5-1
あの後、一旦私達はグラナティスに戻った。
事件の概要を国王様に報告すると、
今日はとにかく休むようにと宿屋に送還された。
フォルケッタが私の毒を心配してくれたが、
ワルツが毒属性の魔法を使えるので、
彼に解毒してもらうから大丈夫と伝え、別れた。
フォルケッタと別れたところで、
強制的にヴァリオンに召喚されたのか現在。
「まずは、解毒 しないと」
「なんで知ってるんですか?」
「ずっと 見てた」
相変わらずヴァリオンは暗い。
洞窟の方がまだ明るかったかもしれない。
カンタレラに差し出された解毒剤を口にする。
めありが全部飲み干したのを確認すると、
隣にいたミッチェルが口を開いた。
「気分はどう?」
「うーん、特に変化は……毒を盛られた時も気付かなかったですし。解毒剤、ありがとうございます」
空になった小瓶をカンタレラに返すと、
ふと疑問だったことを思い出した。
「あの時、私に飲ませた小瓶の中味は何だったんでしょうか?お酒のような味がした気が……」
「ああ!あれはただの白葡萄酒だよ」
ただの、白ワイン?そんなはずが無い……。
私はお酒が好き。
この世界に来る前までは、よく飲んでいた。
特に赤ワインが好きで、
自分へのご褒美として週一は必ず飲んでいた。
そして、たまに白ワインも飲む。
しかし他人にオーラを授けたり、
目の色が変わったりしたことなんて、な……
「……ああああ!!」
「……なんだ、喧しい」
あったわ。
赤ワインを飲んで、目が赤くなった事が。
そもそもそれがきっかけで、
こちらの世界に来たんだわ。忘れていた。
「あの、知っていたらでいいんですけど……何で私、ワインを飲むと身体に色々起きるのでしょうか?カンタレラが私をこの世界に呼んだ時もそうでした。私、ワインを飲んでいて」
「媒体」
「ばい……え?」
「あんた 向こうで しょっちゅう、飲んでた でしょ?だから、葡萄酒を 媒体にした。あんたの肉体に、闇属性の魔力を 送り込む、媒体」
「ほぉん……?」
……一人暮らしだったから、
あまり人目を気にしていなかったのだけれど。
何時から見られてたのかしら……。
「簡単に言うと、貴様と私達を繋ぐものだ」
「俺達が助けるとグレーゾーンだからね。めありさんの身体を通して、さも君の能力のように見せかけたんだ」
「なる……ほど。赤と白で違いはあるんですか?」
「赤は 術者が切るまで 永続、白は 一定時間」
「赤葡萄酒はこちらの世界では希少なんだ」
「ほへぇ……」
「随分間抜けな声だな」
赤は永続、白は限定かあ……。
まあ、忘れてしまった記憶が戻るまでは
元の世界に帰るつもりは無いけれど、
帰ろうとするならカンタレラの許可が必要なのね。
現実世界の私は何をしているのかしら。
眠っているのか……それとも、
肉体ごと消えてしまったのかしら。
「あ、そうそう。媒体を飲まずにオリジナルの魔力を送ると、君の肉体は耐え切れずに破裂しちゃうからね。気を付けて」
ミッチェル……貴方、さらっと怖いことを言うのね。
***
とりあえず私は、白ワインを飲むと
よく分からないけど何かしらの能力が発動する、
という設定で行くことにした。
グラナティスの宿に戻って時間を確認すると、
ヴァリオンに呼ばれる前と変わっていない。
シャワーを浴びると、そのまま眠りに就いた。
次の日、目が覚めて準備をしていると、
部屋までフォルケッタが迎えに来てくれた。
ロンドとワルツは既に準備が出来ていたので、
急いで支度を整えて外に出た。
宿を出ると、国王のヘルツが待っていた。
「めありちゃん……改めて、怪我が無くてよかったわぁ。うちの者が迷惑を掛けたわね。何てお詫びしたらいいのかしら……」
「いえ、ヘルツ様は悪くないですから……お気になさらないで下さい」
今回の依頼主である鉱夫労働者を問い詰めた結果、
以外にもあっさりと白状したそうだ。
あの洞窟が最近見つかった天然ものだと言うことは
事実だったが、
最初から魔族がいた訳では無かったそうだ。
鉱夫労働者も詳しくは事情を知らず、
レッフェルに言われた通りに動いていただけだった。
そして、めあり達が休んでいる間、
ヘルツは寝ずにキメラの情報を集めてくれていた。
レックスもそうだったが、
どうか人並みに休んで欲しいし寝て欲しい。
国王という立場上、難しいのはわかるけれど……。
「グラナティスから見て西に“アレアシオン”と呼ばれる王国があるわ。そこはね、科学の国とも呼ばれていて、世界中に存在するあらゆるものの研究が行われているのよ。科学者の探究心を重んじる国で、他の国と比べて道徳に欠ける部分もあって……」
科学の国、アレアシオン王国。
科学者達が集まる、科学の発展のための無法地帯。
他の国で人徳を疑われるような行為でも、
この国でなら許される。
それが、科学の発展に貢献することならば。
確かに、キメラの研究をするならそこしか無い。
更に、キメラと思わしき人物を
アレアシオン周辺で見たとの情報も手に入れたそうだ。
「女の子を行かせるのは心配だけれど……うちのフォルちゃんがいれば、大丈夫よ!」
「はい、フォルケッタの強さを信頼してますし……私も、彼を支えられるように頑張ります」
「あらあら~♡」
ちょいちょい。
ヘルツがフォルケッタに手招きをする。
嫌そうな表情をするも、渋々ヘルツに近寄った。
(で、お二人さんは何処まで行ったのかしら?♡)
(はぁ……本当余計な事しなくていいから)
(んもぅ、いけずなんだからっ♡でも……)
(ん……)
(ちゃんと、護ってやるんだぞ。母さんみたいに……絶対に失ったら駄目だ。応援してるからな)
(……うん、そうだね)
親父、悲しそうに笑わないでよ。
親父が母さんを護れなかったんじゃない。
あんたには他の責任があったんだ。
僕にも何れ、あんたの責任を継ぐ時が来る。
でも今は……。
彼女は此方を見て笑っている。
僕達を仲がいい親子だと思っているんだろう。
彼女を好きだと自覚した。
自覚したんだ、二度と自分の気持ちに迷わない。
必ず護る。傷一つ付けさせやしない。
「ありがと、父さん」
ぽんと、背中を押された。
パパって呼ばれたかったなーなんて笑う彼は、
紛れもない、唯一無二の僕の父親だ。




