表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フェアリーテイルオブシーヴ  作者: unique
【Ⅴ】アレアシオン王国
40/58

5-8

いつの間にか眠ってしまったらしい。

目が覚めると、チルダがお盆にコップ一杯の水を乗せて

こちらに差し出してきた。


「ありがとう」


チルダを撫でると、嬉しそうに受け入れてくれた。

可愛い……小動物みたいで癒されるわ。


私は水を飲み干して、立ち上がった。


「ピピ……めあり様、お部屋にご案内します」

「ええ、お願い」

「此方です」


***


元の部屋に辿り着くと、そこに居たのはオベリスクと、

まだ会話したことが無かった

オリジナルが2体、私の帰りを待っていた。


他の皆は帰ってしまったのだろうか。

マスカレドとカンタレラに少し会いたかったな……。


「初めましてじゃないけど、初めまして!ボクはイヴ、イヴリーンだよ!よろしくねっ☆」


小柄な金髪の少年が、私の手を取ってぶんぶん振る。

元気いっぱいで可愛いなあ。

こんな幼い子もオリジナルだなんて、凄いわね。


屈んで、目線を合わせて挨拶した。

青緑色の宝石みたいな、ぱっちりとした目と目が合う。


「私はめあり。よろしくね、イヴリーン」

「余はにわたずみと申す。此奴の目付役のようなものよ。今後は我らが其方と行動する事になった」


マスカレドよりも少し背の高い男性。

紺色から毛先にかけての青白磁のグラデーションが

とても綺麗なロングストレートヘア。

名前も服装も和風な感じね。


私は立ち上がって、お辞儀をした。

薄水色の瞳は、氷みたいに冷たい印象を受けた。


「こちらこそ、よろしくお願いします」

「残りのオリジナルは魔界へ帰ったよ。どうやら仕事が山積みみたいでね……私は、オリジナルが君と行動出来るように、目隠し役で一緒に行く事になった。よろしく頼むよ」


オベリスクが私の手を取って、跪く。

そっか。会議が終わって、

私はこの2人のオリジナルとオベリスクで

今後はこの世界を歩む事になったのね。


でも、何だろう。

心の何処かにぽっかりと穴が空いて、

何か大切なことを忘れている気がする。


「次はサプフィール王国に向かう事になった。経緯は移動しながら説明し……めあり?」

「あ……すみません、何でもないの」


ぼうっとしてしまって、

オベリスクの話が頭に入ってこなかった。


イヴリーンに背中を押されるようにして、

私達は施設を後にした。

忘れ物は無いはずなのに、何故か心が落ち着かないまま。


***


―――数時間前。


「彼女に付き纏う虫が邪魔だな」


マスカレドの一言に、ニクラウスが食らいつく。


「でもよぉ、上手く利用すれば盾くらいにはなんじゃねぇの?勝手に記憶消したら女が泣くぞ」

「盾以上に足枷だ。奴ら程度の実力じゃ足手まといだ」

「つってもよぉ、俺様達から見たら足手まといより上何てのは居ねぇだろ!」

「何故庇う」


ニクラウスの脳裏には、

フォルケッタが目をキラキラさせて、

すごいすごいと褒める様子が浮かんでいた。


「クソが……」


舌打ちをして、テーブルをバンと叩いて立ち上がると

ニクラウスは魔界に帰ってしまった。


「他に、反論はないか」

「別にぃ、ボク達はその辺知らないし好きにしたらぁ?」

「興味が無い」

「ならば消してしまおう。彼女は最初から、あの二人のと関わる事など無かったのだと」


マスカレドはそう言い残し、

カンタレラが彼女を連れて行った部屋へ向かった。


残されたオリジナル達が喋り出す。


「ほーんと、吸血鬼と狼男ってどの世界線でも仲が悪いんだねー」

「ふふ、微笑ましくて良いんじゃないかな」

「あれが微笑ましいとは、其方も数寄者よのう」


***


オベリスクのキメラ研究施設から出た私達は、

サプフィール国を目指す。

その道中、オベリスクは会議で決定された、

今後の方針を教えてくれた。


まず、一番大事な事。

天王と会うには物語を終わらせなくてはならない。

物語のシナリオは天族のお偉いさんでも分からないが、

アルカデアで私がまだ訪れていない国が一つある。

それがサプフィール王国だった。


そこに物語のヒントがある可能性が高いそうで、

サプフィール王国に向かう事となった。


サプフィール王国は、海に囲まれた港の国で、

人や物の出入りが盛んな場所だそうだ。

アレアシオン王国から見て北西の位置に隣接している。


次に、今後共に行動するグループについて。

イヴリーンは、ハルピュイアと呼ばれる

有翼種魔族のオリジナル。

潦は、ローレライと呼ばれる

海洋種魔族のオリジナル。


なぜこの2人が選別されたかと言うと、

サプフィール周辺には有翼種魔族、海洋種魔族が

主に生息している為である。

スムーズに移動を行うため、

彼等の命令で魔族が此方を襲わないようにする為だ。


また、オリジナルが周囲や天界側に感知されぬよう、

オベリスクの特殊な能力で、

めあり以外の魔力をインビジブル化している。


これらは殆どマスカレドの提案で決まったそうだ。

流石、ぬかりないわね……。




砂漠地帯を抜けると、

徐々に地面に緑が広がっていく。

どこか遠くから、風に乗って潮の香りがする。


ここまで、一匹たりとも魔族は襲ってこなかった。

もしかして、もう2人が命令してくれたのかしら。


ちらと、イヴリーンに視線を合わせると、

彼もまたこちらを観てニコッ!と笑ってくれた。

はちゃめちゃに可愛いです、ありがとうございます。

イヴリーンは私の手を握って、

そのまま手を繋いで歩くことになった。


今度は、潦の方を見てみる。

が、彼は視線を合わせてはくれなかった。

それをいい事に彼を観察してみる。


歩いているだけなのに、仕草一つ一つが上品だ。

足音も殆ど聞こえな……っと、睨まれてしまったわ。

嫌われているのかしら……素直に謝った。


イヴリーンはお喋りだった。

道端に咲くお花に駆け寄って私にくれたり、

ぴょんぴょん跳ね回ったりしながら、

魔界では普段何をしてるか教えてくれたり、

私が元いた世界の事だとかを色々聞いたりしてきた。


こんなに無邪気で可愛い子が魔族って、

この世界は面白いのね。

アルカデアに迷い込んだ時はとても困ったけれど、

今はとても楽しい……。


そう……楽しいはずなのに……。

忘れてはならない記憶が掌から零れ落ちていくような。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ