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フェアリーテイルオブシーヴ  作者: unique
【Ⅴ】アレアシオン王国
37/58

5-5

謎の男がビルの頂上から飛び降りた。

背中から白と黒に分かれた三対六枚の翼を拡げ、

ゆっくりと地面に舞い降りる。

着地すると、背中の翼は消えた。


独特の空気を持つ男だ。

煙管を咥えた軍服のようなデザインの服装に、

左右で白と黒に分かれた派手な髪。

魔族特有の闇属性とは別に、

感じたことの無い属性が隠されているような。


彼も、キメラなのだろうか。


男の背後から、

先程倒したはずの鉤爪のキメラが顔を出した。

一体、二体、四体……全く同じ姿形をしたキメラが、

男を囲うように前に立ちはだかる。


男は煙管から口を離すと、ゆっくりと白煙を吐いた。


「そんなに警戒する必要は無いさ……私が敵になるか味方になるかは、お前達の返答にもよるがね。外じゃゆっくり話せないだろう、うちに来るといい」

「……断る」

「ふふ、好きにするがいいさ。ご友人の命が惜しくなければ……の話だが」


フォルケッタは目にも留まらぬ速度で

大剣を鞘から抜き、男に斬りかかった……が、

男を囲っていた4体のキメラがそれを受け止めた。


「チルダ、案内を頼む。もし彼らが拒否するようなら、そこの女性を生け捕りにするんだ」

「ピピ……了解しました、御主人様」


そこの女性って、私しか居ないわよね。

うう……すごく視線を感じる。

男はそれだけ言い残して、姿を消してしまった。


(奴は何者だ)

(あー……唯のサイコパス野郎だと思ってたんだがなぁ、思ってたよりやべぇ奴みてーだ)

(それより、まずいね。一目で彼女が弱点だと見抜かれちゃったよ)

(……あえて相手の懐に飛び込むか。奴は恐らく、私達がオリジナルであると知っている。何処まで掌握されているのかを引き摺りだし、最悪の場合バラしてでも殺めて他の者に引き継ぐしかない)


「フェル……」

「仕方が無い、ここは奴の言う通りにしよう」


その場にいた全員が手を挙げると、

チルダと呼ばれた鉤爪のキメラ4体が

前後左右についた。

そのまま誘導されるようにして道を進んでいく。


道中、突然チルダが喋りかけてきた。


「ピピ……ボクには感情が存在しています。必要性に欠ける争いは避けたい。それがボクと御主人様の意思です」

「よく言うぜぇ!そっちから斬りかかって来た癖によぉ」

「ピピ……気絶をさせて運搬する予定でした。大人しく攻撃を喰らっていれば良いものを」

「だぁれが大人しく喰らうってんだ!!」

「あの……貴方たちは一人一人に名前があるのかしら」

「……ボクは識別記号チルダ。それ以上でもそれ以下でもありません。壊れれば廃棄され、新しいチルダが代わりとなります。個々に対する命名は不要です」

「そう、かしら……」


感情があるのなら……

仲間が壊されていく恐怖も、怒りも、悲しみも、

御主人様に甘えたい気持ちだって……あるはずなのに。


道を往く小さな背中は、何処か寂しげだった。




チルダに案内された先は、見るからに廃ビルだった。

苔むした壁に割れた窓ガラス、

あちこちがひび割れて、しかも蜘蛛の巣だらけだ。

この人数で入ってしまえば崩れるのではないだろうか。


チルダはビルの一階から中に入ると、

すぐ下の地下シェルターらしき入口を空けた。

なるほど、上じゃなくて下なのね。


シェルターの入口を降りてすぐ、

エレベーターに乗り込んだ。

着いた先は、想像以上に広く整備された研究室、

と言ったような感じだった。


名前も知らない薬品、ホルマリン漬けの臓器、

見知らぬ植物、実験器具などが置かれている。

ほんのり病院を思わせる匂いがした。


エレベーターの降り口とは反対側の扉から、

先程の男が姿を現した。


「ようこそ、我が研究室へ」

「フェルは何処だ」

「まあまあ、そう焦るな。チルダ、客人にお茶を入れてくれ。毒が入らないよう爪はちゃんと仕舞うんだぞ」

「ピピ……了解しました」


男がパチンと指を鳴らすと、

床が扉のように開き、

長方形のテーブルと6人分の椅子がセットされた。


男は煙管を咥えたまま椅子に腰かけ、

席に着くよう目配せしてきた。


仕方がないので全員で席につく。

チルダはいつの間にか6体に増えていて、

それぞれの前にティーカップを置いた。


「最初に言っておくが、私の周囲は天族を含めた外部の者に感知されない特殊なフィールドが展開されている。互いに包み隠さず話したいところだが、まずは自己紹介から……私はオベリスクと名乗っている、元“天族”のキメラだ」

「てん、ぞく……?」

(天族……!)

(まさかとは思ったがやはりか)

(あの妙な感じは光属性の気配だったのか)

「そこの冒険者は聞いたことくらいはあるかね?」

「まあ……本当に居るとは思ってなかったけど」


男は煙管を机に置くと、

チルダが用意したティーカップに口を付けた。


まだ敵か味方か分からないので、

出されたお茶が冷めるのは申し訳ないが

口を付ける気になれなかった。


「あ、私は……」

「ああ、お前達のことは全員知っている。自己紹介は必要ないぞ」

「なら話が早い。貴様は何が目的だ」

「おお、怖い怖い。相反する属性だからってあまりかっかしないでくれ、私は味方だ。先程も言った通り、お前達の返答次第だが」

「何が根拠なのかな?説明が無いと俺達も納得出来ないよ」

「そうだな……何処から話せば良いものか」


コトン。

静寂にティーカップを置く音が響いた。

皆が待つ中、男が話し始めた。




魔界と対になる世界、天界ヘイヴン。

その存在は、アルカデアの住民には

詳しく知られてはいない。

御伽噺のような、曖昧な存在だ。


何故なら、物語に登場する必要がない場所だから。


魔界の存在は一部に知られている。

主人公が魔王を倒すのがこの物語の結末であり、

魔王は魔界にのみ存在するからである。


天界には天族と呼ばれる者達が住んでいる。

光属性を持ち、

自らを選ばれし者と心酔し、

下界であるアルカデアを見下している者達だ。


それもそのはず、

この物語の筆者である夢の主、

天王たる者が直々にアルカデアから引き上げた

魂の持ち主だからだ。


天族の仕事は、ただ一つ。

天王の描く物語を、シナリオ通りに補正すること。


天王の描く物語を捻じ曲げる出来事があったとする。

以前、カンタレラがアルカデアを星の存在ごと

燃やして灰にした時のこと。

あれだけ一瞬で大規模に夢を破壊された時は、

天族だけの力ではどうしようも無いので、

天王が自ら己の夢を修復する。


しかし、何度も天王に負担がかかってしまえば

彼が夢から目覚めてしまう……、

つまり、アルカデアが消えて無くなってしまう。


なので、それよりもっと規模の小さい内に、

後々物語の進行に影響を及ぼす可能性があるもの。

例えば、規格外の力で圧倒する存在……

それを芽のうちに摘んでおくのが、天族の仕事だ。


他にも、物語の登場人物に憑依して、

主人公が正規ルートを進めるように誘導したりする。

光属性の刻印を主人公に刻み、

闇属性を持つ魔族に誑かさいようにする、

“白百合”がそれだ。


「恐らく、ここまでの話はオリジナルである彼らは知っているだろう」

「そうだな」

「白百合……そう言う事だったのね」


魔界の住民であるオリジナルが

天族の存在を知っているように、

私達もオリジナルの存在に警戒していた。


だが、オリジナルは天族と違って

出来ることが多ければ、行動範囲もまた広い。

魔力を隠されてしまえば、

ボロが出るまで気付くことすら出来ない。


天界からオリジナルを排除しようにも限度がある。

天族はアルカデアを視覚で見ている訳では無い。

魔力の強さでしか生物を感知できないのだ。

アルカデアで何かトラブルが起きた時、

闇属性の魔力の強さからオリジナルだと分かっても、

その場しのぎでアルカデアに

干渉しないようにするだけで精一杯だった。


何故アルカデアに直接行かないのか?

それは、天族が地上に降りることは

禁忌とされていたからだ。

自分達は天王に掬い取られた清き魂……

アルカデアは、その残りカスの塵箱でしかないからだ。


しかし、だ。

地上に降りれば、オリジナルと同じように、

一般人を装いながら動き回り探ることが出来る。

オリジナルを一体でも見つけられたのなら、

そこから芋づる式に排除していけば、

遥か天空から覗くだけよりもよっぽど効率が良い。


「そう考えて、私は周囲の反対を押し切ってアルカデアへとやってきた訳だ。が……」

「何故、アルカデアを忌み嫌うのに、そこまでしてアルカデアを……天王の夢を守ろうとするの?」


めありの問いに、

どこか遠くを見ているような視線を残して、

オベリスクはふっと自嘲した。


「……愛していたからさ、天王を。しかし今は……殺してしまいたいほどに憎らしい」

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