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フェアリーテイルオブシーヴ  作者: unique
【Ⅵ】サプフィール王国
44/58

6-4

闇の滴るヴァリオン、ガトレ宮殿内。


魔界に拉致されたレッフェルとフォルケッタは、

宮殿内の地下牢に閉じ込められていた。


先に目覚めたのはレッフェルだった。


彼が目覚めた時、己の身体は既にエルフでは無かった。

内側からひしひしと感じる、強い闇の魔力。

試しにいつもの様に魔法を使ってみるが、

全ての魔法が勝手に闇属性の魔法に変換される。


おぞましい程の力だ。


自分は強いと過信していた。名声もあった。

それなのに彼女を失ってしまうのは、

きっと自分がまだ弱いからだと考えた。


彼女を一人で守りきれる力が欲しかった。

彼女と二人きりで過ごす日々を望んでいた。

彼女が元の世界に帰る日が怖い、

だから今すぐに強大な力が欲しかったんだ。


そして僕は、この身をオベリスクに捧げた。


最期に、人の手で相棒を終わらせたかった。

憎きライバルでも、元を辿れば良き仲間であり、

支え合い切磋琢磨し合った唯一無二の相手。


僕は、この手で彼を葬った後に

人としての生涯を終えるつもりだった。

けれど、彼は途中で僕の嘘を見破ってしまった。

まあ、いつかはバレるとは思っていたけれど……。


そして彼に破れて、目が覚めたらこのザマだ。

情けなくて笑えてくる。


明らかに以前より強くなっていると分かるのに、

檻はびくともしないのだ。

結局僕は、失ったものの方が多くなってしまった。


横で眠っているフォルケッタ。

もう殺す気すら起きなくて、そのまま彼を見つめる。


彼女は、彼を選んだ。

見たことも無い、彼女の不思議な能力が、

彼を守るように包み込んでいた。

君と出会ったのも、君を抱き上げたのも、

君と会話を交わしたのも、全部僕が先だったのに。


……でも、もうどうでも良い。

都合が良いと笑ってくれてもいいさ。

この孤独な檻の中で命果てると言うのなら、

せめて最期に話し相手が欲しい。


早く起きてくれ、フォルケッタ。


***


情事を終えためありはシャワーを浴びると、

火照る身体を冷ますために、ベランダに出た。

そよ風に少し濡れた髪を揺らす。


外はまだ明るい。

少し、情報を集めに出掛けようかしら。


「……湯冷めするであろうに」


なんて、考え事をしていたら肩に羽織を掛けられた。

羽織越しに、そっと身体を抱かれる。

この特徴的な香りは、潦だ。


「ごめんなさい、少し出かけようかななんて思って」

「ならば共に参ろう」

「そう?ありがとう。オベリスクに伝えてくるわ」

「無用よ。化かせば問題も無かろう?」


潦が私から離れると、

しゅるしゅると潦の身体から闇が放出される。


すると、彼から闇属性が感じられなくなった。

その代わりに、サプフィールの海の様な

仄かに潮の気配を感じる。


「水属性!」

「左様。これならば文句あるまい」

「本当になんでも出来るのね!分かったわ、でもオベリスクには事情をちゃんと伝えないとね。心配掛けてしまうから」


そう言って、めありは潦の手を引くと、

ベランダから室内へと帰っていった。


彼女を見つめる、謎の人影に気が付かないまま。




オベリスクに事情を話すと、彼は快く承諾してくれた。

どうもオリジナルには逆らえないらしい。


ついでにとまた金貨を大量に渡されて、

好きなものでも買いなさいと言われた。

返そうとしたが、潦が手を引いて宿を出たがるので

その勢いで貰ってきてしまった。


「まあ、使わずに返せばいいわよね……」

(ぎょく)でも買って見せびらかしてやれ」

「買いません!」


市場通りを歩きながら、そんな会話をしていた。

気が付くと、道行く人々がこちらを見ている。


恐らく、潦を見ているのだろう。

魔力を隠している今は、一見ヒューマン族だ。

しかし、ヒューマン族の平均よりも随分背が高く、

すらっとしたスタイルに、整った目鼻立ち。

異国風の着物を着こなす彼は、はっきり言って目立つ。


特に女性の熱視線が集中していたが、

本人は気付いていない様子だった。


「改めて、格好良いんですね」

「は?」

「皆が潦を見てるの、ほら」

「……彼奴らは其方を見ているのだ。珊瑚のように鮮やかな(まなこ)に、煌めく砂浜を思わせる艶やかな髪。其方こそ美しい」


ひょいと抱え上げられ、躊躇いなくキスされた。

一瞬の出来事に思考が追い付かずフリーズしていると、

周りの人達がきゃあきゃあと騒ぎ出た。


「ちょっ……!」

「……ん?」

「と、取り敢えずここから離れましょう!?」

「仕方あるまい」


潦はめありを抱き抱えたまま、

人通りの少ない静かな路地裏に移動する。


ある程度先程の場所から離れると、

めありを地面に下ろしてやった。


「もう、人前でああいうのは良くないわ」

「何故」

「恥ずかしいからです!」

「……クク、恥じる其方もいじらしい」


何か最初の頃と比べて180度性格変わってません?

まあ、仲良くなれたなら良いのだけれど……。


ふと、建物の影の隙間から見える

大きな建物が目に入った。

だいぶ遠くの方に建っている、あれは一体……。


「あれは、サプフィールの城よな」


エーデルシュタインのアルカナ王城は、

前の世界で言うドイツのノイシュヴァンシュタイン城。

サプフィールの城は、城と言うよりも要塞だった。


「アルカデアの設定として、嘗て名を馳せた冒険者共が国を築いたとあるが、この地は彼奴らが魔王と戦った最期の地と語られている……」

「えっ、魔王と!?」

「あくまで“設定”よ。その時の要塞がそのまま城となった故、見た目はあまり城らしく無い」


そうなんだ……。


サプフィールが最期の場所だったのなら、

彼らの冒険は何処から始まったのだろう。


……まさか。

私がこの世界を冒険することを

天王が望んでいるのなら、

先代である彼らの冒険をなぞってみたら?


「潦……彼らの、始まりの地は分かる?」

「今のエーデルシュタインよな」

「……次に彼らが向かったのは?」

「イズムルート、グラナティス、アレアシオン、そして此処サプフィール」


私と同じ動きだ。

とすると、もうすぐ私は魔王と対峙する?


駄目、このままだとシナリオ通りになってしまう。

魔王を倒しては駄目。

私は彼を思い出して、そして救うと約束したのだから。


「うっ……」


ドクン。

急に激しい頭痛に襲われ、足元がふらつく。

脳味噌が心臓になったのかってくらい、

心臓の音みたいなのが頭にバクバク響いている。


「めあり!」


潦が私の体を支えてくれた。

しかし、頭痛は急速に激しくなっていく。

寒い、暑い、痛い、怖い、苦しい。


潦が何やら魔法を使っているのが見える。

ごめんなさい、もう意識が……。


「チッ……余の魔法が効かぬ。これは天魔の運命(さだめ)か……!」


意識を失っためありを抱き抱えると、

潦は急ぎ宿へと踵を返した。

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