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フェアリーテイルオブシーヴ  作者: unique
【Ⅳ】グラナティス王国
31/58

4-7

ああ……そっか。そうだったんだ。

あんたも好きだったんだね。

あんたはきっと悩んだんだろう。

同じ人を好きになってしまったことで、

僕はあんたを無意識に追い詰めていたのかな。


あんたが僕を騙したって聞いたけど、

結局は僕のせいだ。

ねえ、そう簡単に恨めないよ……フェル。


けどね、あんたと同じように、

僕もあいつをそう簡単に諦められそうにないよ。

こんなにも誰かを恋しいと思ったのは、

産まれて初めてのことなんだ。


「……すぐ」

「?」

「今すぐ、会って伝えなきゃ。僕は」


肺いっぱいにエーテルを吸い込むと、

フォルケッタの肉体の至る箇所に血管が浮き出た。

空気がビリビリと振動する。


ゆらり、大剣を振りかざした彼の瞳には、

強い意志が宿っていた。


蛆虫のように次々と湧き出る魔族に向かって、

目にも止まらぬスピードで

その大剣で群れを斬り込みながら突っ込んでいく。


「あらら、火をつけすぎちゃったかな」


ワルツは少し困ったように笑いながら、

彼のあとを追いかけた。




ダークエルフは魔法が使えない。

他の種族と違い、エーテルの蓄積が出来ないからだ。


その代わり、

エーテルを吸った分だけ筋肉を増強できる。

ダークエルフがエーテルを

体内に貯める事ができない理由は、

その恐ろしいエーテルの昇華の早さにある。


彼らは普通に呼吸をしているだけで、

人間の成人男性の10倍以上の筋力を発揮出来るのだ。


駆ける勢いを保ちながら

道行く魔族を切り捨て進むその姿は、

宛ら鬼神を思わせる。


「……ッフェル!!」


目の前に見慣れた姿を見つけると、

その勢いのまま飛び掛り大剣を振り下ろした。


向こうはそんなフォルケッタの姿を見ても

少しも動揺した素振りを見せず、

腰に携えた鞘から剣を抜いて、大剣を受け止めた。


金属同士のぶつかり合う音が洞窟に谺する。


「……おや、フォルじゃないですか。道が繋がっていたみたいですね?」


緊迫した空気に、めありは慌てていた。


一体何があったと言うのか。

別れる前までは普通に会話していたのに。


レッフェルが大剣を跳ね飛ばす。

しかしフォルケッタはものともせず、再び刃を振るう。

交えた刃が震えている。


「説明してよ!どうして嘘を吐いたんだよ!」

「……懐かしいですね。前にもこうやって、刃を交えたことがありましたね」

「話をそらさないで。僕の質問に答えて!」

「はあ……何のことでしょう」


筋力では明らかにフォルケッタが優っている。

刃の押し付け合いでは勝てないと

知っているレッフェルは、

上手く相手の力を受け流し、刃を交わした。


「僕は無能だよ……こんだけ生きてきて、己の感情の名前すら知らなかったんだ。フェルが腹立たしくなる気持ちもわかる」

「……」

「謝るよ、ごめん。フェルの事苦しめてたと思う……でも、それとは別。諦めらんないって、伝えたくて」


視線だけで、彼女を見やる。

心配そうな表情を見て、胸が痛くなる。

違う、そんな顔をさせたいんじゃないのに。


暫くの沈黙の後、レッフェルが笑いだした。


「ふっ……クク、ハハハハ……!」

「……何が可笑しいのさ」

「あーあ……僕のプランが台無しですよ。どうしてくれるんですか、ねぇ?」


今目の前にいる男は、

何時もの優しいレッフェルではない。


ただならない空気を察したロンドとワルツが、

めありを守るように前に立った。


「僕の彼女への想いは、君とは比べ物にならないんですよフォル……!僕が今まで、どれだけ我慢していたか君には分かりますか?!僕の手料理を美味しそうに食べる彼女を見て、睡眠毒を盛ってそのまま攫って監禁してしまいたいだとか!看病してくれる彼女の聖母の如き姿を見て、彼女をこの手で穢してしまいたいだとか……!君はそんな目で彼女を見たことありますか!?こんな僕ほどに彼女を愛してはいないでしょう!」

「あんた、本人の前で……辞めなよ」

「いいんです、もう。……先程、念には念を入れて彼女に毒を盛りました。数分後には、洞窟内での記憶を失うはずです」


ロンドが彼女を見上げる。

彼女は目にいっぱいの涙を溜めて、震えていた。


(毒……先程のマカロンか)

(ロンド、聞こえる?)

(む、何だワルツ)

(俺に考えがあるんだけど……)


「記憶を失った彼女に、こう教えるんです。“洞窟が崩壊してフォルケッタは死んでしまいました。貴女はそのショックで、気を失ってしまったんです”と……ね」


レッフェルが再び剣を構えた。

パキパキと、空気が凍る音がする。


あ、と思い出したようにレッフェルが口を開いた。


「最期に教えてあげます。グラナティスの鉱夫労働者……つまり、今回の依頼人を買収したのは僕です」


にっこり。

いつもの爽やかな微笑みすら、狂気的に見える。


氷属性の魔法を纏った剣は通常の状態よりも長く、

姿形はレイピアを思わせる。

呆然とするフォルケッタの隙を付いて、

レッフェルが彼に襲いかかった。


咄嗟に大剣で受け止めるが、

刃を交えた箇所から氷が侵食していく。

氷は大剣を覆い、

やがてフォルケッタの指先を凍てつかせた。


「っ……!」


咄嗟に手を離すが、

指先に絡み付いた氷が彼の腕を蝕む。


「駄目、やめてレッフェル……お願い」


何時もの優しい貴方は何処?

夢であって欲しいと、願うことしか出来ない。


私のせいだ。

私がこの世界に来なかったら、

2人は仲が良いまま、啀み合うことも無かったのに。




(聖杯、視線はそのまま下に手を伸ばせ)

(えっ?……ええ、これでいいかしら)

(はい、どうぞ。直ぐにこれを飲んで)


渡されたのは、小さな小瓶。

よく分からないが、今は考えてる場合じゃない。

片手でコルク栓を抜いて、一気に飲み干す。


彼女の動きに気付いたレッフェルが、

氷柱を飛ばしてめありの服を岩壁に縫いつけた。


「大人しくしていてくださいね」


しかし、渡された小瓶の中身は全て飲みきった。

中身は解毒剤だろうか。


(これは……解毒剤?)

(否、毒は効くまでまだ猶予がある。先に彼を助けなくちゃいけないからね)

(念じろ。奴を救いたいと)


念じろって、私が念じてどうにかなるの!?

ロンドとワルツが魔法を使ってくれた方が、

絶対に確実だと思うのに……!!


フォルケッタはもう身体の殆どが凍り付いている。

レッフェルはゆっくりと彼に近付くと、

氷の刃を振り翳した。


「もうやめて―――……!!!」

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