言うなデイルハッド。整備兵の皆さんも必至だぜ? 俺達騎兵と違って、生身でイミニクスの待つ戦場を駆け抜けなくちゃならないんだからな」

「もう……スビビラビは相変わらずだ……ですね。では、僕達も行きましょう。スビビラビは、離脱は告げてきましたか?」

「ああ、領主の館を離れることはしっかり伝えてある。俺が行くことは残念がられたけどなー、はは! ちょっと活躍しすぎたかなー?」

「勇者様が危険な立場だというのに、余裕ですね、スビビラビ……」

「こいつはこいつで、そのイミニクスたちを撃破してきた立場だからな……」


 調子に乗ったスビビラビの言動を白けた顔で聞き流しながら、兎にも角にもオトナシ近衛部隊の面々は先を急ぐ。

 可能な限り近道を通り、避けられるイミニクスたちは避け、全速力で勇者の元に。

 しかし、その道程もあと少しで樹甲店に到着といったところで、歩みを止めることとなった。真正面にイミニクスの巣(?)を発見し、横道に逸れようとしたところ、背後にもイミニクスが出現。挟まれる形となったのだ。


「畜生! 後少しだったのにっ!!!」

「エグハム殿っ! 諦めるのは、まだ早いぜ!」


 イミニクスに囲まれる。過去、生きてきた中でも最悪な状況にエグハムが車両の窓をどんっと叩くと、スビビラビが得意げに笑い、後ろのイミニクスへと盾を構える。


「前は任せたぞ、デイルハッド!」

「何!? スビビラビ、お前まさか……」

「以前、コースケ様がゼルグラック相手に教えていた『平行世界における格好良い言葉五十選』! ゼルグラックには悪いが、俺らが先に使わせてもらうぜ!!!」


 盾に炎を疾走さ(はしら)せる。

 同時にデイルハッドもまた、乗り換えた自分の愛機の指に赤雷を発現させた。

 炎と雷。二つの念動力の高まりの中、スビビラビが大声で叫ぶ。


「『ここは俺達に任せて、先に行け!』 フレミアッ!!!」

「『すまない、友よ!』……任せたぞスビビラビ、デイルハッド!」

「応よ! フレミアも任せたぞ、整備兵のみんなをコースケ様のところにしっかりと届けてくれよな!」


 かくして――

 戦力は、二つに分断された。

 スビビラビ、そしてデイルハッドだけが残り、敵の進行を食い止める足止め役と。

 フレミアが先行する中、時間を惜しんで勇者のもとに集うために先を急ぐ整備兵たちの二つに。

 果たして、スビビラビたちは危難を脱することが出来るのか。

 そして、コースケは目覚めることが出来るのであろうか…… 




『平行世界における格好良い言葉五十選』は、実際は50もありません(笑)


鮫介(うーんうーん、困った50選も思いつかないぞ)

ゼルグラック(ワクワク)

鮫介「(しかし、ワクワクして待っているゼルグラックに50もないとは今更言えない……仕方ない)まずは10を教える。それが実際に言えたのならば、それ以上も教えよう」

ゼルグラック「善処します!」

鮫介「ううっ(グサッ)……まずは……」


ちなみに格好良い言葉は大体ジ◯ジョから取っています。


鮫介「ごめんなさい荒木先生、完全に著作権法違反で……!」

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