1-8
「あ、おかえりなさい!」
部屋に戻ると、2人はもう起きていた。
入れ違いで入浴していたようで、
彼らからも風呂上がりの清潔な香りがした。
「2人もお風呂入ってたのね」
「はい、薬湯の効果もあって体調万全です」
「僕はシャワー浴びただけだけどね」
「フォルはお風呂が苦手なんですよ」
「猫みたい」
「はぁ?!そういうあんたはハムスターみたいだよ!」
「ああ、酒場で美味しそうにご飯を頬張ってましたもんね‥‥ふふ」
「ぐっ‥‥だって美味しかったもの‥‥」
そんな会話をしながら、身支度を整える。
次に彼らが向かうのは、エルフの王国“イズムルート”。
レッフェルを名誉冒険者に上げている国で、
鬱蒼とした森の中に建てられた自然豊かな国だそうだ。
エルフはヒトの中でも最も魔力に秀でており、
イズムルートに行けば私も
魔法を使える術が見つかるかもしれない。
(少しは役に立てるかなって)
昨日国王様から貸していただいた文献は、
誰も読まないし旅のお供に持って行って良いとのこと。
「国王様、召使いの皆さん、傭兵の皆さん、お世話になりました‥‥!」
沢山頂いたマカロンをいただいた風呂敷に包み、
お城の外で別れの挨拶をする。
国王様、召使いの方、傭兵の方が数名、
お見送りに来てくださった。
「僕達はこのままイズムルートに向かう予定です」
「応援部隊とても助かりました。お世話になりました」
「2人とも立派になったな。その強さを以て彼女のことも守ってあげるように」
レッフェルとフォルケッタの肩をレックスが叩くと、
2人とも鼓舞されたのか元気よく返事をした。
ふと国王様と視線がぶつかると、彼は私に手招きした。
鎖骨へのキスを思い出して気まずくなるものの、
さすがに無視は出来ないので大人しく彼に歩み寄る。
(‥‥いつも君を見ている)
穏やかな声で耳打ちをされ、
鎖骨を服の上から人差し指でなぞられた。
ぶわっと顔に熱が集まり、何も言えずにいると、
ニコニコと人のよい笑みを浮かべ頭を撫でられた。
そのまま背中を押されて、2人の元へと戻った。
「では、気をつけて」
ひらひらと手を振るうレックス。
何も知らない2人は大きく手を振り返し、
まだほとぼりの冷めない私は小さく手を振った。