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フェアリーテイルオブシーヴ  作者: unique
【Ⅷ】天界ヘイヴン/メーテル神殿
57/58

8-1

暖かな日差しに、風に舞う草花。

雲一つない青空は何処までも続いていて、

永遠の春を約束されたような

麗らかな浮遊大陸―――コハク国。


その地は今、血に塗れ死屍累々としていた。


倒れ伏した三体の天族。

それらを冷たい眼差しで見下すオベリスクに、

相変わらず胡散臭い笑みを貼り付けたナイトメアと、

退屈そうに欠伸をするラビリンス。


その後ろに、応援に駆けつけたはずの

レッフェルとフォルケッタが立っていた。


(これが、オリジナル……!)


レッフェルは唾を飲んだ。

その圧倒的な力に、

敵は為すすべもなく無残に散っていったのだった。


……自分は遠く及ばない。

マスカレドを相手した時も、

フォルケッタと阿吽の呼吸で協力したところで、

掠り傷一つ付けられた程度だ。


「もう殆ど死んでますねぇ」


ナイトメアが、動かなくなった国王達の頭を

爪先で転がしてみせる。

それらはぴくりとも反応を見せなかった。


「後は、彼らに任せてしまいましょうか。折角応援に来てくれたのに、何もせずに返すのは可哀想ですしねぇ」

「さんせー。リスちゃんも、俺達が来るまでの経緯を詳しく聞きたいから、魔界来れる?」

「ああ、構わない。寧ろ歓迎だ……という事で、後始末は頼んだぞ」


ナイトメア、ラビリンス、オベリスクの三名は、

そのまま魔界へと消えた。

残されたレッフェルとフォルケッタは、

顔を見合わせて肩を竦めた。


「ま、いっか。首を持って帰れば良いんだもんね」

「もう生命活動の気配もありませんし、大丈夫でしょう。早く切り落としてしまいましょう」


鞘から剣を取り出すと、

レッフェルはレックスの見た目をした敵の首筋に、

刃をひたと当てる。


脳裏を駆け巡るレックスとの記憶。

……それすら、最初から用意されていた紛い物だ。

躊躇う必要は無い。


愛する彼女の為ならば、

この手を血に染める事さえ厭わないと誓おう。


「……さよなら」


柄を握る手に力を込めた、その時。

レックスの肉体から無数の光の筋が溢れ出し、

闇属性のレッフェルの肉体を焼いた。


驚いてレッフェルは距離を取り、焼かれた腕を抑える。

フォルケッタは光を睨み、構えの体勢に入った。


「大丈夫?」

「……ええ、何とか」


パキパキと、レックスの身体にヒビが入って、

その隙間からより一層光が溢れ出す。


まるで蛹から蝶が変態するように、

消えた筈の鼓動が再び息を吹き返すように、

全身眩い白色の、美しい翼を持つ者が生まれ出でた。


レックスの肉体は灰となり、

そよ風に吹かれて砂のように崩れていく。

その上に立ち、

此方を憎しみに満ちた瞳で睨み付けてくるのは、

レックスの肉体を奪っていた本人……ヘリオスだった。


「何故だ……オリジナルがあんなに強いなんて、想定外だ。あんな化け物じみた魔力、コスモス様ですら適わないだろう。なのに何故、僕達でも倒せるだなんて言ったんだ……まさか、コスモス様は最初から僕達を」


彼は、武器を構えた2人には目もくれず、

しきりにぶつくさと何かを呟いている。


隙をついてフォルケッタが

刃のように鋭い体術をヘリオス目掛けて切り込むが、

ヘリオスの背中から生えた大きな翼が

彼自身を守るように包み込むと、

柔らかに見える羽根は鋼鉄のように硬く、

フォルケッタの重い蹴りをバネの如く弾き飛ばした。


「チッ……硬い!」

「フォル、連携しましょう!」

「勿論……!」


前後左右から怒涛の打撃と斬撃が繰り広げられ、

翼に包まれたヘリオスが少しずつ顔を出す。

しかし、ヘリオスはそれに気付いていないようで、

焦点の合わない瞳でぶつぶつ独り言を言っていた。


衝撃に耐えきれず、羽根が散っていく。

傷口から光の魔力が漏れ、血の代わりに流れていく。


何故、抵抗しないのだろうか。

2人は疑問に思った。

血眼で呟き続けるヘリオスにおぞましさを覚えた時、

ぐるんと眼球が動き、彼の視線が2人を捉えた。


「煩わしいアルカデアの蠅共め……しかも、魔族側に手を染めているとは。天罰が必要だ」


ヘリオスは、倒れ伏したクロイツとピックの胸を抉り、

まだ温かい彼女らの白い心臓を抜き取ると、

それを口に運び、飲み込んだ。


すると、彼女らの屍はレックスのように、

灰となって崩れ去っていった。


ヘリオスの不気味な高笑いが浮遊大陸に響き渡る。

2つの心臓を喰らった彼の背中から、

ボコと皮膚を突破って、更に2対の翼が芽を出した。


「最初からこうすれば良かったんだ。使えない同期共の尻拭いにうんざりしていたのさ。何故、今まで考えつかなかったんだろう?これで僕は、新たなケイオスだ……!」


レッフェルは、己の中の闇属性が

危険信号を発しているのを感じていた。

先程と比べ物にならない光属性の魔力の強さだ。

気持ちの悪い汗が背中を伝う。


……しかし、オリジナル程の魔力ではない。

フォルケッタと力を合わせれば、

奴を狩ることも、不可能では無いはずだ。


「フォル……力を貸して下さい」

「はっ……あったり前でしょうが」

「死ね、ごみ屑共め!」


3対6枚の翼が、2人に襲い掛かる。

雨のように降り注ぐ羽根の刃を華麗に避けながら、

ヘリオスとの距離を詰めていく。


大丈夫だ、落ち着いて戦えば勝てる。

足は引っ張れない。

必ず、此奴の首を持って帰らなくてはいけない。


剣が届く距離まで詰めた。

レッフェルは自身の魔力を魔法剣に篭めて、

剣を振り翳す。


それまで気付かなかった。

羽根の刃が、軌道を変えて自分を追って来ていることに。


「フェル!!」


考え事をしていた。

未だ完全に慣れない闇属性の体で。

未知の敵との対峙している時に。


全てが自分のせいだと、それは間違いない事実で。


自分を呼ぶ相棒の悲痛な叫びに振り返ると、

彼は血を流しながら肉壁となり、

レッフェルを追っていた無数の羽根の針山となっていた。


「ッ……!!」

「振り、返るな……斬って……!」


どすりと、鈍い音がした。

フォルケッタの胸を貫く、一際大きな羽根。

彼は血を吐きながら、

心配させまいと不器用に微笑んでいた、


「……後は……お願い」


片膝を着いた彼の姿を最後に、

レッフェルは声にならない雄叫びを上げながら、

視界に捉えたヘリオスに斬り掛かる。


硬く変容した彼の肉体は刃を受け止めてしまったが、

レッフェルの中の闇が溢れて魔法剣に伝わると、

刃の威力は加速し、鋼の肉体にめり込んでいった。


その闇は、フォルケッタを傷付けた

ヘリオスへの憎しみ。

そして、その様な状況を生み出してしまった

自分に対する怒りだった。


「何故だ……何故だ何故だ何故だ何故だ人間風情のごみ屑の分際で、神聖なる天族たる僕に適うはずが……!」

「神聖だとかごみ屑だとか、自分の価値観で他人を量って語る奴なんてごみ屑以下だろう!僕からすれば君はよっぽど、塵芥の無慈悲極まりない悪魔だ!!」

「何だと……!」


精神が不安定なのか、

レッフェルの言葉を聞いたヘリオスの防御が揺らいだ。

より一層剣に力を篭めると、

重たいものの刃は彼の肉体を貫通して切断した。


上半身と下半身で真っ二つになった身体が、

地面にごろりと転がった。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛……!!焼ける、焼けるように痛い……!!」


闇属性の魔法剣で刻まれた断面は、

黒ずんで腐敗が侵食しているように見えた。

やはり、光属性の天族に闇属性は刺さるのだろう。

ヘリオスは悲鳴を上げ、のたうち回っている。


レッフェルはすぐさま魔法剣を鞘に仕舞うと、

フォルケッタの元に駆け寄った。

彼に刺さった羽根は、

光の粒子となって消え掛かっている。

息もまだある、レッフェルは胸を撫で下ろした。


「フォル、すみません。僕は……」

「謝んないでよ……気持ち悪い。ほら、さっさと仕留めてきてよね」

「勿論です、此処で休んでいて下さい」


彼が辛くない体勢に寝かせてやると、

再び剣を抜いて、暴れ回るヘリオスの元に足を運ぶ。


ヘリオスの首からぶら下がる鎖を、

剣で地に打ち付ければ、

繋がれた犬のように大人しくなった。


「……殺すのか、僕を」

「ええ、殺します。愛しい人の為に」

「手に入らないと、分かっていても?」

「……知ってるんですね」

「彼女は、この世界の全てに愛されている。君達だけじゃない、僕達天族もそうなるように作られている。君はそれを、真実の愛だと言えるのかい」

「良いんです、どうでも。これが作り物の感情だとしても、僕は彼女を愛しています。少しでも傍に居れるだけで幸せなんです……ですから、死んで下さい。邪魔なので」


「困りましたね……彼を殺すまでの間、少しだけお時間を頂けないでしょうか」


何時の間に、気配が無かった。


ヘリオスとは別の天族が、

ふわりとレッフェルの肩に触れた。

強烈な光属性に、触れられただけで電流が走るようだ。

反射的に距離を取って、様子を伺う。


その天族は気絶したフォルケッタを抱き抱え、

穏やかな眼差しでこちらを見ていた。


「そんなに警戒しなくても大丈夫ですよ。……ああ、申し遅れました。私はコスモス……この子達の、上司に当たります。部下がご迷惑をお掛けしました。ヘリオスは……仲間を喰らうという罪を犯しました。ですから、天界にてきっちりと処罰をさせるつもりです」

「フォルケッタを返して下さい」

「勿論です……が、部下がこの方に傷を付けてしまったようなので、そのまま返す訳には行きません。此方で十分な処置を行わせて頂いてから、必ずお返し致します。不安なようであれば、共に天界に来ていただいても構いません」


人の良い笑みを浮かべているが、油断は出来ない。

地面に突き刺した剣を取ろうとすると、

何か違和感を覚えた。


いつの間にか、レッフェルの手には

百合の紋章を刻まれた金の鍵が握られていた。


「それは、天界を訪れるための鍵です。貴方に渡しておきます……では、私達はこれで」

「待っ……!」


絹糸のような眩い光の粒子に包まれ、

コスモスとヘリオス、

フォルケッタはその場から跡形もなく姿を消した。


残されたレッフェルは、

暫く呆然とその場に立ち尽くしていた。

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