1-7
「おはようございます‥‥」
とても眠い。
レッフェルとフォルケッタが寝た後も、
彼らの傷が痛まないか心配で眠れなかった‥‥。
そして朝の5時を時計の針が刺した時、
召使いの方伝に国王様からお呼びがかかった。
「ああ、おはよう。朝早くにすまないね」
レックスの部屋は絵に描いたような王家の書斎だ。
応接用のソファに案内され腰をかけると、
無限に体が沈んでいく柔らかさが虜になりそうだ。
「寝れていないだろう。2人の部屋に召使いを寄越したから、君は少し休むといい」
そう言って国王様は机に向かって書類仕事をしている。
自分は働いておきながら、他人を休ませるなんて。
よく見ると、彼の顔には疲れが滲んでいる。
沢山の召使いや傭兵の前ではちっとも分からないのは、
きっと隠しているからなのかな。
私はソファから立ち上がり、国王様に歩み寄る。
「‥‥ん?どうかしたか?」
「あの、一緒に寝ませんか?」
レックスは口をぽかんと開けて、
国王らしかぬ間抜けな顔をさらした。
が、それも束の間。
いつものどこか威厳溢れる姿に戻った。
「すまないが、私には仕事が‥‥」
「疲れが出てますよ。そんな姿じゃ、従う人たちもきっと不安になります」
椅子に腰掛けた国王様は、
立っている私より小さく感じる。
少し痩けた頬にそっと掌を合わせて、
うっすらくすんだ目元を親指でなぞった。
大人しく瞼を伏せる彼が何だか母性を擽るので、
つられて柔らかい彼の髪を手で梳くように撫でる。
後で我に返るのだが、
私は国王様になんてことをしてしまったのだろう。
しかし彼には、私なんかよりもよっぽど、
人を魅了し従いたくなるような魅力が溢れている。
ぽすんと、彼の頭の重さが私の胸に預けられた。
「確かに、な‥‥君の言う通りかもしれない」
「少しだけでいいです、休みましょう」
「ああ、だがな‥‥一つ覚えておくといい」
彼が椅子から立ち上がる。
急に私の背丈を追い抜いて、見下される。
腕を掴み上げられ、
空いた片手で腰を抱かれて引き寄せられると、
鎖骨が、温かいような痛むような感覚に襲われる。
「ぁ、‥‥っ」
「‥‥国王である以前に、私は一人の男だぞ」
爆発するんじゃないかってくらいに、心臓が高鳴る。
マカロンは夜中に食べた。
まだ効いてるはずなのに‥‥一体何故。
「わ、たしは‥‥あなたに、休んで‥‥欲しくて‥‥」
「‥‥ふふ、驚かせてしまってすまない」
ギラギラと獣のような眼光をしていた瞳は、
元の優しい眼差しに戻り、
国王様は私をひょいと抱き上げて、
隣の寝室のベッドまで運んで下さった。
「ごめんなさい‥‥軽率な真似を‥‥」
「否、気にするな。私も疲れていた‥‥少し、休む‥‥」
腕枕をされたまま、私は意識を手放した。
***
目を覚ますと、ばっちり国王様と目が合った。
寝る直前のことを思い出し赤面するが、
国王様は笑って私の頭をぽんぽんと撫でるだけだ。
大人の余裕ってやつでしょうね。うん。
看病につきっきりでお風呂に入れていない私を案じ、
レッフェルとフォルケッタの部屋に帰る前に
召使いの方に浴室を案内された。
脱衣所の鏡を見る。瞳はやっぱり赤いまま。
そして、驚いたことが2つ。
1つ目は、洋服。
私が着ている服は、元いた世界で私が
デザイン案を出したワンピースだった。
(今まで全然気づいてなかった)
2つ目は、‥‥ンンッ。
国王様に、き、キスマークを付けられた所に。
見たことも無い不思議な文様が刻まれていた。
何だろうこれは、聞きたいけど気まずい。
多分悪いものでは無いのだろうけれど‥‥。
浴槽から出ると、
着ていた服が新品のように綺麗になっていた。
これも魔法なのかなあ。
あ、国王様と同じ匂いがする。いい香り~‥‥って、
変態みたいじゃないの私!やめなさい。
服を全て身に付け、最後に胸元にブローチを付ける。
でも、このブローチは私のデザイン案には無かった。
付ける途中落としてしまい、
その衝撃で二つに割れてしまった。
慌てて拾い上げたが、造りがロケットになっていただけで
壊れてはいなかった。
よく見ると、ロケットの中には文字が刻まれていた。
(calix‥‥カリス?)
よく分からなかったので、
そのままロケットを閉じて胸元に装着した。