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フェアリーテイルオブシーヴ  作者: unique
【Ⅶ】コハク国
51/58

7-3

まさか、人間に竜属性を伝授していたのが、

11体目のオリジナル本人だったとは。

オベリスクは首を捻った。


彼は、臥竜種魔族のオリジナル。

その正体は、何が気に食わないのかは分からないが

同族を皆殺する殺戮者だ。

そして、己が狩り取った臥竜種魔族の血で、

人間に“竜属性”と言う名の力を分け与えている。


これだけ聞けば、

彼は魔族と言うより人間の味方のようだが……。


「お」

「……んが」

「ほう」


各々の部下より同時に連絡が入ったらしい。

悪路王もベッドから這いずり出てきた。


「見つかったのかしら?」

「そーみたい」

「……(無言で頷く)」

「……なるほど、浮遊大陸か。どうりで見つかりにくい筈だ」


浮遊大陸。

雲の層より上の、人間が生活するには厳しい環境の地。

故に出入りが少なく、

情報も真偽の問われるものばかりだった。


その上、浮遊大陸は常に移動し続けている。

一定の場所に留まることが出来ないため、

昨日あった場所に無いなんてことはざらにある。


「国をまるごとメタンフィエシスで隠しているみたいだねー。何も無いところに石を投げたら、そのまま石が吸い込まれて消えたってさ」


メタンフィエシス……。

装備をお洒落な洋服に見た目だけ変える魔法だ。

以前、私も装備を貰って、

見た目をこの服に戻してもらんだっけ。


……あれ?

誰だろう、顔が思い出せない……。


「……口に合わないか?」

「あ、いえ。すごく美味しいわ、ありがとうございます」

「なら良かった。サプフィールでその木の実を気に入ったようだったから、沢山買っておいたんだ。ジュース以外にも何か欲しいものがあれば言ってくれ」

「は……い」


オベリスクが、優しく頭を撫でてくれる。


誰、だったかしら。

最初にこの世界を案内してくれたのは……。

何でかな、ちっとも思い出せないの。


それに私……何の役にも立ててない気がする。

ただ甘やかされてばかり。

彼らはこんなにも頑張ってくれているのに。


元を辿れば、全部私の為の事なのに。


「情報を纏めると―――……どうした?」

「……役に立ちたい、皆さんのお役に立てることをしたいの。私、甘やかされてばかりで」

「そりゃあ俺達にとってお姫様みたいなもんだしねぇ?甘やかすなって言われたら、扱いに困っちゃうなぁ」

「君は十分役に立っている。気遣いありがとう」

「面倒臭い……女は黙って、従ってれば良いだろ」


そっか、面倒臭いか。


皆一生懸命になっている時に個人の感想で

ネガティヴになっていたら、そりゃ面倒臭いよね。


「ごめんなさい……大人しく言う事だけ聞くわ」

「……ん~、凄くそそるね。めありちゃん、どんな状況の時もちゃーんと俺達の言う事聞くんだよ?」

「……?ええ、勿論」

「気持ち悪いなあんた……そういう意味で言ったんじゃねえよ」

「はいはい、無駄話はお終いだ。直ぐに此処を立つぞ」


オベリスクが手を叩いて、話を止めた。

そういう意味、の意味がよく分からなかったが、

コハク国も見つかったことだし、ここを出ないと。


ベッドの近くに鏡があったので、

寝癖を少し治してから、私は家を出た。


3人の話を纏めた結果、

現在、コハク国と思われる浮遊大陸は、

アレアシオン王国から西の方角に向かったところだ。

急がねば、浮遊大陸は移動してしまう。


私達はまず、アレアシオンにテレポートをする事にした。


***


アレアシオンで合流し、西に向かう。

ふと思い出したように、オベリスクが質問をしてきた。


「君は、飛行魔法は使えるのか?」

「ふ、浮遊魔法なら」

「浮遊じゃちょっと厳しいねぇ~」


う、そうよね……。

浮遊魔法も、地上1m以上になると

上手くバランスが取れなくて、落ちちゃうし……。


浮遊大陸は雲よりも高いと聞いた。

どうしようかと悩んでいると、ひょいと身体が浮いた。


「これで良いだろ」


悪路王が脇腹に抱えるようにめありを抱き上げた。

脳みそがひっくり返って、頭に血が上る。

一瞬ラビリンスは目を丸くして硬直したが、

めありの顔がみるみる赤くなるのを見てまずいと思った。


「こらこらアクちゃん!そうじゃないでしょ、貸してご覧」

「やだ」

「めありちゃん苦しそうでしょ!ほら、貸して!」

「痛い痛いちぎれますからぁぁぁ!!」


何故か引っ張りだこにされるめあり。

腕をラビリンスに、脚を悪路王に引っ張られ、

お腹から裂けそうだった。


パチン、指を鳴らす音と同時に、

めありはオベリスクの腕の中に移動した。


彼の服から程良い香水と、微かに煙草の匂いがする。


「お姫様じゃ無かったのか?完全に物の扱いだったが」

「……チッ」

「あはは~ごめんごめん」

「お前達とは違って、人間は脆い。気を付けてくれ」


怒りを孕んでいるように聞こえる声。

そんな声とは裏腹に、めありを抱き寄せる腕は優しかった。




暫く歩き進めていくと、3人の足取りが止まった。

空には分厚く大きく広がる雲が見える。

どうやら、この上にコハク国があるらしい。


「おいで」


オベリスクが此方に手を差し伸べた。

めありがその手を摂ると、

彼は軽々と彼女をお姫様を扱うように横抱きにした。


ぶわりと彼の背中から、漆黒と純白が交互に並ぶ

三対六枚の大きな翼が現れた。

一度見てはいるものの、

こうやって改めて近くで見るととても美しい。


びっしりと規則的に生え揃った羽根は、

絹のように艶めいている。


「そんなに見られると照れるな……おじさんに羽があると、滑稽だろう?」

「いいえ!とっても綺麗だと思うわ」

「……君って子は」

「ハイハイハイハイそこいちゃいちゃ禁止ィ!」


先頭はラビリンス、次いでめありを抱えたオベリスク、

最後に悪路王の並びで飛ぶことになった。

万が一襲われた際を考慮し、

めありを守れるような陣形で、とのことだ。




空を高く昇っていく程、空気が薄く、冷たくなる。

頬を掠める風があまりにも寒く、無意識に身震いをした。


「めあり、すまない」

「はい……?」

「これより上は君では空気が薄すぎて、まともに呼吸が出来ないだろう。それを防ぐ為に私の魔法を掛けたいのだが、如何せん肺……つまり、君の体内にかける魔法で、今の体勢だと接吻と言う形になってしまうのだが……」


彼が申し訳なさそうに言うものだから、

私は慌てて否定した。


「いえ、全然気にしないわ!寧ろ、此方こそごめんなさい。その、オベリスクが大丈夫なら……お願いします」

「全然気にしない……か」

「……?ごめんなさい、風が強くてうまく聞き取れなくて」

「否、何でもないさ……失礼するよ」


オベリスクの顔がすぐ近くまで来たので、

彼がキスをしやすいように、

めありも顔を上げて、瞳を閉じた。


鼻を掠めるオベリスクの匂いと、唇に柔らかな感触。

口内に何か気体のような液体のようなものが入り込み、

それが体中に染み渡っていくのを感じた。

爪先まで届くのを感じると、唇は離れていった。


すると、身体が内側からぽかぽかしてきて、

空気を寒く感じ無くなった。呼吸も全然苦しくない。


「……すごい、中が温かくなったわ」

「それは…………良かったな」

「ありがとうございます!」

「……上を見てご覧。浮遊大陸が見えてきただろう」


言われた通り、上を見る。


地上からでは分厚い雲にしか見えなかったが、

随分高くまで飛んできたお陰で、

雲の上に大陸が乗っかっている様子が確認出来た。


「ほ、本当に浮いてるのね!凄い……!」

「もう少しで着くぞ」

「お願いします!」

「速度を上げよう、しっかり捕まるように」

「はい!」


めありがぎゅっと強く抱き着いたのを確認すると、

オベリスクは大きく羽ばたいて、

目前の浮遊大陸目掛けて速度を上げていった。




上層雲すら突き抜けたその先は、

雲一つない何処までも広がる無限の青い空。

そんな真青な空間に散りばめられた大地の中心に、

巨大なプレート状の大陸が確認出来る。

恐らくあの一番大きな場所が、コハク国なのだろう。


端の方の小さな大地の破片の上に、

ラビリンスが立っていて、こちらに手を振っている。

私達も、その近くの破片の上に舞い降りた。


浮遊しているものの上に乗るという事は、

さぞかしバランスをとるのが大変だろう……なんて思って、

恐る恐るオベリスクに捕まりながら降りためあり。

しかし、以外にも足場はしっかりしていて、

めありが両足を地につけても微動だにしなかった。


「怖がることは無い、そう簡単に沈む仕組みでは無いからな」

「は、はい」


なんて言ってくれた矢先に、

最後に着いた悪路王の勢い良すぎた着地で、

彼の足元の地面がバラバラに砕けて落ちていった。


「何だこれ、脆すぎだろ」

「アクちゃんのデブ~」

「は?」

「……彼らは例外だ、気にしなくていいさ」


オベリスクが肩を竦めた。


悪路王は決して太っている訳では無かった。

背が高く筋肉の着き方もしっかりしていて、

脂肪と言うよりかは、

筋肉の密度による身体の重さが原因な気がする。


オベリスクがその辺の小石を拾うと、

広い大陸に向かって投げた。

すると、何も無い空間に波紋が広がってそのまま消えた。


「報告通りだな」

「よし、行ってみよー!」

「うわあ……緊張してきたわ」


どこから見ても何も無いだけの場所。

一体……どんな国が隠れているのかしら。

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