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フェアリーテイルオブシーヴ  作者: unique
【Ⅴ】アレアシオン王国
35/58

5-3

……そう、此処だ。


広大な砂地にぽつんとある、小さな水場。

そこは以前、レッフェルと旅していた時に

見つけたオアシスだ。

懐から水筒を取り出して、水を掬い取る。


あの時もレッフェルが体調を崩して、

あの洞穴で休んだっけ。

彼は大丈夫かな、まだ目が覚めてないのかな。


(同じ女を好きになるなんて、思いもしなかった……)


初めて知った恋心。

自分にとってのそれは、淡く甘酸っぱい感情。

今までモヤモヤしていたものが、

自覚した途端にふわふわと夢見心地だ。

彼女の仕草ひとつに一喜一憂してしまう。


けれどレッフェルにとってのそれは、

優しかった彼を豹変させるほどに闇に染めた。


……一人の女性を、

二人で愛することはいけない事なのだろうか。


(そっか。僕が良くたって、彼女の意思は)


水筒の蓋を絞めて立ち上がる。早く戻らなくては。

自分の気持ちは後回しでいい、

今優先すべきことは彼女の健康だ。


その時、強烈な闇属性の気配を感じた。

めあり達を置いてきた方角だった。


どうして、何故ここまで近くに来るまで

気付かなかったのだろう。

これ程の闇の濃さは、恐らく上級魔族を凌ぐ。

こんなに強い魔力であれば、

遠くに居ても気付けるはずなのに……。

一体、どこから湧いて出た?


彼女達が危ない。

フォルケッタは急ぎ踵を返した。


***


「おーおー、見事にくたばってんなぁー」


横たわるめありの近くに屈む男。

雨雫のような美しい銀髪に、満月を思わせる黄金の瞳。

ヴァリオンにめありが最初に呼ばれた時、

彼もまたそこに居た。

つまりは、オリジナルの一体である。


髪の隙間から生えた立派な獣耳と、

尾骶骨から伸びるフサフサの尾をしまうと、

小さくなったマスカレドとミッチェルを交互に見た。


「そーいう趣味だったか?」

(貴様にはほとほと呆れた……駄犬の分際で気安く話しかけるな。会議で何を聞いていた?その耳は飾りか?脳味噌までケダモノか貴様は)

(はあ゛ぁ゛?!テメェ蠅叩きでぶち殺すぞ?!)

(まあまあ、落ち着いてニクラウス。普通に話し掛けると俺達が魔族だってバレちゃうから、気をつけて欲しいんだ)

(おー……悪かったな)


結局、また一から説明する羽目になった。

ロンドが難しい言い回しをする度に目が点になるので、

その度にワルツが解り易く付け足した。


男が話を聞いて納得すると、

今度は己が何故この地にいるのか説明し始めた。


彼、ニクラウスは

獣畜種魔族“ウェアウルフ”のオリジナルだ。

この辺りの地域は彼等の縄張りで、

彼は定期的に様子を見に来ているらしい。


一見、馬鹿で無能で言葉も汚い野良犬だが、

身内に対しての面倒見の良さは認めている。


(今なんか言ったか?)

(何も)


そして、見ての通りマスカレドとは犬猿の仲だった。


(とにかく、何でもいいから魔力を闇属性以外の属性に偽って欲しい。でないと俺達まで怪しまれちゃう)

(何でもいいが1番困るんだよなぁ……)

(なんて話している内に戻って来たみたいだぞ)


「―――めあり!!」


ガンッ!!

フォルケッタが男に向かって猛進すると、

その勢いに身を任せて大剣を振り下ろした。

咄嗟に男は片腕で大剣を受け止めた。


男の腕は硬化した銀の体毛で覆われており、

傷一つついていなかった。


「このっ……」

「わわっ、待ってお兄さん!この男の人は魔族から俺達を護ってくれたんだよ。優しい人だから、どうか剣をしまって?」

「アレアシオンの研究所から逃げ出してきたキメラだそうだ。畜獣種魔族の遺伝子を組み込まれているらしい」


ワルツ達の言葉に我に返ってよく見ると、

めありは最後に見た時とそのまま変わった様子はない。

男を見ても、此方に敵意を抱いている様子もない。


エニフも男に懐いているようで、

小さく鳴きながら彼の撫でる手に擦り寄っている。


「あー……その、何だ。この洞穴の周りを魔族がウロウロしてたから何だろうなぁ~↑って思って覗いたら、こいつらが居てよぉ……」

「……ふぅん」

「子供2人に、女1人だけだろ?流石に心配で様子を見に来たんだ。別に怪しいもんじゃない、疑うんなら調べてくれてもいいぜ」


男が両手をあげる。

念の為調べるものの、怪しいものは何も出てこない。

それ所かこいつ、何も持ってない……

一文無しで逃げて来たのか?

それ程に壮絶な扱いを受けていたのかもしれない。


フォルケッタは大剣をしまうと、男に謝罪した。


「ごめん、僕の早とちりだったみたい」

「え、いやーぁ……俺様も勝手にズカズカ入り込んじまって、すまねぇな」


水筒を懐から取り出すと、

ロンドが自分の頭程の大きな岩塩を渡してきた。

少しだけ削って水筒に入れ、残りは返却した。


めありの上半身を起こして水を飲ませると、

ほんの僅かだが彼女の表情が和らいだ気がした。


「……熱がだいぶ冷めてきてる、皆ありがと」

「気にするな、当たり前の事をしただけだ」

「いえいえ、お兄さんもお水ありがとう」

「俺様は何もsゔッ…………良いってことよ」




暫くして、めありの意識がはっきりと覚めた。


見覚えのある顔が一人増えたことに最初は困惑したが、

ロンドからの神通力により状況を把握した。


男……ニクラウスは、

アレアシオン王国を含む周辺の地理や施設に詳しい。

それは部下である獣畜種魔族を管理するために

アルカデアに定期的に訪れていたのが理由だが、

それを正直に伝えるわけにはいかないので

“アレアシオン国内の研究施設から脱走したキメラ”

と言う設定で今後は通すことになった。


実際に彼は、

度重なるアルカデアへの出張で、

キメラを生み出している研究所を把握していた。


「じゃあ、あんたに案内任せていいかな」

「おう、俺様に任せときな!」

「ところで、貴方の名前を伺っても?」


(なあ、そういや何て名乗ってんだ?)

(私がロンド、ミッチェルはワルツだ)

(ロンドwwwwワルツwwww)


「彼はポチと言う名前だそうだ」

「はあぁぁぁ?!ちげーよ!!!」

「まあ、可愛らしい名前!よろしくね、ポチ」


こうしてめあり、フォルケッタ、ロンド、ワルツ、

ポチ、エニフの4人と2匹で、

アレアシオンを目指すことになったのである。


(俺様を2“匹”の方にカウントするんじゃねぇ!!)

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