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フェアリーテイルオブシーヴ  作者: unique
【Ⅲ】魔界ヴァリオン/ガトレ宮殿
23/58

3-7

「連れて行くオリジナルの方はどうしましょう」


マスカレドに尋ねると、

彼は腕を組んで考えるような素振りを見せた。


「クリフォト以外になるが、全員行きたがるだろう」

「僕 行きたい」

「カンタレラは駄目だ」

「なんで……」

「貴様は行動が不審すぎる……蛇の抜殻やら毒草やら集めてきては、鍋に入れてぶつくさ言っているだろう。一人で行動するならまだしも、主人公と行動するとなれば怪しまれるに決まっている」

「我慢 する」

「無理だな」


何だか、童話に出てくる魔女みたい。

男の子の場合、魔女ってなんて言うのかしら。

魔法使い?否、そんな綺麗なものじゃない気がする。


「人数が多いと不自然だ。多くても二人までだな」

「オススメの方はいますか?」

「私だ」


あまりにも冷静に即答するものだから、

思わず吹き出しそうになってしまった。


「後は……そうだな。ミッチェル辺りが妥当だろう」

「ミッチェル……?」

「メドゥーサ の、オリジナルの 奴」

「物腰柔らかで飲み込みも早く、好かれやすい質だ」


メドゥーサって確か、髪が蛇の魔族よね。

オリジナル達の中に居た、

髪の中に蛇を飼う赤い瞳の男性を思い浮かべる。


無表情でいつも何を考えているかわからない

カンタレラだが、

今は少し不貞腐れているのがわかる。

推薦されなかったのがショックだったらしい。


猫耳のようなくせっ毛をへたり込ませて、

猫背が更に丸く小さくなっている。

尻尾は力無く床に投げ出されていた。


「ごめんなさいね、カンタレラ。何かお土産を持ってくるから」

「蝙蝠の翼……黒猫の髭……銀狼の牙……毒蛇の蛻……猛禽の嘴……海魚の鱗……水牛の角……山羊の瞳……野兎の尾……土竜の爪……」

「呪文か何かかしら……」


「呼ばれた気がしたから来てみたけど、何か用かい?」


柔和で心地よい声色の主に振り返ると、

先程思い浮かべていた男が、

そっくりそのままの姿でそこに立っていた。


ふわふわとウェーブがかった砂色の癖毛に、

はっとするほど真っ赤な瞳。

顔立ちは女性のような華やかさで、

背丈はマスカレドに次いでやや高め。

肌は陶器のように白く滑らかだ。


穏やかな微笑みを湛えて、此方に向かってきた。


「面と向かった挨拶はこれが初めてだね。僕はミッチェル。クリフォトがお世話になったみたいで……よろしくね、“聖杯”さん」


なんだかすごくいいにおいがする。


差し出された手を握って握手を交わした。

にしてもこの人(?)

肌すべすべでキメ細かい……謎の敗北感……。


「ちょうどいい所に来た。こういう事情で推薦したのが貴様だったという訳だ」

「別に俺は構わないけれど、カンタレラは行かなくて良いのかい?」

「……いい」


あら?

カンタレラがやけに大人しくなったわ。

どうしたのかしら。


「……ああ、ひとつ忠告しておこう。“彼だけは”怒らせるなよ」

「……?」

「ミッチェル は、怒ると 一番怖い」

「やだなあ、そんなことないよ」


オリジナルの中で一番優しそうな彼が?

聞き間違い……ではないみたい。

途端に、ミッチェルの陽だまりのような笑顔が

顔に貼り付けられた仮面に見えてきた。


***


ミッチェルとの顔合わせを済ませると、

案内されたのは、最初に私が居たベッドのある部屋。

ベッド以外何も無かったが、

カンタレラの魔法で必要な家具を揃えてくれた。


万が一、アルカデアにいられなくなった時、

此処が私の帰る場所になる。


アルカデアに戻ったら、

私はいつも通りでいいと言われた。

ただ、マスカレドとミッチェルは

魔族だとバレないように行動できるよう、

今から作戦を立てるそうだ。


支度などは目を覚ましてからでいいから、

今は寝ろとマスカレドに言われたので、

取り敢えずベッドに横になる。

ああ……柔らかい。何処までも沈んでしまいそうだ。


(……めあり)


目を閉じて、

私の名前を呼んだあの声を、思い出してみる。


懐かしい声。慈しむような声。

壊れ物をそっと包むように優しい声。


あんな広い部屋に、いつも一人で居るのかしら。

彩もない、音もない、温度もない寂しい空間で、

貴方は一体何をしているの―――……?




そう言えば、黒薔薇の刻印?を貰ったんだった。

白百合の刻印と似たようなものだろうか。

鏡の前に移動して、べーと舌を出してみると、

舌にはくっきりとした紋様が刻まれていた。


姿はよく見えなかったけれど、

あの時はっきりと、唇が重ねられた感触があった。


そっと、自分の唇を指でなぞる。


「欲求不満、ですか?」


鏡の中の自分が、自分とは別の意思で喋った。

吃驚して声にならない悲鳴を上げると、

鏡の中の自分がくつくつと喉を鳴らして笑った。


「だ、誰」

「おっと、驚かせてしまいすみません……私はナイトメアと申します」


ズズズ……。

鏡面から這いずり出してきたのは、白髪に糸目の男。

黒いシャツに純白のスーツを羽織った彼は、

オリジナルの一人だった。


「直ぐに発たれるとの話を小耳に挟んで、せめて少しお話してみたいと思い、来てしまいました」

「そう……あの、貴方は何のオリジナルでしょうか」

「う~ん、そうですねぇ……当ててみてください」


彼の手が私の顎に添えられる。

空いた片手が腰に回され、背筋が凍った。

彼は一体何なんだ、変態か。


顔が近い。互いの息が前髪を揺らす。

オリジナルの方々はどうしてこうも皆さん

端正なお顔立ちでいらっしゃるのでしょうか。


彼の瞳が瞼からうっすら覗いている。

赤紫色と、青紫色の、左右で違う色の瞳だ。


「……分かりましたか?」

「……セクハラモンスター」

「ククッ。あながち間違いではありませんね」


おかしい。

彼の視線から目をそらすことが出来ない。

今すぐ逃げ出したいのに、彼の瞳の魔力に囚われて

指一本動かせない。


次第に心拍音が加速していく。


胡散臭く弧を描いていた糸目は、

いつの間にかその左右非対称の色合いの瞳を

はっきりと見せていた。


顔が熱い。

頭がぼうっとして、何も考えられない。


嫌だ、止めてと言いたいのに、声が出ない。

寧ろ触って欲しいとすら思えてしまう。

理性と本能が格闘し、何も喋れず無言でいると、

彼は私の体を抱き上げて、ベッドに横たわらせた。


意識が朦朧とする中で、彼が私に覆い被さる。

ナイトメアは妖艶に笑って、耳元で囁いた。


「私は……インキュバスのオリジナルです」


わざとらしく音を立てて、耳を舐められる。

掻き混ぜるような水音と共に、

理性と本能がぐちゃぐちゃになっていく。


「ゃ、うっ……」

「次は何処にしましょうかねぇ……」


ナイトメアの指がめありの輪郭を伝い、

首筋を下りて胸元のシャツのボタンに触れた。

ボタンが外れ、豊かな双丘が顔を見せる。

顔を胸元に寄せ、丁寧にキスを落としていく。


熱い。嫌だ。熱い。気持ちいい。

彼の唇が触れたところからじわじわ熱が拡がって、

触れられただけで、体の深い所に快感が走る。


スカートをたくし上げられ、タイツを下ろされると、

内腿をなぞる様にして足の付け根に手が伸びてくる。

最後の理性を振り絞って脚を閉じ、彼を睨んだ。


「おやおや、随分意志が強いんですねぇ」

「は、ぁっ……はぁっ……」

「……あぁ。邪魔が入ってしまいました。非常に残念ですが、後は“彼等”に任せましょうかね?他人の行為を見るのもまた一興……では、また会いましょう」


めありの耳に食むような口付けを残して、

ナイトメアは姿を消した。

それとほぼ同時に、部屋の扉が開かれる。


慌てて布団を被ると、顔だけ出して様子を伺った。

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