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フェアリーテイルオブシーヴ  作者: unique
【Ⅰ】エーデルシュタイン王国
3/58

1-3

平原にいた時に、遠目に確認したあの街に今私は居る。

思ったよりも大きな街で、

レッフェルの話によるとここは

世界一大きな王国らしい。

王国の名を、エーデルシュタインと言う。


この世界に生きる人々は、

“魔族”と呼ばれるモンスターの危険と隣り合わせだ。

先程邂逅したのも魔族なんだって。


魔族は大きく分けて10種類存在していて、

さらに種族毎に上級、中級、下級に別れているそう。


エーデルシュタインの近辺には

下級の魔族しか出現しないようで、

門番さんに守られているのも相まって

数ある国の中でも特に安全みたい。


「ありがとうございます、助けていただいた上に、色々教えて下さって‥‥」

「いえいえ。この世界の住人ならば知っていて当然のことですし、この世界に存在している以上知っておかねばなりませんからね。あと、提案なんですが。敬語やめませんか?距離があって少し寂しいので‥‥」


子犬がしょぼくれたような彼の表情に、

笑みを零しそうになったが堪える。


「えと‥‥わかったわ。ちょっと申し訳ないけれど」

「あ、僕は誰に対してもこの喋り方なので‥‥お気になさらず。それで、あの‥‥ご自身のことは思い出しましたか?」


頷いて、私が平原に飛ばされる前の事を話した。

出来るだけ状況を細かく、

仕事から帰ってきた自室でワインを嗜んでいたこと、

日付が変わって自身の誕生日だったことなども伝えた。


しかし、名前は思い出せなかった。


酒場は賑の騒音で私の言葉をかき消してくれる。

すぐ隣のレッフェルにしか聞こえないのが好都合だ。


「‥‥私、まだ眼が赤いかしら」

「虹彩の事ですよね?薔薇みたいなボルドーですよ」

「そ、う‥‥?」


レッフェルが、じっと私の瞳を覗き込む。

するりと彼の冷たい指が私の頬を撫でて、

そのまま添えるようにピタリと留まった。


「不思議ですね‥‥。貴女自身からはこれっぽっちの魔力も感じられないのに、貴女のその瞳の美しさは万物を虜にするような不思議な魅力がある‥‥」

「あ、の、近い‥‥のだけれど」

「っと‥‥失礼しました!」


レッフェルは我に返ったようにぱっと手を離し、

少し赤面するも会話を続ける。


「貴女が元いた世界には、僕のような種族も、魔族も存在しない‥‥しかし、科学は発展していると。此方の世界にも科学に特化した国はありますが、世界全体で見るとまだまだ貴女の世界の技術には到底及びません。別世界から飛ばされてきたと考えるのが筋でしょう‥‥」

「そんな事、本当にあるのかしら‥‥」

「割と此方の世界ではよくありますよ。テレポートに失敗して別次元に飛ばされたり‥‥貴女の元いた世界に魔法が無いのにどうやって飛ばされたのかは疑問ですが‥‥否、此方の世界から召喚した‥‥?」

「フェル、この女誰?」


中性的なハスキーボイスが二人の会話に割り込んだ。

レッフェルの事を“フェル”と呼ぶその人物は、

煌めく銀髪の美しい褐色肌の青年だ。

レッフェルに似て耳が長く、下向きに尖っている。

私の瞳は紫味を帯びた赤色だが、

彼の瞳は混じり気のない真紅の瞳だ。


彼はバンと酒場の机を叩き、私を睨みつけた。

幸い周りの客は気づいてないようだ。


「フェルが猫だの何だの拾う度にケツを拭くのは誰だと思ってんの?でもって今度は女拾って何考えてんの?」

「落ち着いてフォル‥‥彼女は別世界から飛ばされてきて今は混乱している状態なんだ、優しくしてくれ」

「んなの知ったこっちゃないよ。あんた、フェルの優しさに漬け込んでるんじゃないの?名前は?」

「ごめんなさい、名前はまだ思い出せてなくて‥‥」

「はぁっ?!重症じゃん、どうすんのさ!!」


盛大な溜息を吐いて、彼はどこかへ行ってしまった。

レッフェルは申し訳なさそうに詫びて、

彼のことを少し教えてくれた。


彼の名はフォルケッタ。種族はダークエルフ。

レッフェルは彼と2人組で冒険者として活動している。


今日は仕事帰りで、先にフォルケッタが報告を済ませに

エーデルシュタインに帰り、

レッフェルは仕事先の観光(という名目の情報収集)

の後にエーデルシュタインに帰国、

その途中で私と下級魔族に遭遇したそうだった。


フォルケッタは“仕事”を優先し、

レッフェルは仕事以上に困っている人々を優先する為、

時折衝突してしまうことがあると。


「でも、何だかんだ彼は助けてくれるんですよ」


微笑みながら、レッフェルがグラスを口に傾ける。

その優しげな眼差しには、

相方である彼を信頼しているとの意思が垣間見えた。


またバンと机が叩かれた。

同時に、私の目の前に大きな皿が現れ、

皿の上には色とりどりの野菜、焼きたての骨付き肉、

食欲をそそる見たことも無い食べ物が並んでいた。


「あんた窶れすぎ。これでも食べて肥えなよ」


フォルケッタだった。

彼は不機嫌そうに私の隣に腰掛けた。

自分は飲み物だけ飲んでいる。

反対側で、レッフェルがくすくすと笑っている。


「い、良いんですかこんなに‥‥!」

「敬語気持ち悪いからやめてよ。僕が食べろって言ってんだから食べなよね、そしたら話聞いてあげないこともないから」

「あ、ありがとううう‥‥!」


まずはお肉。

パリパリに焼かれた皮の内側から、

ジューシーな肉汁も、柔らかいお肉も堪らない。

香辛料が効いていてとっても美味しい!


次はお野菜。

新鮮で仄かに甘みがあって、瑞々しい!

歯ごたえがシャキシャキで食感が楽しい‥‥。

油っこくなったお口の中をリセットしてくれる!


これは見たことの無い生き物の塩焼き。

匂いはお魚っぽい感じ。

食感はホロホロしていて、

味は鯛みたいに旨みが強くて美味しい!


「ブフッ‥‥」

「美味しそうに食べますね」


ハッとした。

レッフェルはニコニコ嬉しそうに私を見ていて、

フォルケッタは肩を震わせて俯いている。

多分笑っている。


我に返った私の顔は茹でダコみたいに真っ赤だ。

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