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フェアリーテイルオブシーヴ  作者: unique
【Ⅶ】コハク国
52/58

7-4

そこに足を踏み入れると、

ちゃぷんと、水に浸かるような感覚があった。

けれど実際に濡れたりはせず、

それはコハク国を隠していたメタンに触れた感触だった。


メタンをすり抜けている間とても眩いので、

めありは目蓋を閉じ、手探りで歩みを進めていく。


魔力が身体中に絡みついて、水の中を歩いているようだ。

暫く歩くと、魔力の海を抜けたのか体が軽くなり、

同時に眩さからも解放されたので、そっと目を開けた。


そこに広がっていた世界は……。


疎らに聳えた木々に、地上には咲いていない草花。

彼方此方に点在する、苔むした古い遺跡。

崩落した遺跡には巨大な木の根が絡んでいる。

見渡す限りだと、人の気配は無かった。


ひらひらと、橙色の蝶が何処からか飛んできて、

めありの鼻先に止まった。


「?」

「……危ねえ」


横から悪路王が飛んできて、

めありを引っ捕まえてその場から離れる。

先程の蝶は光を放ち、大きく爆発した。


悪路王が助けてくれなかったら、

今頃めありの頭は吹っ飛んでいただろう。


「えっ……えっ!?」

「あー……此処は、火属性の奴らが強さを求めて探し求める場所だ。力量を測るのに手軽な方法は罠、それが至る所に仕掛けられてんだよ」

「そっか……ごめんなさい、ありがとう」

「見た目に惑わされて気を抜くな……」

「わかったわ」


周囲を見渡して見るが、

オベリスクとラビリンスは見当たらない。


結界に入ると、ランダムな位置に転送されるみたいだ。

私は運良く悪路王の近くに出れたみたい。

死なずに済んで良かった……。


その後も、蔦が足に絡みついて転びそうになったり、

(悪路王が助けてくれた)

魔族ではないが、動物の群れに襲われたり、

(また悪路王が助けてくれた……)

木から猛毒の木の実が落ちてきたりした。

(またまた悪路王が助けてくれた…………)


「……めんどくせえ」

「ごめ゛ん゛な゛ざい゛いいい!!!」

「なあ……どうやって抱かれたら苦しくないんだよ」

「えっと、おんぶとか……横抱きですか、ね?!」


言った傍から悪路王に抱き上げられた。


最初の横腹に丸太を抱えるようなあれは苦しかったが、

オベリスクをなぞった横抱きフォームのお陰で、

今回は頭に血が上る事も無さそうだ。


「うう、本当すみません」

「一々謝るんじゃねえ……喧しいわ」

「ハイ!!」


めありを抱き抱えたまま、

罠を次々と突破して進んでいく悪路王。

突破と言うよりかは、粉々に粉砕しているような……。


暫くして、ラビリンスに合流した。

中間地点まで来たが、一向に人の気配は無い。


「本当に国なのかしら、ここ……」

「ん~、国だけじゃなくて人も隠してるみたいだねぇ」

「分かるの!?」

「リスちゃんも回収してから言おうかなって思ってたんだけどねぇ、見つからないからもう始めちゃおうか」


始めるって、何を?


めありが言いかけた途端、

ラビリンスは己の右目を覆っていた眼帯を外した。

彼の右目には……眼球が無かった。


その空洞に、周りの魔力が吸い取られていく。

ブラックホールのようだ。

辺りの空間がねじ曲がり、彼の穴の中に消えていく。


橙色の蝶、蠢く蔦、猛毒の木の実。

それらの正体は、全てドラゴニュート族の仕業だった。


悪路王が足蹴にして粉砕した彼らは、

見るも無惨に、血を吹き出して倒れている。

魔法が解かれた瞬間、血の匂いが辺りに充満した。


吐き気がして、口元を抑えて視線を逸らす。


「ゔっ……」

「嗚呼、可哀想に……君は見ない方がいい」


心配しているような台詞なのに、

声色が何処か愉快そうなのは気のせいだろうか。


「おい、女……俺の目を見ろ」


悪路王がそう言うので、大人しく従う。

白い瞳と目が合うと、

徐々に、恐怖心と吐き気が治まってきた。

血の匂いも感じなくなった。


「あんたにとって、都合の悪いものは遮断した」

「アクちゃん優しいねぇ!」

「うざ」

「あり、がとう……」

「よーし、まずはリスちゃんを探すぞー!」


私達が来た道と、ラビリンスが来た道の逆側、

最も高く聳える遺跡に向かって進む。

この辺りの遺跡と比べると、

それは限りなく原型を保っているように見えた。


足を進めるのと同時に、

進む先から空気が振動しているのが伝わってくる。

……この先で、何かが起きている。


示唆するように、

ドラゴニュート族が行く手を阻む頻度が増えてきた。

それをものともせず、

ラビリンスと悪路王は軽々と倒してしまう。


その時だった。

巨大な遺跡の方角から、爆発音が聞こえた。


「あー……やってるみたいだねぇ」

「もしかして、オベリスク?」

「みたい。ちょっと急ごっかー」


***


予想はしていたが、

まさか早々に戦うことになるとはな……。

オベリスクは一度落ち着くために、煙管を咥えた。


目の前には、例のオリジナルが居た。

黒い着物に彼岸花、暁の空を閉じ込めた瞳。

扇子で口元を隠しながら、不敵な笑みを浮かべている。


彼こそが、ウロボロス……。


「久方振りの客人が、まさか天族とはな。しかも、オリジナルと手を組んでいるとは驚いたのう……」

「そう言うお前もオリジナルでは無いのか?」

「嗚呼……そんな時期もあったのう。じゃが、今のワシは違う。闇を捨て、我が子らと共に幸せな国を築いておる」

「飯事をする歳でもあるまい」

「……闇とは“檻”よ。確かに素晴らしい力ではあるものの、自由がまるで無い。自由とは、生きとし生けるもの全てに平等に与えられなければならないのじゃ」


自由、か。

彼はそれを求めて、

闇から己を切り離そうとしているのか。


確かに、彼の身体から闇属性は殆ど感じられなかった。

感じ取れるのは、純粋な竜属性。

己の力で新たな属性すら生み出すとは。

流石はオリジナル、と言ったところか……。


「闇から己を切り離す為に闇属性を持つ同族を殺し、竜属性と称して新たな同族を生み出していたのか」

「ほう、貴様は物分りが良いな。さては智天使か」

「さあ……堕天する前の事はすっかり忘れてしまったよ」

「左様か……まあ、丁度良い。ワシの中に残った僅かな闇を打ち消すのに、天族の血を求めておったのじゃ。貴様の命、頂いておこう」


扇子を閉じる音と同時に、

辺りからドラゴニュート族が何体か湧いて出た。

オベリスクがそれらを一瞬で薙ぎ倒すと、

ウロボロスは不敵な笑みを浮かべた。


「ふむ……ワシが直々に相手をした方が早いか」

「それはどうも」


オリジナル相手となると、煙管をくゆらす暇もない。

最後に肺いっぱいに煙を蓄えると、火を消した。


さて、どこまで通用するか。




光属性の攻撃は、ウロボロスには相性が良かった。

彼が自分の中に僅かながら闇が残っていると

告白してきたお陰で、最初のうちは優勢だった。


しかし、オベリスクの肉体は既に限界だった。

鬩ぎ合う光と闇で腐食していた肉体が、

戦いで光属性を扱うことによって劣化が進み、

結果として、戦闘中ですら激しい痛みが伴った。


痛みに気を取られた瞬間、

翼の一枚にウロボロスの攻撃が当たって、

バランスを崩してしまった。


ウロボロスの攻撃はオベリスクの翼を貫いて、

彼の背面にあった遺跡の壁を破壊した。


「くっ……」

「はぁ……甘美じゃ。光とはこのような味をしておるのか。誠楽しみじゃ……!」


このままでは殺されてしまう。

仕方が無い、あれを使うしか無い……。


オベリスクはマント裏に隠していた鞘から

ミセリコルデを取り出すと、

己の頸動脈目掛けて思い切り突き刺した。


どす黒い血が地面に飛び散る。


「残念だが……この血を一滴もやる気は無いな」

「……何じゃと?」


地面に飛び散った血は、

まるで生きているかのように蠢いて、

地に何やら魔法陣のようなものを描いた。


すると、オベリスクの肉体から無数の刀が吐き出され、

それらは彼を囲うように浮遊している。


「貴様……何者じゃ」

「……ある時は天族、ある時は魔族。そして己の限界まで肉体を改造し続けた……人々は私達をキメラと呼ぶ」


無数の刀は、前触れも無くウロボロスに襲い掛かった。

不規則な動きに翻弄されている。

攻撃で何度弾き飛ばしても、

何処からか沸いた別の刃が彼を追い掛ける。


隙間無く刀で埋め尽くされた空間は、

例えるなら、海中で見掛ける回遊魚の群。


最早、彼に逃げ場などは無い。


「ええい、鬱陶しい!何故毀れぬ!」

「……その刀は……私の、骨だ……この世界に存在する……何よりも、硬い……」


バランスを保てなくなったオベリスクが倒れる。

しかし、刀は動きを弛めない。


自分は動けなくても、刀は動かせる。

時間を稼がなくては……必ず後から皆が来る、

それまでは……。


「オベリスク!」


朦朧とした意識の中に、愛しい彼女の声がした。


倒れた身体を起こされ、心配そうに顔を覗き込まれる。

その瞳は……黄金色に淡く輝いていた。


「め……あり、なのか?」

「先に謝るわ。ごめんなさい!」


彼女は、その黄金の瞳に迷う色すら見せずに、

私の唇に己の唇をそっと押し付けてきた。

訳が分からずに、ただ大人しくその接吻を受け容れた。


その様子に気を取られたウロボロスの肉体を、

隙を付いて全ての刃が穿いた。


「リスちゃん、よく持ったねぇ。まあ、闇を捨てたオリジナルなんてゴミも同然だよねぇ」

「うっ……き、貴様らァ……!」

「何時まで駄々捏ねてんだ……あんたの我儘で、世界を巻き込むんじゃねーよ。帰んぞ」


めありに続いて、

ラビリンスと悪路王が遺跡内に現れた。

串刺しになったウロボロスが2人を睨んでいたが、

悪路王はそれを無視して彼に近づくと、

片手で彼の頭をがっしり掴み、そのまま粉砕してしまった。


辺りに肉片が飛び散る。

ウロボロスの首の断面からは、

血とは違う、煙状の何かが立ち上っていた。


彼女の唇が離れると、オベリスクは閉じた目を開いた。

徐々に意識が回復してきて、

何故か身体の痛みも引き、視界が鮮明になる。


「めあり、その力は……?」

「ラビリンスが、『俺が直接オベリスクを修復すると闇属性が飽和して壊れちゃうから』って、私伝いに修復する事になって。私の肉体を媒にすれば、無属性になるから無害だそうです」


彼は、私の肉体の状態を見抜いていたのか。

本当に……全く、恐れ入った。

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