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フェアリーテイルオブシーヴ  作者: unique
【Ⅵ】サプフィール王国
47/58

6-7

大きなベッドの真ん中には、

青白い顔をして眠るめありの姿があった。

彼女を囲うようにして、

10名のオリジナルとオベリスクがその様子を伺っている。


「……カンタレラ、どうだ」

「ん……ビクとも しない」


彼女の心臓が止まって、数時間が経過した。

外はもう日も暮れて暗い。


あの後、気を失っためありを抱えて宿に戻った潦が、

魔界に居るマスカレドに報告し、

オリジナル全員が緊急招集されたのだった。


魔法に長けているカンタレラですら、

彼女の心臓を動かすことが出来ないでいた。


「どうしようぅ……めあり、めありぃ……っ」

「チッ!俺様に貸してみろ!!」

「クリフォト、大丈夫だから泣かないで。ニクラウスも、カンタレラに無理なら君には無理なんだから大人しくね」


クリフォトが慌てふためき、

一向に目覚めない焦りにニクラウスが怒鳴り、

そんな2人をミッチェルが宥めている。


「奇妙ですねぇ……生きてるとも死んでるともつかない、不思議な気配を感じます」

「めありー、起きないと食べちゃうよ?」

「……其方が言うと洒落にならん」


ナイトメアが考え込むような表情で彼女を覗き込み、

イヴリーンは彼女の手を取って、己の頬に擦り寄せる。

彼が本当にめありを食べてしまわないように、

それを後ろから見張る潦。


オベリスクはそんなオリジナル達から、

一歩引いた場所で彼女の横顔を見つめていた。


(天魔の運命……か)


あのオリジナルですら叶わない相手、

それが天王と魔王だ。

彼女が目覚めない理由は、

恐らくその両者が関わっているからだと聞いた。


彼女が今どのような状態にあるかは、

彼女本人にしか分からない。


ただ、私達は祈るばかりだ。


「もう俺達さぁ、戻った方が良いんじゃないの?きっとさ、聖杯が満たされたんだよ」


薄桃色の髪のオリジナルが口を開いた。


男はベッドの柵に頬杖をつき、

冷たくなった彼女の頬に軽く触れた。


「皆感じてるでしょ?魔王サマが今、この子の中に居るってのは。じゃーもう俺達の役目は無くない?魔王サマが直接導いてるんならさ」

「だが、光も感じるだろう。あのお方だけではない、恐らくは天王も居るんだ……あのお方と天王、どちらが強いかは私にも分かり兼ねる。万が一のことを考えて私達が引っ張りあげることも」

「だぁからぁ!俺達が魔王サマの肉体に戻れば、元の力を手にできるんだから、そんなの余裕でしょ?」

「しかし、あのお方はまだ私達を求めている気配がない。呼ばれない限り、此方から指図することは出来ない」

「だが~とか、しかし~とかさぁ。それ、マカちゃんがこの子と離れたくなくて駄々こねてるだけじゃーない?」

「……貴様、口を」


飄々とした態度の男に対して、

マスカレドが険悪な空気をちらつかせる。


その時、弾かれたようにカンタレラが跳ね上がった。


「めあり……!」

「あ……れ、皆さんどうして……?」


周りにいた全員が、一斉に彼女を見た。

仮死状態だった彼女が、何事も無く目を覚ましたのだ。


***


「……起きたんだね」


フォルケッタが目を覚ますと、

そこは、見たことも無い位檻の中だった。


聞き慣れた声が、すぐ近くから聞こえた。


一体、何時間気を失っていたのだろうか。

節々が痛むのを感じながら、

フォルケッタは冷たい床から起き上がり、

声のする方を振り返った。


「フェ…………ル?」


そこに居たのは、変わり果てた相棒の姿だった。


向日葵のような黄金の髪は光を失い、

根元から毛先まで一切の淀みもない漆黒色に。

嘗ての怪我で視力が落ち、

虹彩の色が若干変わっていた天色の左眼は、

元の右目と同じ深い紺碧へと戻っていた。


白い肌には、宝石のようなものが煌めいている。

遊色効果だろうか、

彼が微かに動くだけで、様々な色に変化している。


そして、何より。

いつも彼から感じる、水と風の気配が無く、

ただ、何処までも暗い闇属性の魔力を感じた。


「……うん、僕はフェルだ」

「まさか……本当に、キメラになったの?」

「そうだよ」


真っ直ぐな瞳で、レッフェルが答えた。


「許されるなんて思ってない。許して欲しいと、君に乞う権利すら僕には無い。ただ、最期に少し……話がしたいんだ」

「…………」

「どうか、残された僅かな時間だけ。もう一度、僕と会話をしてくれないかい?」

「……この、」


ガッ。

フォルケッタは、力いっぱい彼の胸倉を掴んだ。


ああ、殴られるのかな。

良いさ、好きなだけ殴ってくれればいい。

僕のした事は、殺されたって仕方の無い……。


「馬鹿野郎……!」


想像していた痛みではなく、

身体全体を優しく包み込まれるような感触がした。


目を開けると、フォルケッタは僕を抱き締めていた。


「……えっ?」

「ごめん、僕があんたを苦しめてた……あんなになるまで、本当にごめん」

「…………僕を、責めないのかい?」

「……悪いのは、お互い様だと思ってる。あんたが僕を責めないなら、僕だってあんたを責めらんないよ」


少し恥ずかしそうに、

視線を逸らしながら笑うフォルケッタ。

彼を見ていると、

彼やめありと過した日々が脳裏に浮かんでくる。


一粒、また一粒。

レッフェルの頬を、涙が伝う。


「魔族の血が混ざった僕を……軽蔑しないのかい」

「別に種族なんてどーでもいい。フェルはフェルでしょ」

「……フォル!」


思わず、彼の背中を抱き締め返した。


ああ、諦めていたはずなのに。

まだ生きたいと……2人で、彼女とまた旅をしたいと、

そんな欲望がふつふつと湧いてきてしまう。


「どうしよう……フォル、僕はまだ生きたいみたいだ」

「何言ってんの、当たり前じゃん!母国の事とかは、後で考えればいい。一人じゃダメでもさ、二人ならどうにでもなるでしょ?だからさ、まずはここから出よう」

「でも、びくともしないんだ……この檻は、何か特別な物でできているみたいだ」

「ばーか。あんたじゃできなくても、二人ならいけるんだよ」


彼の言う通り、僕は本当に馬鹿だったな。

何故、こんなにも僕を思ってくれている相棒を、

この手に掛けようだなんて思ったのだろう。


間違いなく、彼なら……。

フォルケッタとなら、2人で彼女を愛せる。

そうだ、2人でなら何だって出来たんだ。

どうして僕は、自ら1人になる道を選んだんだろう。


もう二度と、間違えてなるものか。


「そうだね……僕達は、2人でひとつだ」

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