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フェアリーテイルオブシーヴ  作者: unique
【Ⅳ】グラナティス王国
25/58

4-1

視界が開けると、私はイズムルートの宿屋に居た。

窓の外はまだ明るい。

急いで宿を飛び出して、クロイツの城へと向かう。


城の前まで来ると、

ローブを着たエルフ達が何かを懸命に探していた。

その内の一人の女性エルフと目が合うと、

吃驚したような顔をして、彼女が大声を上げた。


「居ましたーーー!!!!」


周りのエルフや観光客が一斉にこちらを見る。

ざわつく人混みの中から、

見慣れた2人の青年が飛び出してきた。


「無事でしたか……っ!」


レッフェルがめありを抱き締める。

それをフォルケッタが引き剥がし、めありの頬を摘む。


「心配かけるんじゃないよ、ノロマ」

「ご、ごえんなひゃい……」

「お身体は何ともありませんか?」

「ええ、大丈夫よ」

「一体、何があったんですか……?」


レッフェルの話によると、

急にクロイツ様が慌てて戻ってきて、

私が魔族に攫われたと伝えてきたらしい。


そこで、エルフ魔法部隊をフルで動かして

イズムルート内をくまなく捜索、

他国に連絡をとって捜索依頼まで出してくれていたようだ。

レッフェルとフォルケッタも一緒になって

探してくれていたらしい。


クロイツ様は魔法で世界を透視しながら、

ずっと悔やんでいたそうだ。


何があったか本当の事を話すとまずいので、

適当に作り話を伝えた。


「視界一面、花弁でいっぱいになったの。それで気を失って……気付いたら、宿屋に居たわ」

「何か変わった事は?」

「いえ、何も……あ、自分の名前を思い出したわ」

「……して、そのお名前は……?」

「私は“めあり”。でも、それ以外は何も……」

「めありさん……可愛らしいお名前ですね。めありさんに傷が無くて、本当に良かった」


再びレッフェルが抱きしめてくる。


「もう二度と……目を離しません。絶対に離さない……」

「今、何か言ったかしら?ごめんなさい、上手く聞き取れなくて」

「いえ、独り言です」

「めありが見つかったことだし、一旦女王様に報告に行くよ」

「そう、ですね」


2人に連れられて、城を登って行く。


落ち着け、私。

ちゃんと白百合の刻印を断るのよ。


けれど、私を攫われて後悔していたって言ってた。

彼女はきっと刻印を入れる気満々だわ。

それらしい理由も考えなくちゃ。

魔法も(無属性だけど)使えるようになったし、

私を信じてくださいって胸を張って言おう。




「駄目です」


にっこり。

満面の笑みでお断りされた。


「白百合を入れることで貴女にデメリットはありません。何故わたくしを拒むのですか?」

「拒んでる訳じゃないわ……」

「もう二度と貴女を目の前で失いたく無いんです。お願いです、わたくしの白百合を受け取って下さい」


ヒステリック気味ににじり寄られ、思わず後ずさる。

どうしようどうしよう、断りきれなかった……。

マスカレドとミッチェルはまだ?!


クロイツがめありの両肩を掴んだその瞬間、

城の外が急激に騒がしくなった。


「失礼致します、女王様!この辺りでは発生しないはずの二種類の魔族がイズムルートに侵入した模様です!!」

「恐らく、蝙蝠型と毒蛇型から見るに、吸血種と有鱗種かと思われます」


事情を知らないレッフェルとフォルケッタが

部屋に押し入って来た。


「くっ……こんな時に!仕方ありません、彼女を連れて国外へ避難してください!」


アルカデア最大の国、エーデルシュタインに対し、

イズムルートはアルカデアの中で二番目に小さい国。

兵力も、殆ど無い。


何故なら、イズムルートは“自然思考”を重んじる国。

自然を愛する反面、

機械や兵隊などはエルフに嫌われがちなのだ。

その代わりに、国に張られた対魔バリアは

どこの国よりも頑丈で、今まで破られたことがなかった。


それが今、破られてしまった以上は、

全ての人間を守れる保証はない。

ましてや国民でもない彼女には、逃げてもらう他ないのだ。


「ぼーっとしてんじゃないよ、ほらこっち!」


フォルケッタにぐいと手を捕まれると、

そのまま引き寄せられ、抱き上げられた。


「僕はイズムルートの名誉冒険者である以上、落ち着くまでは此方に残ります。悔しいですが、フォルと共にグラナティスへ向かって下さい。直ぐに後を追いますから……必ず」


レッフェルがめありの両手を握る。

めありが頷いたのを確認すると微笑んで、

片手を取ってその手の甲にキスを落とした。


そして、レッフェルは踵を返して行ってしまった。


「このまま僕達はイズムルートを出るよ」


フォルケッタは、めありを抱えたまま城を飛び出した。

巨木の幹を上手く伝って、地上に降りる。


先程の、ローブを着たエルフ達が

魔族と交戦している中を横目に見ながら、

私は心の中でごめんなさいと呟いた。

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