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フェアリーテイルオブシーヴ  作者: unique
【Ⅳ】グラナティス王国
32/58

4-8

彼女の悲鳴が、洞窟に反響した。


次の瞬間。

彼女の美しい薔薇色の瞳は、

白みがかった眩い黄金色に変化を遂げた。


同じく、薄黄金色をしたオーラが

フォルケッタを包み込み

その肉体を縛っていた氷を溶かしていく。


レッフェルは驚いて、咄嗟にフォルケッタから離れた。


「くっ、何ですか……これは!」

「フェル……あんたの気持ちは、よく分かった」


一体、何が起こっているのかしら。


氷が全て溶けた彼は、地面の大剣を拾い上げると、

レッフェルに向かって突き付けた。


「例え記憶が消えるとしても、僕は彼女を悲しませるような事はしたくない。このオーラからは、彼女の悲痛な思いが伝わってくる……今のあんたには、絶対にめありを渡したくない」

「何故……何故です?めありさん……何故貴女の力はフォルケッタにだけ授けられているのですか?何故、僕を選んで下さらないのですか?」

「ロンド、ワルツ!彼女を頼む、護って!」


レッフェルに飛び掛り、怒涛の斬撃を撃ち込む。

時折、衝撃が岩壁にぶつかって瓦礫が飛び散るが、

ロンドとワルツの魔法によって

彼女に傷がつかないように庇ってくれている。


「フォル、ケッタ……」


壁に縫い留められた彼女が、弱々しく僕の名前を呼ぶ。

ふと彼女に視線を合わせると、

彼女の白い頬に、ひとしずくの涙が伝っていた。

細い喉を濡らして、零れ落ちていく。


その時、僕の中の何かが壊れた音がした。


「―――ああああああああああ!!!」


キィィン―――……。

再び重なる刃。

レッフェルの氷が大剣を侵食するより先に、

フォルケッタの重い一撃が相手の剣を叩き落とした。


「しまっ……」

「フェルの……この、大馬鹿野郎!!!」


剣を落として隙を見せたレッフェルの脇腹に、

大剣を振った時の回転を利用した

フォルケッタの脚が見事にめり込んだ。

鈍い音と共に、レッフェルが吐血して倒れた。


「ぐっ……」


そのまま気を失ってしまったようだ。


レッフェルが気を失ったのを確認すると、

ロンドとワルツが壁に繋ぎ止められていためありを

魔法で解放してやった。


彼女はぼろぼろ泣きながら、

フォルケッタに駆け寄って、彼を力一杯抱き締めた。


「めあり……」

「フォルケッタ、無事でっ……良かったぁ……!」


先程まで凍っていたはずのフォルケッタの体は、

ちゃんと温かかった。

泣きじゃくる私の背中をぎこちなく撫でられた。


「にしても、あんたがくれた……この力は一体?」

「それが、私にも分からなくて……」


床に落ちた小瓶は割れていた。

あれを飲んでから不思議な感覚が私の体を包んで、

フォルケッタにオーラが宿ったのよね。


飲んだ感じ、あれは完全にお酒だった気がする。

味は白ワインによく似ていた。


(その件は面倒だから黙っていろ)

(うっ……面倒なら何で直接助けてくれなかったの……)

(異世界から飛んできた君なら何でもありだからね)

(うう……)


「あれ、めあり……目の色が変わってる」

「えっ……嘘!?」

「一時的なものじゃない?お兄さんの体を包んでるオーラと色が同じだから、オーラが消えたら戻るかもね」

「何時もより力が増してるんだよね、極限まで力を引き出されてる感じ……」

「で、此奴はどうするんだ」


足元には、

気絶したままのレッフェルが横たわっている。


彼は、相棒であるレッフェルを

躊躇いなく殺そうとした。

次に目覚めた時のことを考えると、怖い。


暫く黙り込んでいると、

洞窟の奥の方から足音が聞こえてきた。




カツ、カツ。

ゆっくりと此方に近付いてくる正体不明の足音と、

嗅いだことの無い強烈な匂い。


「クヒヒ……イヒ、アーッヒャヒャヒャヒィー!!折角のォ駒が台無しじゃァーないですかァー!!」


気狂い染みた笑い声が聞こえる。

フォルケッタが私の前に立ちはだかって暗闇を睨んだ。


暗がりから現れたのは、細身の男だ。

白いコートを羽織り、目元は包帯で隠されている。

腐臭をどぎつい香水で隠しているような、

吐き気すら覚える強烈な匂いだ。


男は、チェシャ猫のように歯を剥き出して笑っている。


「……闇属性の匂いがするけど、純粋な魔族じゃないね。あんた、一体何者?」

「おやおやァ!私にご興味がお在りのようでェ?!ヒヒッ……そうですねェ、“キメラ”をご存知でしょうかァ?正しくソレ!で、ございますゥ!」

「キメラ……か。実に興味深い。貴様は一体、何のキメラなんだ?」

「ア゜ーッ!嬉しいですゥ、キメラに興味を持っていただけるとはァ!!我が父も喜ぶでショウ……私ィ、元々はしがないエルフでしたが、今はゾンビの遺伝子をいただいておりマス!」

「ゾンビ……死霊種魔族。この洞窟の中にいた子達は、君が呼んだのかい?」

「ええ、ええ!我が父に掛かれば、元はヒトと言えども上級魔族のように同族を操れマスからネェ!」


キメラ。

洞窟に入る前、レッフェルがちらりと言っていた。

もしかして、レッフェルはキメラと関係を持っていた?


キメラの男が白い杖でレッフェルをつついた。

反応が無いと、舌打ちをして勢い良く蹴り飛ばした。


「や、やめなさい!!」

「ンー……?女、ですかァ?…………アァ!例の!」


男が一瞬考えるような素振りをしてから

杖で地面をカツンと殴ると、

瞬時にめありのすぐ側にテレポートした。


強化されたフォルケッタですら反応できない速さだ。

まじまじと男が顔を覗き込んでくる。


「ほぉ……この女欲しさにィ、彼は仲間を棄てたんですねェ?ヒトの欲は実に深いィ!罪深いィ!」

「クソッ……離れろ!」

「ア゜ーッ!」


フォルケッタが大剣を振るった。

先程の動きからして、男なら避けれそうなものだが、

わざと避ける素振りすらせず、斬撃をもろに食らった。

身体が上下に真っ二つだ。


しかし、斬られてもなお男は不気味に笑っている。

断面からは煙が巻いていた。


「やはり斬られるのはギモヂイイイイ……!!」

「き、きもちわるい……」

「あぁんッ♡もっと罵って下さァい!!……と、言いたいところですがァ……」


磁石のように上半身と下半身が繋がり、

何事も無かったかのように、男は立ち上がった。


カツン。

再び男が杖を突くと、レッフェルの姿が消えた。


「予定の時間をオーバーしてますのでェ?彼は貰って行きますねェ!」

「ちょ……返して!」

「いいの?君は、彼に殺されかけたんだよ」

「そんなの、本人に聞くまではわかんないでしょ!!」

「ではではァ、ご機嫌ヨゥ~」


大剣を振り翳して飛びかかるが、刃が届く前に

カツン、という乾いた音だけを残して、

男の姿は消えてしまった。




その後、フォルケッタによれば

洞窟内の魔族の反応は、完全に消滅したようだった。


洞窟を出ると、レッフェルの使い魔が

悲しそうな声で鳴いていた。

可哀想に。主人が連れて行かれたのを知ってるんだわ。

彼を慰めるように、やわらかな鬣を撫でた。


「レッフェル……」

「……探そう。手掛かりは幾つかある。悪いけど、手伝って欲しい」

「そんなの、当たり前じゃない!」

「私達は行く宛てもないからな、手伝ってやる」

「うん、勿論俺も手伝うよ」

「………………ありがとう」


どんなことがあっても、やっぱり相棒なのね。


フォルケッタの今にも泣きそうな笑顔を見て、

必ずレッフェルを見つけなくてはと、心の中で誓った。

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