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フェアリーテイルオブシーヴ  作者: unique
【Ⅶ】コハク国
50/58

7-2

「君はテントで大人しく待っていてくれ」


あの後、オベリスクが私の服を直してくれて、

後は任せて欲しいとのことだったので、

私は悪路王が眠るテント(と言う名の家)に帰った。


あの男の人には、申し訳ない事をしたわ……。


家の中は、私が暮らしていた

一人暮らし用のワンルームよりもゆったりとしていた。

部屋には4人分のベッドに、

広めの廊下には冷蔵庫、キッチンが付いていて、

反対側にはシャワールームやトイレもあった。

これ絶対テントじゃない気がする。


今まで泊まってきた宿には冷蔵庫や、

水流トイレと言った電化製品は無かった。

オベリスクはアレアシオンに滞在していたから、

最先端の技術の類に詳しいのかもしれない。


一通り見て回ると、

めありはベッドのあるメインの部屋に戻ってきた。

一番窓際のベッドには、

大きな体を小さく丸めて眠る悪路王が居た。


(身体が大きいから、少し窮屈そうね)


すやすやと、心地良さそうに寝息を立てている。

こうして見ると普通の人間と変わらないわ。

ミカとルカも、

たまにこうやって私の家で寝ちゃってたっけ。


傍に寄って、彼を観察してみる。


随分と特徴的な髪型だ。

色も目を見張るような真っ赤で、

後頭部の部分は刈り上げられている。


耳はちょっとだけ尖っていて、

子供のエルフみたい。

目の下には切れ込みのような逆三角形の痣があった。


この世界の子達は皆カラフルな髪だけれど、

頭皮はどんな仕組みをしているのかしら。

悪路王を見ていると、睫毛までちゃんと赤いのよね。

それでいて、瞳は白くって……。


「……何、見てんだよ」


……びっくりした。

気付けば悪路王の白い瞳と目が合っていた。

まだ眠いのだろう、とろんと半開きだ。


「ごめんなさい、ジロジロ見たりして……オベリスクに此処で待っているように言われて」

「……で?それと俺、何のカンケーがあるんだよ」

「い、いや、特に無かったです」

「はぁ、めんどくせー奴……」

「ちょ、きゃっ」


腕を引かれて、視界が反転した。

何故か私はすっぽりと悪路王の腕の中に収まってしまい、

彼は大きな欠伸を一つすると、また眠りについてしまった。


「あの、えっと……悪路王さーん」

「すぅ……すぅ……」


うう、簡単に起きそうにない。

痛くは無いが、がっちりとホールドされていて

自分の力では抜け出せそうになかった。


仕方が無いので、大人しくしていよう。

悪路王の体はやっぱり冷たい。

私の体温で、早く温かくなってくれないかなあ……。

今のままじゃ、冷たくて風邪を引きそうだわ。


早くオベリスク達、帰って来ないかしら……。




「おや」

「あら~」


悪路王の抱き枕にされためあり。

2人仲良くベッドですやすやと寝息を立てていた。


ある意味、寝ていて正解だったかもしれない。

オベリスクの服には謎の返り血と、

その手に握られていたのは、夕陽色の虹彩をした眼球。

それは、先程の男のものだった。


ただ、誤解しないで欲しい。

決して彼らは、人を殺めた訳では無いのだ。


拷問しても中々口を割らないので、

洗脳して情報を引き出し、

嘘偽りがないか調べるために材料として眼球を抉り、

仕上げに今回の記憶を一連削除しただけのこと。


しかし、生命を奪った訳では無いにしろ、

返り血を浴びた彼の姿は、

きっとめありにはショックが大きすぎるだろう。


「反応が楽しみだったんだけどねぇ」

「お前は趣味が悪いな……私はシャワーを浴びてくる」

「はいよー」


ラビリンスはオベリスクから眼球を受け取り、

冷暗庫からガラスケースを取り出すと、

ホルマリン液で満たされたそれに眼球を入れた。

眼球はくるりと一回転して、液体に浮かんだ。


蓋を閉めてそれをテーブルに置くと、

鼻歌交じりに悪路王とめありの眠るベッドに歩み寄る。


「ね、俺も混ぜてよ」

「…………無理」

「あらら、起きてたの」


不機嫌そうに悪路王がラビリンスを睨むが、

ラビリンスはおどけたように肩を竦めてみせた。


(あのアクちゃんが、ねぇ……)


ラビリンスがそれ以上近付いて来ないのを悟ると、

悪路王はめありをそっと抱き直し、再び瞳を閉じた。

めありもまだ、起きる気配は無い。


なんて、穏やかなのだろう。


こんなにゆっくりと時間が流れるのを感じるのは、

初めてかもしれない。

恐らく、人はこれらを“幸福”と呼ぶのだろう。


眠る彼女の頬を、起きてしまわないよう軽く撫でる。

それは、自分達とは違って温かい。


……気が狂いそうだ。


こんな幸福、要らない。必要ない。壊したい。

彼女が俺を、俺達を憎んで嫌って罵ってくれれば、

それだけ俺は楽でいられたのに。


永遠を約束できない幸福など、何の価値もない。

無意識に、彼女の細い喉に手が伸びる。


その時、オベリスクがシャワールームを出てくる音がした。

ラビリンスは我に返って、手を引っ込めた。


「おかえりぃ、早かったじゃん」

「不穏な気配を感じてな」

「まーさかぁ!」


彼の体は所々濡れていて、髪の毛先から雫が滴っている。

そんなに急いで出てきたのか。


(どいつもこいつも、必死過ぎて笑えるな)


疑わしい目でラビリンスを見ていたオベリスクだが、

溜息を一つ吐いて肩にかけていたタオルで

髪を拭きながら、テーブルの席に着いた。


「お前達が彼女に手を掛ける事は立場上無いと思っていたが、どうにもお前のようなタイプは判りかねる」

「やだなぁ!めありちゃんの事は大好きだよ?」

「“殺したいくらいに”……か?」

「さぁ?……どうだろうねぇ」




先程のドラゴニュート族冒険者から採取した眼球を、

オベリスクがあーでもないこーでもないと

何やら独り言を漏らしながら、試行錯誤している。

その様子を、正面の席で

頬杖を着きながら眺めるラビリンス。


液体の中で、くるくると躍る眼球。

夕焼け色の美しい橙。


「あー、アイツとまるっきり同じ色なんだなあ」

「彼奴?11人目の事か?」

「そーそー、確か彼奴もこんな、暁の空に沈む太陽と、日差が染みて透き通った雲みたいな瞳だった」

「……ふむ、なるほど」


オベリスクは試行錯誤していた腕を止めて、

何やら魔法を使い始めた。

眼球の入ったガラスケースに両手を添えて、

念じるように瞳を閉じている。


暫くして、オベリスクはカッと目を見開いた。


「……見えたぞ!」

「何が?」

「インテロバング、聞こえているか?宙だ、宙から探せ」

《聞こえてますよ?》《了解しました!》

「ええ、もう見つかったの?」

「ほんの一部だが……雲より高い場所で宙に浮いた大地、そこで同じ色の瞳の男と話していた記憶が見えた。深碧色の髪に、随分と重たそうな着物を着ていた」

「そいつだわ」

「やはりそうか……」


***


「お前は何処で、誰に竜属性を教わった?」


男の表情は虚ろで、口からは泡を吹いていた。

彼は既に洗脳されているようだ。

オベリスクが髪を掴んで男を立たせるが、

痛がる様子もなく、四肢もだらんとしたまま。


「……ウロ、ボロス……様」

「ウロボロスと言う奴か?」

「ウロボロス様……俺を……救って……」

「場所は何処だ?」

「コハク……あれは……空気の薄い所やった……」


男を尋問していると、

ラビリンスが耳元で囁いてきた。


「リスちゃん、イズムルートの警備が南西10km先からこっちに向かってきてるよ~」

「分かった、ならば目だけ頂いていこう。大体の情報は得られたが、細かく調べるには肉体の一部が必要だ」


髪を掴んだまま、容赦なく男の左目を抉る。

男の身体は一瞬痙攣したが、

叫んだりもせず、静かにオベリスクを受け入れた。

眼球を手に入れると、男を地面に投げ捨てた。


「今回の件は忘れてくれ……そうだな、お前は依頼先で上級魔族に遭遇し、勇敢に戦ったものの片目を奪われて敗北して帰ってきた。そういう事にしておこう」

「俺は……上級魔族に……負けた」

「そうだ。5分後に目覚めるように設定しておこう、後は自力で帰るんだぞ」


***


「彼がウロボロス……か」


深碧色の長い髪に、暁の瞳。

漆黒の着物を身に纏い、

返り血のような真紅の彼岸花の模様をあしらっていた。


頭からは瞳と同じ色をした龍の角を生やし、

角と言い着物と言い、身動きが取り辛そうな姿だった。


ウロボロスの容姿は鮮明に焼き付けた。

後は、彼が住まうと言われている

コハク国の在処を探し当てれば良いだけ。


「空に浮いてる国だったら空気も薄いしね~」

「この目の見た全ての記憶から探すのは時間がかかったが、お前の一言で橙色の瞳の男を探したら直ぐに見つかったよ。流石だ」

「そりゃどうも!」


用済みになった眼球をガラスケースから取り出し、

魔法で跡形もなく燃やして炭にする。証拠隠滅だ。


オベリスクがガラスケースを洗っていると、

めありが目を覚ました。

悪路王の腕の中でもぞもぞしていたので、

ラビリンスが魔法で引っ張り出してやった。


「ごめんなさい、寝てしまったみたいで……」

「いーのいーの、囮ありがとねん」

「おはよう。もう直ぐで見つかりそうだから、あと少しの間待っていてくれ」


冷蔵庫から冷たく冷えた果汁ジュースを取り出すと、

まだぽーっとしているめありに渡してやる。

眠たげに目を擦りながら礼を述べ、それを受け取るめあり。


彼女が起きたのが、眼球を処理し終わってからでよかった。

2人は心の中で胸を撫で下ろした。


(……あれ?何で俺までほっとしてんの?)

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