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時空機士クロノウス  作者: 宰暁羅
凍結機士編(後編)
107/116

絶望を呼ぶ前奏曲(プレリュード)

よっしゃ、12KB……!




 その日の夕方。

 呼び出された氷結機士グレイサードの大神官、ナレッシュはグラウンドにて、物思いに耽っていた。

 彼の脳内では、既にシュロックを撃破し、その後どう鮫介に接しようかという組み立てが出来上がっている。

 シュロックに負ける可能性など、万が一にも、いや、億が一にも存在しない。

 あのバイザードとかいうシュロックが発明した機体(ナ―カル)は、成程、確かに良い機体なのだろう。

 良い機体ではあるのは認めるのだが……それでも、虹の七機士を相手取るには、まだまだ不十分だと言わざるを得ない。

 エンジン。出力。何もかもが、虹の七機士には遠く及ばない。

 あるいは全ての機体(ナ―カル)を凌駕するエンジンを入手するか、あるいは今のエンジンで虹の七機士に匹敵する出力を生み出せれば、話は違ってくるが……

 それは、一朝一夕に出来ることではない。

 結局――

 新たな虹の七機士を生み出すことなど、不可能なのだ。

 シュロックは、それが理解出来ていない。

 あるいは……理解出来ていても、納得していないのか。

 ナレッシュは、その部分が理解出来ない。出来ることならやり遂げることならまだしも、出来ないことをいつまでも引っ張るのは害悪以外の何者でもない。

 そう考えて、自分のことを考え、ふと苦笑が漏れる。

 害悪なのは、俺も同じか。

 そうこう考えているうち、いつものように、シュロックがグラウンドの地下から出現する。

 相変わらずの搭乗シーンの歌を添えて、グレイサードをぶっ飛ばすために。

 ナレッシュは氷の吐息をつく。

 無駄だ。

 またいつもと同じように、グレイサードに手酷くやられるだけだ。

 ナレッシュがそんな考えであることをつゆ知らず、シュロックは胃の底が調子良好なように大声で、叫ぶ。


「よく来たな、ナレッシュ! 俺の挑戦を、受けて立つと見た!」

「……そりゃ、呼ばれたからな。しかし、お前の機体……バイザードは、俺には勝てないぞ」

「ははは! それは、今回のバイザードを見てから言うべき台詞だな! さぁ、カモン、バイザード! お前の血潮が、グレイサードを倒せと輝き叫んでいるぞ!」

「……機体(ナ―カル)に、血潮は関係ないだろう……」


 グラウンドの下から、いつものようにバイザードが姿を現す、

 いつものようにギターを掻き鳴らし、いつものように歌付きでの入場。しかし、ここでナレッシュはうん? とバイザードの様子がいつもと違うことに気付く。

 なんというか……完成されている。

 あくまでも雰囲気の話だ。

 それでも、このバイザードや乗っているシュロックの調子の良さ、そして周囲からこの戦闘を見ているイルカたち従業員の期待の目……

 天才と呼ばれるナレッシュは、この時点でほとんど全てを把握していた。

 恐らく、鮫介は約束を果たした。

 即ち、バイザードに最後の武装が追加されたのだ。

 それならば、とナレッシュはグレイサードの調子を確かめる。その喧嘩、買おう。ナレッシュと遊ぶのは……楽しい。


「えー。ではシュロックさんのご希望に添えて、この音無鮫介。審判を務めさせていただきます」


 そう言って二人の間に入ってきたのは、時空機士クロノウスへと搭乗した召喚された勇者・鮫介だ。

 ナレッシュとしても、鮫介が審判をすることに不服は無い。

 鮫介は信用出来る。それがシュロックがこの短い間に、鮫介へと下した結論だった。


「コースケ殿。頼む」

「任されました。それでは、シュロック氏VSナレッシュの決闘を、始めさせていただきます!」


 ナレッシュの許可を得た鮫介の挨拶と共に、グレイサード、そしてバイザードも両腕を構える。

 両者、本気の姿勢。

 鮫介はごくりと生唾を飲み込む。今回ばかりは、ナレッシュも本気だ。本気で、シュロックのバイザードを『敵』と認識している。

 おそらく、シュロックもナレッシュも、口元には微笑みを浮かべているが、目元ばかりは本気の視線に違いなかった。


「そ……それでは、始め!」

「行くぞ、シュロック!」

「来い、ナレッシュ!!!」


 途端、二人に殺意が宿る。

 いや、殺意というよりも、本気さか。彼らは本気で戦うつもりなのだ。これが訓練であることも、側で立っている鮫介のことも忘れて、ただ、お互いの相手を倒すために集中している。

 それが、鮫介には、羨ましく思えた。


「喰らえ、灼熱の女王、『ボウディッカ』!」

「むっ!」


 ナレッシュ氏が先制として放ったのは、ワイルドハントの一つ、ボウディッカであった。

 己の領地を焼き払った歴史が如く、周囲を炎上させたバイザードはナレッシュが危険を感じて立ち止まったことに安堵の溜息を吐き出しつつ、次なる一手を打つ。


「相手を拘束せよ! 行け、深海の主、『船長ドレーク!』」

「くぅ……!」


 海軍を任された将軍、フランシス・ドレークの名を冠する蔓攻撃だ。

 咄嗟に左右に回避しようとして、炎が巻き上がっていることに躊躇したその瞬間、ドレークの蔓がグレイサードの左腕に巻き付く。さながら、絞首刑を待つ囚人のように。


「よし! 行け、『狩人ハーン』!!!」

「舐めるなっ!」


 続く連続攻撃は狩人ハーン。

 その百発百中とも呼ばれる射出された弾丸を、しかしバイザードは左腕を引っ張られた不安定な体制のまま、右手に握った薙刀で全て切り払ってしまう。


「なにぃ!?」

「うむ、見事な連続攻撃。さてはオトナシ近衛部隊と共謀したな?」

「ちっ、バレてるなら仕方ない! ああそうさ、作戦の一部始終を話し合ったよ!」


 狩人ハーンを防がれたバイザードは、続いてワイルドハントではなく、右手にガジュマルを成長させる。

 品種改良されたガジュマルはどこまでも伸び、回避しかけたグレイサードを諸共後退させていた。

 そこに、


「ぬっ!?」

「デイルハッド氏直伝、トラバサミよ! まぁ、俺のはアレンジを加えたハエトリグサだけどな!」


 バイザードの仕掛けた牙がグレイサードに襲いかかる。

 その牙……というか補虫毛(ほちゅうもう)がグレイサードの足元に絡みつき、その鋼鉄の足元に噛みつく。シュロックが育て上げたハエトリグサは鋼鉄の肉体にしっかりと牙状の棘をバイザードの足元に突き立て、その動きを制限した。


「くっ! 邪魔だ、凍らせ……」

「させるか! 喰らえ、ワイルドハント『女王ボウディッカ』!!!」

「ちっ……!」


 グレイサードの動きを見越して、バイザードのワイルドハントが女王ボウディッカを放つ。

 灼熱の女王はその名の通りに周囲を炎上させ、バイザードの動きを一瞬封じる。続いて、バイザードが素早く連携攻撃を仕掛けた。


「喰らえ、ガジュマル! 敵を追い詰めろ!!!」

「ぬぐぁ!」


 バイザードが左腕から放出したのは、ガジュマル。以前の戦いでも見せた、超巨大特性を付与された植物である。

 種の状態から一気に成長したガジュマルは真っ直ぐにグレイサードを襲う。グレイサードは回避しようとして、足元をハエトリグサに、左腕をドレークに縛られ、動きが封じられている状況だ。

 それでも、グレイサードは強引に身体をひねり、回避する。流石天才の行動、といったところだが、不自然な体勢に大きく身体のバランスを崩す結果となった。


「今だ! 決めるぞ、『聖王アーサー』!!!」

「うっ……!?」


 ここが勝負どころと感じたのか、バイザードがついに、必殺の植物を生成した。

 それこそは、このムー大陸の山奥にしか生息していないという伝説の植物。

 山奥の物陰にひっそりと咲き、そして誰にも知られぬままひっそりと花を散らすという、幻の生花。

 聖王アーサー……それ即ち、カリブルヌス・フラワー。

 おお、見よ。

 聖剣を名を冠した植物は、見事にその刃を閃かせて――

 閃かせ、て――


 ボンッ、と煙を吐き出したワイルドハントは。

 突如として、周囲に霧のような花粉を撒き散らした。

 それは使用者であるバイザード、噴射されたグレイサード、そして観測者であるクロノウスさえも巻き込んで……


「ぐぁ!?」

「な、なんだ、これは!?」

「げほっ、こんな機能、カリブルヌス・フラワーには……!?」


 巻き込まれた3機が混乱する中。

 機体の装甲を貫通して漂ってきた霧の匂いに、鮫介たちはびくりと反応する。

 まるで遠い昔。どこかで嗅いだことのあるような、甘い匂い……

 ……やがて。

 混乱している周囲の状況の中、どさりと、バイザードが倒れ伏す。

 そして、クロノウスも。グレイサードもまた、まるで花粉に誘われたかのように、気絶していった。




「三人とも、甘い夢の中に誘われた、か」


 そして、遠くの山奥にて。

 そんな三機の様子を、伺っていたローブ姿の人影が一つ。

 男か女かもはっきりとしないシルエットの持ち主は、念動石も無いのに千里眼の念動力を用いて三機の状態を視認すると、唇を半月状に歪めた。

 まるでそれは、人間への憎悪が漏れ出したかのように。


「さぁ出番だよ、ボトム・ドゥードゥルバグ。この人間共が済む街を、地獄に変えてやる番だ」  


 そんな、人影の宣言と共に――

 周囲に、影が姿を現す。

 それは、全長5メートルを超す……蟲、蟲、蟲。

 そんな蟲たちは、とある一つの影を歓喜を持って迎え入れる。

 それは、この蟲たちを操る司令官。

 大いなる影が、地表に姿を現す。

 この首都・イシュマラを襲うであろう、闇のような黒い影。




 大型イミニクスの、絶望を呼ぶ姿だった。




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