スビビラビ、堕ちる
26KB……最初のほうの無駄話が余計すぎましたね……
「それで……スー嬢を喜ばせたのですか?」
「そうだよ……疲れた……」
「コースケ様って……幼女趣味だったのですか……!?」
「ノー! 僕は通常だ! 幼女趣味ではない!」
その日の夜。
ドゥルーヴさんの屋敷に戻った僕を待ち構えていたのは、先に屋敷で待ち構えていた部下たちの質問攻めであった。
「でも、あのスー嬢の様子を見る限り、満足させたのですよね……?」
「苟もデートに誘ってくれた異性を喜ばせないのは、人としてどうかと思うよ、マジで」
「ほ、ほほぉ……流石ですな、コースケ様……」
「……でも、そのおかげで、僕は頭の中から知識を引っ張り出す羽目になってね……? スーってば神話の知識も合間合間に尋ねるものだから、その知識も脳の奥底から絞り出さないといけなくてね……?」
「ご、ご苦労様です」
「うん、そこは敬語としては『お疲れ様』だね……とにかく、疲れたよ、僕は……しばらく何も考えずにボケーッとして生きたい……」
と、受け答えする鮫介のほうは疲労困憊でぐだぐだな状態だった。小春を探して山に入ったときよりも疲れてないだろうか?
とにかく、今は何も考えず誰とも話したくない。ぶっちゃけ、下品に服でも全部脱いで親指の爪を噛んでごろごろしていたい気分だ。
――これかぁ。フィオーネさんが全裸になりたい感じは。
と、あきらかに間違っている理解を得たところで、食事の時間となる。スビビラビに背を押してもらいながら、食堂に。
途中、屋敷に戻ってから(僕の)部屋に戻って以来顔を合わせていないスーと再会。赤面して珍しくもしおらしくうなだれているスーの背を叩き、同時に食堂に赴く。
「いいのですか?」
「彼女は照れているんだ。放っておこう」
具体的な内容は説明しないが、最後に赴いた上手い食事を出すと評判のレストランにて、スーがスパゲティをご所望になったのだが……いや、これは彼女の名誉のために伏せておこうか。
ただ一つ、その時の彼女は猛烈に頬を高潮させ、迂闊に話しかければ物理的に噛みつく勢いであった。
……いやー、はっはっは。怖いなぁ、少女は。
「スー嬢? どうした、何か勇者様を睨み付けているようだが……」
「な、何も! 何も無いわよ!? まったく、どうかしてるわよ!? 私に対して、あんな、あんな……!!?」
スーは混乱した様子で、がなり立てている。
うーん。
これは困った。まさかここまでの効果だったとは。
早速、ゴードンたちが狼狽えたように耳打ちしてくる。
「スー嬢は……本当に、どうなされたのでしょう」
「まさかコースケ様、何かエロいこと仕出かしたので……!?」
「するかっ! そうじゃなくて……考えられるとするならば、僕はスーの……その、尊厳を傷付けてしまった……ことになる、のかな?」
「はぁ。尊厳、を?」
「いや、尊厳というか……僕とスーが行っていた食の旅のラストでスパゲティを食べたんだけどね。日本のナポリタンの説明をしつつ、彼女が突如発症したギラティム鏡態にも生暖かに反応しただけで……」
そう鮫介が口にすると、スーは聞き付けたのかますますもって顔を真っ赤にして(前髪で見えにくいけど)、
「それよっ! 私はね、馬鹿にされるのを覚悟でギラティム鏡態的な態度を取ったのよっ! なのに鮫介ってば、父親のように優しく包み込むようにっ! 信じられないわっ! 聖人的な彼氏なわけっ!? ほんっとうに……信じられないわっ!!!」
そうして、そのまま食堂を退室してしまう。
後には、気まずい空気と、目を逸らした鮫介のみ。
「……ええと。つまり、コースケ様は……」
「スー嬢のギラティム鏡態的な態度に優しくしたから、彼女を怒らせてしまった、と?」
「どうにも、そうみたいだね。僕はどういう反応をするべきだったんだろう?」
「はぁ……もう爆発しろとしか……」
「ゴードン?」
「いえ。しかし、こればっかりは私たちにはどうにも……結局、彼女の内心によるものが大きいですからなぁ」
結局、スーは戻らなかったので、鮫介たちのみでの食事となった。
そして鮫介が充てがわれた部屋に戻ろうとすると、そこには施錠された部屋が。
「……ゴードン、すまないが泊めてくれないか」
「はいはい、承知しましたよ。コアと一緒ですが、構いませんよね?」
「別に構わないが……しかし、嫌われてしまったかな、これは」
「いえ、むしろ好かれていると思いますが……女心とは永久に不明な代物ですな」
ゴードンと共に顔を見合わせ、苦笑を顔に出すとゴードンの部屋で寝泊まりさせてもらうことになった。
ちなみに、ベッドはゴードンたちに貸したままだ。最初はゴードンとコアが鮫介にベッドを貸そうと躍起になっていたのだが、「借りる立場で申し訳ない」と鮫介がひたすら遠慮した結果、部屋にあるソファに眠ることでなんとか合意してもらった形となっている。
領主の家の護衛は万全であることを確かめたスビビラビとデイルハッドは近所の居酒屋まで飲みに行くらしい。お目付け役としてフレミアが同行するが、フレミアに彼らの暴走が止められるかなぁ……と、少々心配になる鮫介であった。
「お酒で酔っ払って暴れたりはしませんよ! 精々、女の子とメイク・ラブをするくらいですね」
「ラブをメイクするまで行くのか……子供が出来ないようにな」
「避妊はきちんとしますさ」
そんなことを宣いながら、スビビラビは意気揚々とデイルハッドとフレミアを引き連れて外出していった。
……うーん、心配だなぁ。とはいえ、鮫介はまだ未成年なので、お酒を飲む店には入れないのだけれど。いや、心の内的な意味で。
スビビラビが行くとなるならば、そこは高級バーなどではなく、普通の大衆居酒屋だろう。あるいは、エッチなお姉さんがいるキャバクラ的な施設かもしれない。
……行ってみたかったなぁ。
と、鮫介の中のスケベ心はむくむくと浮かび上がるが、意志の力で強引に抑え込む。
今の鮫介は勇者……の休暇として、トホ領に来ているのだ。決して、女の子たちにわいきゃい言われるために来たわけではない。
そう、鮫介は修行に来ているのだ。部下を連れているものの、イメージは荒野からやってきたマントとターバンで砂嵐から身を守る旅人のイメージだ。いや、フェグラ―領は砂嵐とか吹かないけれど。
「居酒屋、か……大人になったら、行ってみたいなぁ」
「はぁ……スビビラビの行ったところはコースケ様の思うようなところではないでしょうが……」
「って言うと、やっぱりエッチなお姉さんがいるお店か……」
「はい。スビビラビは女癖が悪いようで、いくつもの女性と関係を結んでいます。私は近々、あいつが刺されるのではないかと危惧しているのですが……」
「そういう奴か……はぁ。スビビラビが女好きなのは訓練で知っていたけれど、そこまではとは……」
「盾役、というのはモテますからね」
ゴードンは苦笑を深め、
「イミニクスとの戦闘では常に最前線で、仲間たちの命を守り、そして自身も生き残る。スビビラビはオトナシ近衛部隊に配属される前より、守護騎兵として活躍してきました。おそらく、心鉄に最も昇格の近い血染であることに間違いはないでしょう。ただ、それ故に無闇に人から愛され、そして本人もそれを享受しているようです。いい機会ですので、コースケ殿にガツンと言ってやってほしいところなのですが」
「ガツンと……うぅん、でも男女関係は人それぞれだしなぁ……」
難しい顔をして唸る鮫介に、近くでじっと見ていたコアが戸惑ったように呟く。
「……えっと、難しく考える必要はないと思います。コースケ様が感じていることを、スビビラビ様に直接申し上げれば」
「しかし、コア。僕は別に、スビビラビがどういう女性関係を築いているのか、正直興味はないんだよ。いや、興味あると言えるのか、これは……? 彼の女性関係自体は興味あるけど、でもこれは、出歯亀っていうのかな……大衆興味みたいなものだし……」
うぅん、と鮫介は再び思い悩む。
スビビラビのことを想うのは、別に彼が大切な部下だからとかではなく、単に知的興味心からだ。行ったことのない居酒屋に、彼は行ったという。ならば、その居酒屋がどういうところなのか、どういうサービスをしているのか、それを知りたいと思うのは当然の帰結……だと、思うのだ。
それに、女の子との事も。下世話な話ではあるが、鮫介はムッツリスケベだ。表情こそ知的で冷静な顔をしているものの、そういう話は大好物なのであった。
だからこそ、スビビラビに説教をかますのは違う、と思う。
大体、何を説教しろと言うのか。女癖の悪さを叱責しろと言われても、そもそもスビビラビにそんな印象は一切持っていなかったのだ。
やはりもっと交流するべきだったか、と鮫介はむしろ内省する。
今まで、鮫介は自分の部下たちと訓練の最中に一言二言挨拶をするくらいで、深い交流はしてこなかった。
それではいけなかったんだろう。
もっとずんずんと、鮫介は部下たちとコミュニケーションを取るべきだったのだ。そう、今からだって……
「……飲みに行くか? 僕たち」
「なんでですか!? 嫌ですよ、コースケ様は未成年らしいしコアだって下戸なんですから! お酒飲めるの私だけなんですよ、寂しい!」
「寂しいと言われましても……いや、コースケ様の頼みだったら聞きますけども。僕たちとお酒を飲みに行くくらいなら、スビビラビたちに付いて行ったほうが良かったのでは?」
「……そうだね。申し訳ない、ちょっと頭が混乱していた」
テーブルに置いてあった湯呑みの茶を飲み、一息つく。
ちなみに、現在部屋には3人。テーブルの椅子を占領しているのが鮫介で、その背後に姿勢良く立ち続けているのがゴードン。コアはベッドに腰掛け、前かがみに鮫介に視線を送っている。
その状態で、鮫介はお茶を飲み干し、ふぅっとため息をつく。
「……やはり、僕は考えるのは苦手だな。君たちと強調路線を取ることに拘り、碌でもない提案をするところだった」
「えっ」
「何をご謙遜を。鮫介が頭脳キャラなことくらい、私たちは把握していますよ」
「え"っ」
鮫介は唖然とした表情を見せるが、ゴードン、それにコアもうんうんと頷いている。
……そうかー。僕、頭脳キャラだと思われているのかー。
「……ええっ、なんで!? 僕、頭脳キャラだと思われるの!!?」
「??? そうではないのですか?」
「ええ。僕も普段物静かですし、そうだとばかり」
「あのねぇ」
はぁ、と鮫介が特大大きな息を吐き出す。
「僕が口数少ないのは、君たちの発言から、失礼なことを言わないようにする処世術の結果だよ」
「そうなんですか!?」
「そうだよ。間の抜けた言葉を出さないように、僕は必死なんだ。それを、頭脳キャラだなんて……烏滸がましい」
「し、しかし、コースケ様は実際に、我々にはない知識で知恵を与えてくれますが……!?」
「それは、元の世界にあった漫画……ええと、書物からの知識の受け売りだ。実際の僕は……あまり隊員に吹聴しないでほしいんだけど、まぁ勇者なんて程遠い、普通の人間なんだよ」
盛大に吐息を漏らし、鮫介はぐぐっと背筋を伸ばして、
「だから、頭脳キャラだなんて思ってほしくはないかな。僕はいっぱいいっぱいなんだ。今日のスーとのデートだって、脳内にある知識を総動員してどうにかした程度なんだ。あれ以上質問されていたら、僕はきっとギブアップしていた。だからもう、これ以上神話の質問はしないでくれぇ……ぽえぇ」
「コースケ様! ここで脳を死なせないでください!」
「お、お疲れ様です。大変だったみたいですね……」
「大変ってレベルじゃないんだよもう。各所に触れるたび、世界各地の神話知識を求められて、期待に答えれなくちゃがっかりされるわけじゃん? いや答えられなかったことが無いから分かりませんけれど! とにかく、期待に答えなくちゃならないのが勇者の悲しい宿命なわけで」
「職業病ですなー」
「職業病って言うのかな……?」
「もう、本当に疲労したよ。僕は何も考えたくない、ぽえぇ」
「ああ、また……」
ゴードンが心配して肩を揉む中、鮫介は口の中から魂を吐き出しているような感覚を覚えていた。
スーはとにかく知りたがりだ。
それ故に生じる苦労を、愚痴と共に話したわけだが……
楽しい、と感じてしまう。
男同士、こうしてくっちゃべるのは楽しかった。
出来れば、全然関係のない話題をどんどん話していきたいが、それは流石に無理筋なのだろう。
鮫介は虹の七機士に選ばれた大神官であり、この世界に召喚された勇者なのだ。
それを理解してくれる人に巡り合うまで、この孤独は続くのだろう。
でも。
それでも。
孤独を癒やしてくれる、この疑似友人関係を、鮫介は出来る限り続けていきたかった。
「マジで。マジで、僕は疲労してるんだ。お前たち、何か……そう、面白いことでも言ってくれ」
「また無茶を」
「評価してやる」
「評価してやる、と言われても……そもそも、、僕たちのトークがコースケ様に通用するものなのか知りませんし」
「いいよ、通じなくても。とにかく、スーにいい格好しいで僕は本当のもう、大変に疲れてるのだ。だから、面白いことを言いなさい」
「そう言われましてもー」
肩を竦めるゴードンに、ひたすら恐縮するコア。
その二人の様相が面白く、鮫介は肩を震わせて笑っていた。
それは、この世界に来てから滅多に見せなくなった、年相応の笑顔だった。
そして就寝、起床。
結局、昨日の就寝前にスビビラビたちが帰ってくることはなく、鮫介が誰よりも先に起きてこっそりと部屋を抜け出し、領主邸の周囲をランニングしていると、ふらふらとした足取りのスビビラビたちが戻って来た。
「お帰り」
「うぇっぷ、ただいま戻りました……」
「しっかりしろ、スビビラビ……おぇ……あ、コースケ様、どうもおはようございます」
「まさか朝帰りになるとは……オラ、スビビラビ! ちゃんと姿勢を正してコースケ様に挨拶しろ!」
「ぐへっ、尻を蹴るな……おろろろろ……」
「ああっ、もう……っ!」
吐き出したスビビラビをみんなと一緒に介抱する。
背中を擦ってやりながら、これがジン隊長がリーダーとして付けてくれた部下か……と、ちょっと遠い目になる鮫介だった。
「げろげろ……ふらふらしてきぼちわるぅ~い……」
「もう、いいから今日は休んでろ。それから、今夜のことはしっかりとジン隊長に報告させてもらうからな」
「す、すびばせん……」
「情けない……泥酔するまで飲むもんじゃないよ。お前は近衛部隊所属なんだぞ?」
「スビビラビは有能な人だと尊敬していたのですが……見る目が変わりそうですね……」
「な、なんだとぅ。俺はり、立派な……おろろろろ……」
「吐くな、吐くな」
結局、スビビラビは今日の役立たず確定ということで、領主の館に置きっぱなしになることになったのだった。
務めているメイドさんたちから不審な目で見られるかもしれないが、まぁ、そこは本人の責任ということになるのだろう。
鮫介はそう考え、これ以上のあれやこれやは放置することにした。
もう、知らん。
部下の優秀さに苦労するのも困るけれど、部下の無能さに苦労するのも鮫介的にはNGなのだ。
「コースケ様ー! おはようございまーす!」
「おお、ゴードン、それにコアか」
結局、その後ゴードンとコアも起き出したようで、鮫介の周囲は賑やかになっていった。
朝食の席で領主からは早起きですなと褒められ、鮫介としては苦笑を浮かべるしかない。
――僕が早起きというより、他に人が五月蝿いだけなんだけどなぁ。
当然、そんなことを領主に言えるはずもなく、鮫介は不自然な微笑を浮かべるしなかったという。
……いや。もうホント、勘弁してくれぇ。
……スーの機嫌は、元に戻っていた。
結局幼児の精神性を重視するのが無意味だったのか、それとも鮫介の歯の浮く台詞はスーのテンションをその時だけしか上げなかったのか。
理由は不明だが、とにかく領主と食事している場面に現れたスーは昨日の昼前までのスーとほぼ同一で、鮫介としては首を傾げる他無い。
「どうしたの? 行きましょう、コースケ」
「ああ……うん……」
兎にも角にも、再度シュロックさんの暮らす樹甲店を目指すこととなった。屋敷の入口でシャープ・レヴェッカ夫妻と合流し、目的地へ。。
なんか色々と細かいストーリーをスキップしている風味だと脳が警告を送ってくれているものの、鮫介はもう脳みそが疲れ切っていたのだ。正直、早く帰って屋敷のベッドで眠りたかった。
「なんか……カルディアの干してくれたベッドが恋しい……」
「カルディア? 確か、コースケのメイドの名前だったかしら?」
「そうだよ。メイド服の似合う素敵な女性さ。スーもよければ、メイド服を着るといい。あれはいいぞ、男の夢や浪漫が詰まっている」
おっと、と鮫介は小さく首を振る。
欲望が口から吐き出されてしまった。いけない、僕は勇者。決して、格好悪い言動はしてはいけないのだ。
幸い、スーは鮫介の心の内まで把握してはいなかったらしく、「メイド服……」と呟き、押し黙ってしまった。
着てくれるのだろうか。予想は出来ないが、着てくれるなら嬉しいと素直に思う。
だって、メイド服なんだぜ?
「どうせなら、僕の部下の女性陣たちの公式コスチュームもメイド服に……」
「ストップ、コースケ様! それ以上はいけませんよ!!!」
ゴードンの発言でどうにか過激派意見の発言せずに済み、鮫介はゴードンに感謝のウインクを送る。
最近、脳内が軽率だ。未だに頭がスポンジ状態から回復していないのだろうか。もぅ「ぽえぇ」とか言いたくないぞ。
「すみません、リーダーのスビビラビがご迷惑を」
「もう、それはいいよ。スビビラビは……その……女性を愛しすぎただけだからさ」
「……本当に申し訳ない」
「いや、今のはフォローしたつもりだったんだけど……」
必死に頭を下げるデイルハッドとフレミアに苦笑しながら、鮫介は見事に愛を育んだらしいスビビラビに想いを馳せる。
――愛を育むのは個人の勝手だけれど、それで主人の護衛を全う出来ないのはどうなのであろうか?
冷静に考えてみれば、別に苛々はしないけど、段々とスビビラビのやりように腹が立ってくる。
他者と(性的に)絡むところまで、鮫介は別に関与しない。そこを関与してしまえば、鮫介は横暴な上司となってしまうだろう。
そう考えると、ある意味無視しているまであるのだが……流石に上司の護衛まで破棄されるほど飲むのは、如何なものか。
鮫介は脳内で、スビビラビの採点を厳しく付ける。後でジン隊長に知らせなければならない。
……あれ、フォローしていたつもりなのに、全然フォローになってないぞ?
「コースケ様、もうすぐ樹甲店ですよ。さぁ、しゃっきりして」
「う、うん……そうだね、しっかりしないと……」
ゴードンに背中を押され、悩んだ顔をしていた鮫介は速度を上げて列に追いつく。
そして、集団は見慣れた樹甲店の入口に辿り着いていた。
スビビラビに扉を開けさせると、もはや聞き慣れてしまった爆音が響き渡り、そんな空間で、待ち構えていた男が両手を上げて歓迎のポーズを取った。
「ようこそ! 我が樹甲店へっ!!!」
「シュロックさん……」
その男は、店長のシュロックその人だった。
とびきりの笑顔で、仏のごとく笑いかけている……その目の下は、隈がギッシリだ。
もはや黒色インクをぶっかけたような面持ちのシュロックさんはやけにいい笑顔で、我々を歓迎してくれる。正直、怖い。
「あの……眠っていらっしゃらないので……?」
「ははは、睡眠など! せっかく手に入れたカリブルヌス・フラワー、それを大きく育てることに比べたら! もはや二の次ですよ、ははは!」
「いえ、しかし、睡眠を取らないと」
「さぁ、見てください! あれがカリブルヌス・フラワーを育てた種です!!!」
鮫介の言葉が耳に入っていないのか、完全に無視状態でハイなシュロックが後ろを指し示す。
仕方なく、鮫介がそちらに視線をやると――
「デッカ!? え、何あれ、あれ植物の種!!?」
そこには、山積みとなった植物らしき趣旨が大量にあった。
「ふっふっふ、やはり見たのは初めてみたいだね! そう、あれこそが土の念動力を使用して私が育成し、巨大化させたカリブルヌス・フラワーの種だっ!!! 正直、あれだけで一財産になろうという代物だよ!!!」
「あれだけで。いいなー」
「いいだろう! おまけに育成させて刃はより強固に、アーサー王に相応しい優美な形状と化したよ! 更に種は増えて私は財産がっぽりだ! うわっはっはっは!」
シュロックさんの高笑いがその場に響き渡る。
呆れた様子のデイルハッドやフレミア、既に手に持ったメモ帳に何かを書きつけているシャープ氏、変わらぬニコニコ笑顔のゴードンたちに囲まれて、鮫介はようやく、と自分を奮い立たせる。
――ようやく、僕の修行パートが現実を帯びてきた!
もはや何日、この領で無為な時間を過ごしたのか分からない。
後はこれから始まる戦いを何事もなく終わらせてくれ……と、鮫介は小さく神に祈るのだった。
ちなみに、スーの機嫌は直ったわけではなく、俯いて前髪を垂らして表情を隠しているだけです(笑)