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フェアリーテイルオブシーヴ  作者: unique
【Ⅴ】アレアシオン王国
36/58

5-4

砂塵の中をしばらく進めば、

アレアシオンと思われる街が見えてきた。


門周辺を見渡してみるが、警備の様子はない。


「随分と警備が手薄な気がするわ」

「……門を通れば分かる」


フォルケッタがそう言うので、

不思議に思いながら無人の門を潜ろうとした。


「……ピピッ、只今スキャン中です。暫くお待ち下さい……」

「はえ!?」

「スキャンが完了しました。女性、ヒューマン、無属性、来訪者ビジター。入国申請を許可しました。アレアシオンへようこそ」


レーザーのようなものがめありの身体に当てられ、

どこからとも無く声が聞こえてきた。

特に身体に違和感は無く、そのまま門を潜り抜けた。


随分と近未来的なセキュリティシステムね。

流石は科学の国……。


全員難なく入国することが出来た。

ロンド、ワルツ、ポチのスキャンには

やたら時間がかかった気がするが、

ロンドはハーフエルフ、ワルツがヒューマン、

ポチもヒューマンで認識されていた。

(エニフは使い魔で入国OK)


このセキュリティがガバガバなのか、

はたまたオリジナルズの

カモフラージュが凄いのかは不明である。


建物は摩天楼、現代で言う高層ビルによく似ている。

無駄が無く洗練された街並みは、

機能性に重きを置いているようだった。

地面も気持ちよく整備されており、

ファンタジー世界では珍しく現実的な国だった。


暫く歩いてみたが、人っ子一人見当たらない。

不気味な静寂に包まれた国だ。


「とても静かだけれど……人は居ないかしら」

「引き籠もりの根暗共の街だからね、全員室内なんじゃない?野外は砂塵が舞うし、何しろ暑いし」

「待て……奴の使い魔が反応してるぞ」

「クルルル!」


エニフが突然暴れ始めた。

苦しそうに走り回り、嘶き鬣を振りながら、

翼をだらりと垂らして引き摺っている。


めありが宥めようと手を伸ばした時、

エニフは悲鳴と共に肉体は光の粒子に還ってしまった。


「エニフ……!」

「……まずい、彼の身に何か起きてるみたいだね」

「ポチ、急ぎ道案内を頼む」

「任せとけ!全員俺様から離れんなよ!!」


密集したビルの隙間を駆け抜けて、

日差しの届かない裏路地に入る。

右に左に入り組んだ複雑な道を縫うように進んでいく。


路地裏には、みずほらしい格好の人間がいた。

実験に失敗して棄てられたのか、

ただの人間とは思えない魔族のような肉体だ。


虚ろに横たわる者、仲間を喰らう者、

こちらを静かに睨む者、襲いかかってくる者。


なんて、酷い。

尊い命を蔑ろにするアレアシオンの国民に、

怒りが込み上げてくるのを感じた。


急にポチが止まった。

片手を横に広げ、後ろに続く者達に静止をかける。


「……御迎えたぁ、随分歓迎されてるみてぇだな?」


巻き上がる砂埃の中に、人影が見える。


背丈はめありより少し小柄だ。

フードを被っていて顔はよく見えないが、

ポンチョのような服の隙間から鋭い爪が覗いている。


人影は不気味な機械音と共に、

こちらへ向かって歩いてくる。


「ピロリロ……ピピ、ターゲットを確認しました。攻撃を開始します」

「チッ……テメェらぁ!下がってろ!!」


ポチが叫び、相手の懐に飛び込む。

敵は急激に速度を上げて彼に襲いかかってきた。

巨大な鉤爪を振り回す相手に対し、

ポチも己の腕のみを獣のように変化させて、

その鋭い爪で応戦した。


(なぁ、何処までだったら魔力解放していいんだ?)

(貴様はキメラという設定になったからもうどうでもいい、好きに戦え。どうせアルカデアに干渉出来なくなるレベルの力を出したところで貴様は不要だ)

(んだとゴルァ!!)

(せめて上級魔族くらい、かな)

(チッ……わぁーったよ!!)


彼の銀髪から草木が芽吹くように獣耳が飛び出し、

尾骶骨からは稲穂のように美しい尾が生える。

瞳は獣の鋭い眼光を宿し、

サーベルタイガーのように鋭利に伸びた犬歯は

その場にいた全員に狼男を連想させた。


「っらぁぁぁぁぁ!!!」


見た目だけじゃない、動きもまるで野獣だ。

攻めて攻めて攻めまくる、怒涛の連撃。

敵は予測不可能なポチの攻撃に受身を取り切れず、

直に喰らってしまった。


そのまま蹴り飛ばされたボールの如く、

遠く離れた瓦礫の山に叩きつけられた。


息を飲むフォルケッタ。

彼も充分強い。国の推薦する名誉冒険者だ。

しかし、目の前の戦いは別次元だった。


「これが……キメラ……」


本当はキメラじゃないんだけどね……。


だが、敵も硬い。

あれだけの攻撃を食らってもなお立ち上がり、

ロケットのような速度でポチを目掛けて飛んで来る。

目では追えない戦いに、ただ見守ることしか出来ない。


「こいつっ……元レプリカントか!!」

「あれだけの攻撃を食らっても傷が極端に少ない。言動が機械染みている。十中八九レプリカントだ」

「レプリカント……?」

「……人間に数えられる種族の一つ。身体は機械だけれど、意志や感情を持つようになってから人間のように自立して生活できるようになった。奴らの特徴は、その鋼鉄の耐久力」

「研究に没頭しすぎて、寿命が足りないと悟った科学者が、自らをレプリカントにして半永久的な命を手に入れる。そんな事例がアレアシオンにはゴロゴロ溢れているんだよ」


自分を、ロボットにしてしまうなんて。


彼らアレアシオン国民にとって“命”が、

自由に操れるものだとしたら。

道端に棄てられた失敗作のことも、

これっぽっちも何とも思って居ないかもしれない。


不老不死に憧れていた時期もあったけれど、

こんなのはちっとも羨ましくなんかない。


「没頭できる趣味があるのはいい事だけれど……でも、他人の命まで弄ぶのは違うわ……可哀想な国」


無意識に呟いてしまった言葉。

その言葉にぴくりと反応し、一瞬動きが止まった敵に

容赦の無い渾身の一撃を叩き込むポチ。

敵の身体は地面に深く抉り込んだ。


敵はその鋼の身体に大きな風穴を開けられ、

そのまま動かなくなってしまった。


「っだー……こいつぁ上級レベルだぞ、何考えてんだ製作者の阿呆は」

「ポチも上級魔族と戦った事があるの?」

「あー……まぁ、模擬戦闘でな」

「すごい、僕はもっと倒すのに時間も人手も掛かった。ポチはすごいんだね」


フォルケッタが珍しく目を輝かせている。

己が魔法を使えないぶん、

肉弾戦で敵を圧倒するポチの戦う姿に

惹かれるものがあったらしい。


すごいすごいと興味津々な様子に、

褒められた本人も満更ではなさそうだ。




パチ、パチ。

何処からか拍手が聞こえてきた。

ポチの見上げた視線の先、

ビルの屋上からこちらを見下ろす男が1人。


逆光で顔はよく見えなかった。


「いやはや、私の可愛い最高傑作をこうも容易く壊してしまうとは。流石は“オリジナル”……と言った所かな?」


今、オリジナルって……。


ロンドとワルツを見遣るが、

彼らの表情からするに関係者では無さそうだった。


緊迫した空気の中、男の次の言葉を待った。

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