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フェアリーテイルオブシーヴ  作者: unique
【Ⅴ】アレアシオン王国
38/58

5-6

天界は素晴らしい場所だった。

何不自由なく暮らせるし、

常に春のような暖かさの穏やかな気候で、

花が咲き、小鳥が鳴き、天族は幸せに暮らしていた。

アルカデアよりもよっぽど夢のような世界だった。


そんな世界に拾ってくれた天王には感謝していたし、

生まれてからずっと眠り続けている彼に同情した。

どうして下界なんかを、

自分の自由を奪われてまで守る必要があるのだろうか。


彼は穏やかな声で、こう答えた。

アルカデアは、いつか迎える花嫁のための

ヴァージンロードであり、

ヘイヴンはその祭壇である……と。


そして私達天族は、

2人の式を取り持つために用意された司祭だった。


彼はずっと、夢の中で彼女を待ち続けていた。

彼のシナリオ通りに彼女は導かれ、

魔王を倒し、天王の寵愛を受け、彼の花嫁となる。

そのとき初めて天王は目覚めるのだ。

そして私達は、彼らと共に永遠を幸せに暮らしていく。


……しかし、予想外の出来事が起きた。


予定よりも早く、

彼女はこの世界に迷い込んでしまった。

しかも同時に、オリジナルの動きが活発なった。


物語が無理矢理始まってしまった上に、

別世界の住民である敵対立場の

オリジナル達によるアルカデアへの干渉。

天王は怒り、私達にこう言った。


“魔族側が僕の花嫁を奪おうとしている、

彼女が僕の元へ訪れるよう彼等から護って欲しい”


私達は皆、天王を愛していた。

愛していたから彼の幸福を願って

アルカデアを守ってきたし、

私も堕天してまでオリジナルを仕留めに来た。


だが、私は堕天したときにあるものを失った。

洗脳とも言える天王への忠誠心だ。


天界から離れた途端、それは泡のように消えた。

なぜ今まで天王が絶対であったのかが不思議だった。

恐らくだが、

天族には洗脳の類の魔法がかけられている。

堕ちた者は、天族とは看做されていないのだろう。


最初は忠誠心を失った私だったが、

堕天してまで地上に降りたのだ。

まずは、オリジナルに対抗出来るように、

魔族を知ろうと思った。


この国の存在は知っていた。

非人道的なことをしても、

それが科学に貢献できるものであれば認められる。

一番活動がしやすいこの国に拠点を儲けた。


そこで、魔族の中でもオリジナルの次に強い

闇属性を持つ上級魔族を捕まえ、

己の肉体に取り込んだ。


すると、魔族を自分の中に取り込む度に、

知らない誰かの記憶が流れ込んでくる。


ヴァンパイア、ワーキャット、ウェアウルフ、

メドゥーサ、ハルピュイア、ローレライ、

ミノタウロス、インキュバス、ゾンビ、アルラウネ。


全ての魔族の遺伝子を自分に組み込み終えた時、

バラバラだった記憶のパズルが完成した。


そして、私は知ってしまった。

天王は花嫁を迎えた後に私達を消すつもりだったのだと。


「天族も、お前達オリジナルと一緒だ」

「どういう事なの?」

「……私達オリジナルは、元は魔王の身体の一部から造られたものだと以前伝えただろう。故にあのお方は現在、実体が無い。私達は役目を終えたら消える……あのお方の肉体に還るんだ」

「何だ、彼女には伝えてなかったのか。まあ、今彼が言った通りの記憶を見た訳だ。この記憶の持ち主は恐らく魔王たる彼の記憶だろう」


そう……だったのね。


オリジナル達がいつも何を考えているか

あまり分からなかったけれど、

そんな運命を抱いて今まで行動していたのね。


辛くないのかな……。


「オリジナルは全員それを承知で動いてる。けれど、天族はそれを知らされずに、永遠を約束されていたんだね」

「つーか、こっち側の記憶見ただけで何でそっちも一緒って発想になんだよ」

「簡単な話さ。私達は元々アルカデアの住民だった。天王が夢から覚めれば私達も消える……考えればすぐ分かることなのに、天族は誰もそれに気が付いていない。私が洗脳から覚めた時、キメラとなる前に気付いていれば良かったものの……」


という事は。

天王が夢から覚めた時、アルカデアそのものも、

レッフェルやフォルケッタも消えてしまう……。


そして、天王に捧げられる花嫁は、

話を聞いている限りだと恐らく……。


「ここまで聞けばわかると思うが……花嫁とは君のことだよ、聖杯かりすめあり」

「……ちょっと待ってよ、意味がわからないんだけど」


今まで黙っていたフォルケッタが口を開いた。


「そもそも、オリジナルとか聞いたことないんだけど。この世界が、彼女が天王に捧げられるためのヴァージンロードだとかも意味不明。僕が生まれて育ってきた数十年は何だったの?僕が産まれる前の歴史だってある。仮女の為に用意された世界なら、そんな時間要らなかったよね」

「ああ、必要無いな。お前を含めたアルカデアの住民は偽の記憶を植え付けられている。用意された登場人物キャラクターの器に、な。歴史さえ、作り物の紛い物さ。全てがハリボテの世界だったんだよ」

「それを信じろって?」

「ならば見てみれば良い。彼女が来る前までの、この世界の姿を」


オベリスクが煙管を吸って、その煙を吐いた。

煙の中にぼんやりと浮かぶ映像、

それは、今の私達の姿を映していた。

映像が止まり、高速で時間が遡っていく。


私がアルカデアに呼ばれたその時までは、

何事も無く逆再生された。

しかし、それよりも以前の日々は、


何度も何度も……同じ日々を繰り返していた。

一日、十日、一週間、

一ヶ月、半年、一年以上……

永遠に繰り返される、同じ日々。


レッフェルとフォルケッタは毎日同じ場所で

同じ依頼人から同じ依頼を受け取り、

同じ依頼をこなしている。


レックスは毎日同じ会議を開いていた。


クロイツは毎日同じ書類にサインをしていた。


ヘルツは毎日同じ会話を民に聞かせていた。


僅かな違いさえ見られない同等の日々。

そう、アルカデアが生まれたのはこの日。

彼女が来るまで、永遠にこの日を繰り返している。


フォルケッタは呆然としていたが、

わなわなと震えだし、背中の大剣に手を掛けた。


「こんなもの!相棒を人質に取った奴何かの言うことなんて、信じられるか!」


煙を切り裂いて、

彼に向かってその刃を振り下ろす。


が、刃がオベリスクの身に届く前に、

チルダ達がフォルケッタの刃を鉤爪で受け止め、

鳩尾に重たい一撃を喰らわせた。


フォルケッタは呻き声を上げ、

テーブルの上に横たわってしまった。


「此奴は必要ない。相棒の所へ運んでやれ」

「フォルケッタ……!」


チルダ達がフォルケッタを何処かへ運んで行く。

止めようとして立ち上がっためありだが、

ロンドとワルツが私の腕を掴んで静止をかけた。


仕方なく、再び席に着いた。

あのフォルケッタですら及ばない相手に、

私の力では到底勝てない……。


暫く黙っていたワルツがティーカップを一口啜り、

オベリスクに質問を投げかけた。


「天界の事情は分かった。君が天王を恨んでるって事もね。……それで、俺達に何を望むんだい?」


穏やかな声なのに、何処か空気が緊張している。

ロンドはいつも通りの仏頂面でよく分からないが、

ポチに関しては明らかに目が泳いでいる。


「まさか“天王を一緒に倒しましょう”……だなんて言うつもりかい?今は恨んでるとは言えど、天王の為に此方の遺伝子を弄んだ天族と、手を組もうって?」


花も綻ぶ微笑みに、鈴を転がすような美声なのに、

何故だろう。般若の幻影が見える。


ワルツの姿がボロボロと崩れたかと思うと、

それは無数の蛇で、

蛇が再び集まった時、

彼は元のミッチェルの姿になっていた。


次の瞬間、オベリスクが縦に真っ二つになった。

ミッチェルは座ったまま微動だにしていない。

突然の事に対応できなかったチルダ達が、

慌ててオベリスクに近寄ると、

何故かチルダ達も瞬時にバラバラになった。


やっぱりミッチェルは動いていない。

ただ、逆さ十字を刻んだ方の目から、

赤い魔力の幻炎が燃えているだけだ。


ミッチェルが羽織っていた赤いストールが、

一匹の巨大な蛇に変わった。

蛇はオベリスクとバラバラになったチルダを

綺麗に丸呑みにし、

再び彼の腕に絡みつきストールの姿に戻った。


何事も無かったかのように、

ミッチェルはティーカップを啜る。


「まあ……この程度で斃るとは思ってなかったけれど」


最初に入ってきた扉から、

先程ミッチェルの蛇に食われたはずの

オベリスクが姿を現したが、

ミッチェルは焦った様子がなく、

まるで分かっていたような言い方だった。


「随分手荒な歓迎だね……流石はオリジナルだ」

「君の実力が知りたかったんだ、ごめんね」

「それで、私は認めていただけたかな?」

「やはり上級を喰っただけはあるね。君たちはどう思う?マスカレド、ニクラウス」

「……問題無い」

「お、おう……!お前ェが良いなら俺様は良いぜぇ」


……私も、ミッチェルは怒らせないようにしよう。


「お前の言う通りだ。私は、魔族側に協力したいと思っている。故に天界の情報を一か八かでお前達に共有した……信じて貰えるかは分からないが、仮に嘘だと判断したなら、私を殺してくれて構わない」


オベリスクの目は真剣だ。

ロンドは溜息を一つ吐いて、口を開いた。


「……分かった。然し、先に此方で相談をさせてくれ。貴様が知るように、私達以外にもオリジナルが居るんだ」

「勿論だとも!もしお前達さえ良ければこの場に呼んでくれても構わないぞ。私の周囲であれば天界側に感知されないし、当事者である私が居た方が話は進むだろうしな」

「君を魔界に連れていく訳にもいかないしね、俺が聞いてくるよ。皆は此処で待っていて」


ミッチェルはそう言い残して、

床に現れた魔法陣の中に姿を消した。

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