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フェアリーテイルオブシーヴ  作者: unique
【Ⅰ】エーデルシュタイン王国
5/58

1-5

レッフェルは私を抱き抱えたまま、

忍者のような身のこなしで建物の屋根伝いに駆ける。

頬を撫でる風が冷たい。


フォルケッタは言葉が刺々しいけれど、

体温が高くて温かい。

レッフェルは優しく丁寧な言葉遣いだけれど、

身体がひんやりしている。


「フォルケッタ‥‥」


無意識に、彼の名を呟いた。

レッフェルは、何か言おうとして、

けれど口を噤いでしまった。


暫くの沈黙のうち、レッフェルが口を開いた。


「あれがお城ですよ。アルカナ王城と呼ばれています。嘗て永き旅の終わりに冒険者達が各々の国を築き、そのうちの一人がエーデルシュタインの国王として鎮座しています。お城の中は安全ですから、安心してお休みください」


城の敷地内に入ると、

レッフェルは傭兵に挨拶をして私を預けた。

傭兵は彼に深々とお辞儀をしている。


レッフェルが現れてから、辺りがざわついている。

城内から傭兵が何人か出てきて、

その中に一際目立つ格好をした男性がいて、

レッフェルと親しげに会話をし始めた。


「レッフェルよ、卒業式以来だな」

「レックス様、ご無沙汰しております」

「何、畏まる必要は無いさ。しかし、昔話をしに来た訳では無いのだろう?国の対魔バリアが破られた」

「中部の酒場に傭兵の派遣を願いたく参りました。現在、上級クラスの魔族とフォルケッタが交戦中です。また、彼女は戦闘に巻き込まれた一般市民です。一時的に保護を頼めますか」

「そうか、わかった。向かわせよう‥‥彼女は此方で預かろう」


私は傭兵の案内で城へ導かれた。

必ず迎えに来ると、そう言い残してレッフェルは

傭兵部隊と共にフォルケッタの元へと向かった。


***


「なるほど‥‥異世界から飛ばされた、と」

「はい‥‥」

「稀に聞きますからね、そういう類の話は」


お城の中はとても広かった。

事情を話すと、召使いの方が図書室へと

連れて行ってくれた。


「参考になる文献があるかどうかは分かりませんが、ご自由にお過ごしください」

「はい、ありがとうございます」


図書室の扉が閉められ、途端に無音になる。

高い天井だ。部屋も一室一室が広い。

なのに埃一つ見つからない、手入れの行き届いた城だ。


壁の代わりに本がぎっしりと詰まった棚が、

天井まで聳えている。

本来ならば高いところのものは、

皆魔法で取るらしい。

私には到底無理な話だけれど。


取り敢えず届く範囲で本を見て回る。

上級魔族と戦っている人達が心配だけれど、

心配してるだけで何もしないのは違う。

私は今できることをしなくては。


「失礼する」


ノックの音の後、図書室の扉が開いて

先程レッフェルと会話をしていた男性が現れた。


レックス様、と呼ばれていた人だ。


「私はレックスと言う‥‥エーデルシュタインの国王だ。何かをお探しかね?お嬢さん」

「国王様、お初にお目にかかります‥‥申し訳ございません、私自身の名前を未だ思い出せず、申し上げることができません」


ふむ、とレックスが考えるような仕草をする。


落ち着いた大人の雰囲気を持つ方だ。

まるで寄り添うような喋り方、

威厳のある佇まい、聴く者を虜にするような諭す声色。


私の視線に気がついたのか、

彼がこちらを向いて、にっこりと微笑んだ。


「事情は聞いている。さぞかし心細く、不安だったろう。‥‥もし君が良ければ、元いた世界の話を聞かせてはくれないだろうか」


***


私と国王様が図書室で会話をしていると、

途中で召使いの方がお茶とお菓子を出してくれた。

ありがたくいただきながら、

私は思い出せる限りの話を国王様に伝えた。


拙い私の話を笑ったりはせず、

国王様は最後まで真剣に話を聞いてくださった。


「‥‥話してくれてありがとう。君のように、異世界からの来訪者は何件か報告が上がっている。しかし、そのどれもがテレポートの失敗、召喚の失敗‥‥と言った具合に、魔法の力が作用しているみたいだ。見たところ、君からは魔力が一切感じられない‥‥その事実が、君のもといた世界には魔法が無いと証明している。となると、考えられるのは、此方の世界の誰かが君を召喚しようとした。その可能性が一番高い」

「そんな、思い当たる節はありません‥‥」

「まあ、そうなるか‥‥。その様子だと、異世界の存在すら知らなかったようだしな」


レックスが立ち上がり、

本棚から1冊の書物を取り出した。


「前例のあった彼らは、各々の魔法の力で元の世界へ帰って行った。恐らく現在、この世界には異世界人は君しかいないだろう。参考になるかは分からないが‥‥これは異世界人に関するレポートのようなものだ」


書物を手渡された瞬間、彼の指が微かに触れた。

レックスは一瞬目を見開いて私の顔を見たが、

すぐに元の落ち着いた雰囲気に戻った。


「君は‥‥否、なんと言ったら良いのか。もしかすると‥‥強い魔力を持つ者程強く惹き付ける何かがあるのかもしれない」

「え?」

「少し触れただけで気が‥‥ううむ。まだ断定は出来ないが、困ったな」


その文書でも読んで待っていてくれ、と言い残し、

レックスは図書室を後にした。


***


次に図書室の扉が開いた時、

召使いの方がまたまたお茶菓子を持ってきてくれた。

マカロンにとてもよく似たお菓子だ。

とても可愛らしく、

フランボワーズのような甘酸っぱさが堪らない。


扉の向こうから、ひょこっと国王様が覗いていた。

私がマカロンを食べたのを確認すると、

何故か私の頭を撫で、うんうんと頷いた。


「あの‥‥これは一体‥‥?」

「はっきり言おう。君は魔力を持つものを誘惑する力があり、相手の魔力の強さに比例して君の誘惑も強くなる。先程私が少し指先を触れただけで気が狂いそうになった」

「ゆ、ゆゆ誘惑ですか?!」

「ああ。しかし、この菓子は一時的に食べた者の能力を無効化する力がある。主に自分の力が制御出来ない子供向けの菓子だ」

「子供向け‥‥」

「魔法を使う人々のみならず、魔族も“闇”属性の魔法を使う魔力保持生物だ。我々はある程度自制が利くが、魔族相手となるとそうもいかない。菓子は沢山作らせるから、持っていくと良い」

「ありがとうございます‥‥」


ぽんぽんと私の頭を満足気に撫でて、

国王様は行ってしまった。

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