5-2
手掛かりとなるレッフェルの使い魔、エニフ。
レッフェルと意思疎通が出来るか聞いてみたが、
首を横に振られてしまった。
おそらく、レッフェルはまだ目覚めていない。
エニフを連れて、西に向かう。
アレアシオンは遠い。
テレポートをすれば一瞬なのだが、
それは一度行ったことのある国にしかできない。
フォルケッタは一度行ったことがある。
魔法は使えないが、
1度行ったことがあるなら他人のテレポートに
入り込むことが出来るのだ。
ロンドとワルツも、
そういう設定にしておけばどうとでもなる。
エニフは元が魔族、つまりエーテル体なので、
行ったことがない場所でも
魔力に巻き込んで連れて行くことができる。
問題はめありだった。
「早速足を引っ張ってごめんなさい……」
「こればかりは仕方ないよ、気にしないで」
「エーデルシュタインに飛ぶか。そこからアレアシオンに向かった方がいくらか近い」
という事で、
一旦エーデルシュタインにテレポートする事にした。
相変わらずエーデルシュタインは賑やかだ。
イズムルート、グナラティスと
別の国を見てきたからか、
エーデルシュタインの繁栄が改めてよく分かる。
めあり一行は西門から出ると、草原を西に進んでいく。
なんだか懐かしい、植物種魔族。
以前は尻もちを着いて脅えていたのに、
今では、自分の魔法の力で戦うことが出来る。
さすがにレッフェルやフォルケッタみたいに
一瞬では蹴散らせないけれど、
一生懸命戦う私を、フォルケッタは見守ってくれる。
心做しか、最初の頃よりも視線が暖かいような。
「やるじゃん」
「ふふ、皆みたいには行かないけどね」
「十分だよ。僕が要らなくなっちゃうでしょ」
彼の手がめありの頭を撫でる。
ぎこち無い仕草だけれど、暖かくて優しい手だ。
フォルケッタって、こんな顔で笑うのね。
じっと彼を見ていると、
我に返ったのかバッと手を離されてしまった。
みるみる顔が赤くなっていく。
「まあ?!まだまだだけどね!!」
「そうね……レッフェルを取り返したらお稽古を付けてもらわなくちゃ」
「僕が見てあげてもいいけど!?」
「ふふ、魔法使えないでしょ」
「あっ……」
(初々しいね)
(まあ、こっちのダークエルフは無害そうだな)
(何だか応援したくなっちゃうね)
(……)
(ごめんごめん、冗談だよ)
***
―――昨晩。
光の燦くヘイヴン、メーテル神殿内。
「せんぱぁい!まーた彼女消えちゃいましたけど、バグですかねえ!?」
「どうせ魔族の仕業でしょー?本当、嫌んなっちゃうわー汚らわしいわー」
「これはもう直接下界に行って裁きを下すしか無いっすね!!先輩、行きましょ!!」
「はぁ?!なんで塵芥溜めなんかに行かなきゃなんないの!?やだやだ、絶対行かない!!」
「んもぅ、“白百合”失敗したの先輩なんですから、もっと危機感持ってくださいよー!」
「そもそも白百合はヘリオスの奴が勝手に始めた事で……」
「……呼んだか?」
「ひっ……へ、ヘリオス……」
「メヌリス……君は何処まで失敗を重ねるつもりだ?“ディペンデンス”だって完璧じゃない。君のせいで僕達は、いつまで経っても“ソロネ”のままだ」
「あーあ、まーた先輩怒られちゃったー……」
***
エーデルシュタインの領土である草原を抜けると、
次第に砂地に変化していく環境。
何でも、アレアシオン周辺は砂漠地方らしい。
今は砂地と緑地が半々だが、
もっと先に進む程厳しい環境になっていくそうだ。
そんな暮らし辛い環境故に、
あまり観光客等の余所者は寄り付かない。
自分の求める研究を、
外野を気にせずのびのびとやりたい科学者にとっては
住めば都の国らしいが……。
生息している魔族も変化してきた。
植物種魔族は次第に見当たらなくなり、
代わりに畜獣種魔族、
獣のような姿をした四足歩行の魔族がちらほら。
畜獣種魔族は血の気が盛んだ。
通常の魔族は近くに寄らない限り攻撃して来ないが、
奴らは嗅覚が鋭く、
人間の匂いを嗅ぎ分けて何処からでも襲ってくる。
しかも、群れで団体行動をする習性がある。
最初のうちは応戦出来ていためありだったが、
何時まで経っても減らない数に疲れ果てていた。
「うう……」
「もういいから、あんたは休んでて」
「ごめんなさい……」
心配そうにエニフが擦り寄ってくるので、
大丈夫よ、と撫でてやる。
しかし、敵の群れは勢いをそのままに、
鋭い牙を剥き出しにして次々に飛び掛ってくる。
フォルケッタは大剣で群れを薙ぎ倒し、
ロンドとワルツは魔法で範囲焼きして行く。
「きりがないな」
「だね、一旦無視して向かった方がいいかも」
ワルツの提案で攻撃を切り上げると、
フォルケッタはめありを抱き上げた。
そのままその場から走り去る。
「はぁ……はぁ……」
「あんた、だいぶ消耗して……」
「おい、彼女の様子をよく見てみろ」
「え?」
「熱があるんじゃない?」
両手が塞がっていたので、
自らの額を彼女の額にこつんと合わせた。
元々、自分の体温は種族特性で高い。
それでも、彼女の体温が通常より高いのがわかる。
「風邪……?」
「恐らく、魔力を使い果たして疲弊した体にこの気温の変化だ。ヒートストロークした可能性が高い」
「少し休憩が必要だね」
以前この辺りを通った際に、
ここより少し先に洞穴があった気がする。
そこなら日陰だ。
暫く走ると、思い浮かべていた洞穴が見えてきた。
振り返るが、敵は見えない。
フォルケッタは洞穴に入ると自らのマントを床に敷き、
その上に彼女を寝かせた。
玉のような汗を拭ってやると、
彼女は申し訳なさそうに眉を八の字にして謝罪した。
「いいから。僕も気付くのが遅くてごめん……少し離れた所に水場があったはずだから、少し待っていて。水を汲んでくる。2人はめありを見ていて。エニフも、お留守番頼んだよ」
「了解した」
「気を付けてね」
苦しそうな表情の彼女に後ろ髪を引かれたが、
いち早く水を飲ませてやらなくてはいけない。
フォルケッタは急いでその場を後にした。
額に滲む彼女の汗を拭き取りながら、
苦しそうに呼吸を繰り返す彼女を撫で続けるワルツ。
エニフも心配そうにめありに寄り添っている。
ふと思い付いたような顔をして、
ロンドがパチンと指を鳴らした。
その手には、透明色の結晶が握られている。
塩化ナトリウム……岩塩だ。
「それって、金属性関係あるっけ?」
「問題無い」
「そっかー」
「彼が水を持ってくるまでは待とう」
もう片方の手からは変形する柔軟な金属を出し、
彼女の額に乗せたり、脇に挟ませたりした。
金属の冷たさで、彼女の体温を下げる作戦だ。
彼女の処置をしようと2人が試行錯誤していると、
突然、エニフが立ち上がって嘶いた。
エニフは洞穴の入口を警戒している様子だ。
洞穴を覗き込む人影が、
珍しいものでも見るようにこちらを見ていた。
「……あ゛ぁ?何でテメェ等がこんな所に居んだぁ?」




