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フェアリーテイルオブシーヴ  作者: unique
【Ⅶ】コハク国
53/58

7-5

ウロボロスを針達磨にしていた無数の刀が、

一本ずつ、オベリスクの肉体へと還っていく。

全ての刀が無くなったのを確認すると、

悪路王は、ウロボロスを担いで魔界へと消えた。


彼女の施しを受けてから、

意識が回復しただけでなく、普段から苛まれていた

身体中の引き裂かれるような痛みも無くなった。


これは、一体……?


「まだ使えそうだったから治しちゃった!もし死ぬつもりだったならごめんよ~?」

「否……有難い限りだ」

「まっ……気に食わないけど、マカちゃんの指示だから。信頼出来そうなら生かせって、ね。お礼言うならマカちゃんに言って」


体内に全ての骨が戻って来たので、

自力で立ち上がれるくらいまで回復した。


しかし、めありはまだ心配なのかオロオロしている。


「もう大丈夫だ……心配かけて、すまなかったね」

「いえ、大丈夫なら良かったわ」


ほっとしたように微笑みを浮かべる彼女を見ていると、

どうしようもない感情で満たされる。


駄目だ、この感情は……彼女だけには抱いてはならない。

どんな手段を使ったとしても、

彼女が手に入ることなど有り得ないのだから。


認めてしまえば、自分が苦しむだけなのだから……。


そうだ……距離を、置こう。

もう暫くは、私の出番もないだろうから。


「……コハク国の主は、ウロボロスだった。彼が魔界に帰った今、この国の主は居ない」

「そうだねぇ!残されたドラゴニュート族は殺すかい?」

「否、その必要は無い……彼等もまた、私達キメラと似た存在……見捨てることはできん。私が、この国を纏めよう」

「ふぅん?アレアシオンはどうするの?リスちゃん、アレアシオンの国王をキメラにしてたんじゃなかったっけ?実際、今のアレアシオンの国王はリスちゃんみたいなものでしょ」


識別記号、チルダ。

彼は、私の最初の作品(こども)であり、

嘗てアレアシオンを治めていた国王“カロ”だった。


アレアシオンは非人道的なことをしても、

それが科学に貢献できるものであれば認められる国。


しかし、それでもやはり認められるものに限りがある。

私のキメラ技術は、魔族の遺伝子を人間に取り込むもの。

人間は魔族を忌み嫌う傾向にあるため、

キメラ技術は異端として告発され、私は指名手配された。


認められない……ならば、この国の王を操ればいい。

そう考えた私は、国王を捕まえて自分の作品にした。

元々彼は、伝説の冒険者だったという設定の一人だ。

キメラになった彼は、非常に優秀な駒となった。


そうして私は、国王である彼を操りながら、

識別記号チルダとして、優秀な彼を量産した。


現在のアレアシオン王国は、

操り人形となった国王を裏で操作しているオベリスクが

裏の国王のようなものだった。


「チルダをキメラから解放する。そうすれば、以前のアレアシオン王国に戻り、私達キメラの居場所が無くなるだろう。そこで私達は、地図にも載らない隠された国に逃亡……地上から恐ろしいキメラは居なくなり、めでたしめでたしという訳だ」

「へえ!キメラって、分離もできるんだねぇ~」

「ああ……後は私達に任せて、お前達は魔界に帰ると良い。魔王が待っているのだろう?私が必要になったら、何時でも呼んでくれて構わない」


これで……暫くのお別れだ。

彼女と距離を置けば、このほとぼりも冷めるだろう。


めありは、寂しげな表情でオベリスクを見つめている。


嗚呼。どうか、そんな顔を見せないでおくれ。

君にはオリジナル達、魔王が……天王だっているだろう?

君が悲しむ表情を見ていると、

光と闇が穿ち合う痛みよりも私は辛く苦しいんだ。


「オベリスク……今まで、ありがとう。また此処に遊びに来てもいいかしら?」

「……勿論だとも。君の大好きなご馳走を用意して待っているから、また美味しそうに頬張る顔を見せてくれ」

「もう、そんなもので良いなら幾らでも!」


とびきりの笑顔で笑う彼女。

そんな笑顔を見せられてしまったら私は……。

本当に、申し訳ない。

最後に一度だけ、どうか許してはくれないだろうか。


めありの薔薇色の頬に手を添えると、

その弧を描く唇に、ふんわりと己の唇を重ねた。

くりくりとした可愛らしい目が、驚いたように見開く。


「……これも、魔法?」

「君が、私を忘れられなくなる魔法だ」

「ふふ、そんなの……忘れないに決まってるでしょう!」


花が綻ぶようにはにかむ彼女を、

慈しむかの表情を湛え、その目に焼きつける。


彼の心情を察しているのだろうか。

ラビリンスは、最後まで何も口出しせずに

2人の別れを見届けた。


***


めありとラビリンスが魔界に戻ると、

ニクラウスに羽交い締めにされたウロボロスが、

オリジナル達に囲まれて、ぎゃあぎゃあと暴れていた。


悪路王に粉砕された頭は、まだそのままなのか、

首から上が無い状態で暴れる姿は滑稽だった。


「あ、お帰り。大変だったみたいだね」


めあり達に気付いたミッチェルが迎えてくれた。


ミッチェルの傍に居たクリフォトも、

彼の後ろからひょっこり顔を出してこちらを見ている。


「めありぃ……怪我、無い?大丈夫……?」

「大丈夫よ!心配ありがとうね」

「うん……えへへ」

「クーちゃん、俺の事も心配してよ~」


めありがクリフォトの頭を撫でてやると、

嬉しそうに目を細めて笑う。

人懐こい犬みたいで、つられて微笑んだ。


なんてほのぼのしていると、悲痛な叫び声が劈く。


「嫌じゃー!!ワシまだ遊び足りないもん!アルカデアに帰るんじゃあー!!」

「るッッせぇ!!!テメェちょっとは反省しろ!!」

「貴様の方が煩いぞ、駄犬」

「んだとゴルァ!!」


またマスカレドとニクラウスが啀み合ってる。

相変わらず仲が良いんだか悪いんだか……。


苦笑いを浮かべてその様子を眺めていると、

不意にこちらを見たマスカレドと目が合った。

彼が私に手招きすると、

私の身体は勝手に彼のいる方向に引き寄せられ、

すっぽりと、マスカレドの腕の中に収まってしまった。


「きゃっ……!?」

雉隠(きじかくし)、彼女が聖杯だ」

「うっ……見た!先刻見たのじゃ!!しかもその名で呼ぶんじゃない!!ワシはオリジナルなんかに戻らんと言うておるじゃろうに!!!」

「雉隠……?」

「ああ、彼は人界で自らをウロボロス等と称していたが、オリジナルとしては“雉隠”と名付けられている」

「嫌じゃ~……ウロボロスの方が格好良いに決まっておる~……」


頭が無いのに、何処からか声が聞こえる。

どういう仕組みなのかしら……。


考え込むめありの手首をマスカレドが掴んで、

暴れる雉隠の肩にそっと触れさせると、

彼は驚いたのか、飛び上がって後退し

首の断面がニクラウスの顔面に思い切りぶつかった。


「ギャンッ……テメェゴルァ!!」

「止めろ!!女子(おなご)をワシに近付けるでない!」

「えっ……何か、ごめんなさい」

「ククッ……気にするな。奴は女耐性がてんで無いだけだ」

「まっこと貴様らは性格が悪いのう!!揃いも揃ってワシを虐めるから魔界は嫌なのじゃ!!!このあんぽんたん共め!」


何となく彼が魔界を出た理由を察した。

ちょっと……否、大分可哀想ね。


「あまり虐めたら可哀想よ?」

「そーじゃそーじゃ!また隙をついてアルカデアに逃げてやるぞ!」

「貴様……まさかとは思うが、聖杯が満たされたことに気が付いていないのか?」


ピタリと、雉隠の動きが止まった。

その場にいた全員が、黙って雉隠を見ている。


彼が力なくだらんと両腕を垂らすと、

ニクラウスはもう抑える必要が無いと感じたのだろう、

彼を解放した。


彼は暴れること無く、その場にへたり込んだ。


「それは誠か……?闇から身を遠ざけすぎたせいで、全く感じ取れなかったぞ……」

「だろうな、貴様の闇は風前の灯だ」

「貴様らは……己を喪うことが恐ろしくは無いのか?魔王の都合で望んでもいないのに作られ、自由を与えられずに永遠とも思える退屈の中に囚われ、時が来たら用済みと消される事に憤りは無いのか?」


ぽつり、ぽつりと雉隠が零す言葉。

……それは、私も薄々感じていたことだった。


しかし、マスカレドは間髪入れずに否定した。


「無いな」

「何故、迷いも無く言い切れる?」

「……貴様には少し時間が必要みたいだな。聖杯よ」

「は、はい」

「彼と共に、ヴァリオン内を散策してくるがいい」


マスカレドの合図で、

オリジナル達はカンタレラと雉隠を除いて

何処かへと消えてしまった。


カンタレラは何も言わずにめありの左手を掬い取ると、

薬指の付け根、己の刻んだ紋様に唇を落とした。


「暫くの間、預かって おくから」


そう囁いて、彼もまた煙を巻いて消えてしまった。

薬指を確認すると、

カンタレラの封印の証である紋様が失われていた。




暫くの沈黙。……何となく、気まずい。

雉隠と2人きり、何も無い空間に残されてしまった。

彼の方を見てみても、微動だにしない。


よし、思い切って声を掛けてみようか。


「あの……良かったら、一緒にお散歩しまんか」

「……」


グロテスクな音を立てて、

雉隠の首から上がみるみる内に修復されていく。


やがて、傷一つ残らず綺麗に治った彼の顔。

蜂蜜のような黄金色の瞳に、

真夏の草木を連想させる、青々とした彩の髪の毛。

……まだ、視線は合わせてくれないようだ。


彼は黙ったまま頷くと、

差し伸べられためありの手を恐る恐る握り、

その場からゆっくりと立ち上がった。

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