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フォルケッタの指示で、
レッフェルとロンド、フォルケッタとワルツの
2チームに分かれて進むことになった。
レッフェルとワルツは、サポートが得意だ。
逆に、フォルケッタとロンドは、
大技で敵を仕留めることを得意としている。
そのため、アタッカーとサポーターを組ませる形で
チームを分ける事にした。
私はどっちに着いて行けばいいのか聞いたら、
貴女の管理は僕がしますからと
レッフェルに腕を引かれ、
そのままそっちのチームにお邪魔することになった。
「ロンド君は凄いですね、まだ若いのに」
「ね!私もびっくりしたわ」
「……この程度、造作もない」
道中の敵をまずまずのコンビネーションで
薙ぎ払いながら、
今のところ問題なく進んでいくレッフェルチーム。
段々と出現する魔族が増えていく。
レッフェルの剣の一振で
辺りの空気に青い電流が撒き散らされると、
魔族側の動きが鈍る。
そこにすかさずロンドの一撃が撃ち込まれれば、
あっという間に敵が一掃されていった。
「フォルケッタ達は大丈夫かしら……」
「大丈夫ですよ。ダークエルフのダークとは、肌の色からも来ていますが……“闇黒の覇者”。暗がりの意味も兼ねています。このような場所は、彼の独擅場です」
***
洞窟の暗闇の中で、舞うように大剣を振るう。
一切無駄のない動きは美しい。
彼の振るう刃の先には必ず敵が当たって、
その刃に仕込まれたワルツの毒で
触れた瞬間から敵の肉体はほろほろと破壊されていく。
「わあ、お兄さんはとっても強いんだね」
「そっちの毒も強力じゃん。完全に斬り終わる前には敵が消滅してるし……」
「あはは、褒められた!嬉しいなあ」
ふわりとした愛くるしい笑みを湛えながら、
スカートを靡かせて魔族を融かしていくワルツ。
よくよく考えたら奇妙な絵面だ。
「あn君って、怒らせたら怖そうとか言われない?」
「え?そんな事ないよ」
「そう……」
「それよりお兄さんって、めありお姉ちゃんのこと好きなの?」
「ブッ……」
動揺したフォルケッタが大剣を離してしまった。
ドゴォン!!
凄まじい破壊音と振動が、洞窟内に響き渡る。
壁に突き刺さった大剣、ガラガラと崩れ落ちる天井。
魔族の群れが瓦礫に埋もれて見えなくなってしまった。
「どうしてそうなったのさ……」
「だってお兄さん、いつもめありお姉ちゃんのこと見てるし、レッフェルさんがめありお姉ちゃんと楽しそうに話してると辛そうな顔してるし、めありお姉ちゃんと話してる時のお兄さんは、隠してるつもりかもしれないけど普段より声が柔らかくて優しいから」
「そんなつもりないし……それに、フェルに相談したら“それは苦手意識。彼女を警戒してるから監視してしまうし、仲間である僕を案じて彼女に対して嫌悪が込み上げている。彼女にその苦手意識がバレないよう無意識に彼女に優しい態度をして隠している”って……」
「ふーん?」
埋もれてしまった大剣を壁から引っこ抜く。
続いていた道が塞がれてしまったので、
先程の衝撃で空いた穴から続いている方の道へ
進むことにした。
「レッフェルさんは随分と慎重なんだね」
「……どういう事?」
「お兄さんって、人を好きになったことはある?」
「よくわかんない……フェルのことは信頼してるけど」
「レッフェルさんはお兄さんに敵意剥き出しみたいだけどね」
突然、彼の足が止まる。
不思議そうに振り返ると、
フォルケッタはこちらを睨んでいる。
「あはは、ごめんねお兄さん」
「あんたの話には脈絡がない。一体何が言いたいの」
フォルケッタの問い掛けに、
襲い来る魔族の群れに猛毒の雨を降らせながら、
くるりとワルツが振り返る。
ぐちゃぐちゃに融けた魔族の肉体に面影はなく、
それは見るに無惨だ。
それなのにこの幼い子供は、
お気に入りの玩具で遊ぶ赤子のように、無邪気に笑う。
何故だろうか、背筋が凍る微笑みだ。
「レッフェルさんはね、めありお姉ちゃんのことが好きなんだ。そして、お兄さんの話を聞いてレッフェルさんは、お兄さんも同じ女性を好きなんだって気が付いた。でもお兄さんは、自分の気持ちに気が付いてない……だから、レッフェルさんは嘘を吐いた。めありお姉ちゃんと、相棒のお兄さんを天秤にかけたんだよ」
「……」
「その結果、レッフェルさんはめありお姉ちゃんを選んだ。自分が手に入れたいがために、君を騙した」
「違う……」
「違くないよ。だって、誰が見てもわかるもん。お兄さんが、めありお姉ちゃんを好きだってこと」
言われて、はっとした。
自分の父はあんなんだけど、
僕の考えていることを、何時も正しく見抜くんだ。
僕がもし、めありを好いているのだとしたら、
昨日の父の行動は理解出来る。
でも、分からない。
人を好きになったことなんてないから。
周りには男ばっかりの種族だし、
ファンクラブの扱いだって分からなくて放置したまま。
レッフェルとチームを組んでからは、
彼とずっと共に居た。
勝手にあんたを信頼していた、でもあんたは……。
「……ねえ」
「なあに?」
「とある人を、可愛いなと思っていて。……その人は、いつも美味しそうにご飯を食べるんだ。その姿が好きだなって思ってた。瞳がね、僕と少し似ていて、朝露に濡れた薔薇みたいに赤いのさ。喋り方も女性らしくて、仕草の一つ一つすらじっと見入ってしまう」
「うん」
「その人の近くにいると、甘くていい香りがして心地良い。もっと近付きたいと思うし、その人がいつか居なくなってしまう事を考えると……苦しくて仕方がない」
自分より一回りも二回りも小さい少年に、
真剣な眼差しを向ける。
少年は微笑みを湛えたまま、彼の話に耳を傾けていた。
「この想いを何て呼ぶか……あんたにはわかる?」
***
ドゴォン!!
遠くの方から聞こえてきた破壊音と地響きに、
めありは跳ね上がってしまった。
「きゃあ!!」
「大丈夫ですから、落ち着いてください……!」
「今の音は向こうのチームの方だな」
「恐らくは、フォルが暴れている音です」
此方はある程度魔族を倒したら、
ぷつんと出現しなくなってしまった。
「あ……そろそろ時間ですね」
レッフェルが収納魔法で別空間から
マカロンを取り出した。
受け取ろうとした手を遮られ、
口を開けるようにと視線で促された。
「子供の教育に悪いな」
「大丈夫ですよ、ロンド君のことは子供だと思っていませんから」
「わ、私も恥ずかしいわ、レッフェル……」
「では2人きりになれる場所に行きますか?」
……彼の過保護は最近、病的な気がする。
ロンドを1人にするわけにもいかず、
仕方がないので大人しく口を開いた。
満足そうな表情で、彼が頭を撫でてくる。
その穏やかな微笑みが、
少し怖いとすら思えるようになってきたのは、
私の思い違い……だったらいいのに。




