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次の日、天候は快晴。
間欠泉が勢いよく飛び出してくるのを避けながら、
めあり一行は依頼の洞窟へ向かっていた。
「しかし、こんな幼い子が上級属性使いだなんて驚きました。どんな施設から来たのか是非とも聞きたいものです」
この世界の住民が使える魔法の属性は、基本五つ。
火、水、風、土、草。
努力次第では自分の属性以外も使えるようになるが、
自分の属性は特別で、
極めると上級属性を使用出来るようになる。
火は竜属性、水は氷属性、風は雷属性、
土は金属性、草は毒属性が上級属性だ。
話によればロンドは金属性使い(設定)、
ワルツは毒属性使い(設定)らしい。
上級属性が使えるくらいの実力者なのに、
何故魔族に襲われたまま抵抗せずにいたのかと
突っ込まれた時は冷や汗が流れたが、
単に数が多すぎて魔力切れだと言っていた。
上級属性は強力な分、
消費する魔力も多いそうで、納得された。
「施設にいた事は覚えているが、詳細は曖昧だ。恐らく、施設内の情報漏洩対策として我々の記憶が改竄された可能性があると推測している」
「君本当に子供?喋り方めちゃくちゃ老けてるけど」
「ロンドはいつもこうなんだ、俺もたまに何言ってるかよく分からない事があるよ」
「……以前、キメラを研究している施設があると風の噂で聞きました。キメラとは、人間素体に魔族の遺伝子を無理矢理組み込んだものです。彼らは一見普通の人間の姿をしていますが、上級魔族に匹敵する能力を扱うそうです……君達は、
彼らと似たような境遇かもしれませんね」
「それは興味深い話だな」
シリアスな会話に口を挟めずにいたが、
目的の洞窟と思われる穴が見えて来たので
テンションが上がってきた。
初の任務。しかも、上手く行けば宝石が見つかるかも。
親指の爪くらいのサイズでいいから、
持って帰れたら……なんて、図々しいかしら。
実践で使える魔法は少ないけれど、
きっと役に立ってみせるわ!
「さて、ここが依頼の洞窟だよ。最初は固まって行動するけど、実際の戦闘で敵と味方の能力を把握したら、レベル次第では別行動もあるから頭に入れといて」
「はい!」
「めありさん、元気がいいですね」
「ふふ、ちょっと緊張してるけれどね」
「そう言えば子供組、使い魔はいる?」
使い魔!いいなあ。
サモンは上級属性を扱える者だけが使える魔法。
下級魔族を一匹だけ従えることができ、
支配された魔族は人語を理解し、主に尽くす。
そんな彼らは世間では“使い魔”と呼ばれる。
サモンに人気なのは、断トツで愛玩種魔族。
前の世界でもポピュラーな子猫にそっくりの
愛くるしい見た目をしているからだ。
サモンを覚えたら、絶対に愛玩種魔族を従えたい。
「サモン・ツェペシュ……これで良いか?」
「勿論いるよ。サモン・エウリュアレ」
ロンドが召喚したのは、
水晶のように透き通る身体の吸血種魔族。
蝙蝠とクリオネを足して2で割ったような見た目だ。
ワルツが召喚したのは、
純白の鱗に赤い瞳がよく映える有鱗種魔族。
こちらは蛇と竜を足して2で割ったような見た目だ。
「中で別行動をとったり、万が一はぐれた時のために各自の使い魔を外に置いときな」
「あれ?でもそうしたら、フォルケッタの使い魔はどうするの?」
「ダークエルフは筋力だけでなく、五感も優れていますから、この程度の洞窟内なら何処に居ても全員の位置を把握できますよ。サモン・エニフ」
「す、すごいわね……」
レッフェルが召還したのは、
馬に翼が生えたペガサスの姿に似た有翼種魔族だ。
さすが期待を裏切らない、白馬の王子様。
使い魔は己の主とテレパシーができ、
さらに使い魔同士での意思疎通が可能だ。
洞窟の中ではぐれた時は、使い魔が役に立つ。
「みんな、お留守番よろしくね」
3匹を順番に撫でて、私達は出発した。
***
洞窟の中は、意外にも静まり返っていた。
魔族がいると聞いていたから、
何かしら音がすると思ったのに、無音だった。
たまに水滴が落ちる音がするが、それだけだ。
後は自分達の足音と、呼吸音。
「思っていたより静かなのね」
「今のところ気配はありませんね……」
私は魔法の光球で辺りを照らす係だ。
早速役に立てて嬉しい。
最初は何もしなくていいと言われたが、
魔族に襲われた時の戦闘のために
皆のエーテルは温存して欲しいと言ったら承諾された。
めありを囲むように、前にはフォルケッタとワルツ。
後ろにはレッフェルとロンドが並んだ状態だ。
「油断はするなよ」
「勿論よ!」
「この辺には居ない。ただ、奥にかなりの数が居る」
「流石はフォルですね」
「本当に見えるんだ。お兄さんすごいね」
「まって、はぐれが近付いてくる」
洞窟は今の所一本道だ。
身を隠すような場所はない。
「そうですね……まずは僕達が行きましょうか」
「コンビネーションなら負けらんないからね」
レッフェル、フォルケッタが前に出ると、
洞窟の奥から魔族が飛び出してきた。
強烈な腐臭だ。
フォルケッタには相当きついだろう。
私はすかさず簡単なバリアベールを全員に貼った。
「っ……ありがとね」
「ううん、私にはこれくらいしか出来ないから」
瞬く間に魔族が消える。
姿だけでなく、気配も完全に消えていた。
フォルケッタは瞳を閉じて集中する。
「フェル、南南東」
「はい」
言われた通り、レッフェルが南南東に振り向くと、
雷鳴を纏った剣を振り下ろした。
断末魔と共に、魔族の姿が顕になる。
もろに斬撃を食らった魔族が壁に叩きつけられた。
畳み掛けるようにフォルケッタが己の大剣で
凄まじい一撃を叩き込むと、
魔族はどす黒い煙を撒いて消滅した。
「死霊種魔族か……相性が悪いな」
「姿が見えない時は物理技が効きませんからね……」
「2人とも息ぴったりね、かっこよかったわ!」
「別にこれくらい大したことないし……」
「ありがとうございます」
「あはは、次が近づいてきてるみたいだよ」
「次は私達の番だな」
すごい。
あれだけの戦いっぷりを見せ付けられても、
ロンドもワルツも余裕そうだわ。
次は、同時に2体出現。
今度は向こうから襲いかかってきた。
「白金の監獄」
ロンドは微動だにせず、ただ魔法の名前を呟いた。
その言葉を言い終えるのと同時に、
洞窟の上下左右から銀白色の鋭利な鉱物が
無数に突き出て、魔族の身体を穿った。
貫かれた2体の魔族は、
煙を渦巻いて消えてしまった。
あら?ロンドの魔法しか見れなかったわ。
なんて思っていたら、
レッフェルがぱちぱちと拍手をした。
「見事なコンビネーションです」
「えっ?ロンドしか攻撃してないような……」
「否。ワルツは、ロンドより先に洞窟の壁に毒を散布してた。その毒が付着した部分をロンドが魔法で盛り上げたんだ」
……全然気付かなかった。
ぱちんとロンドが指を鳴らすと、
張り出した鉱物の針はパラパラと崩れて砂になった。
「さて……チーム分けはどうする?」




