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フェアリーテイルオブシーヴ  作者: unique
【Ⅲ】魔界ヴァリオン/ガトレ宮殿
20/58

3-4

「これより会議を始める。各自魔力はしまえ」


ヴァリオンに戻ってきて早々、

オリジナルたちの会議が開かれた。


魔力をしまった彼らの姿は、至って普通の人間だ。

クリフォトも、最初に会った時と同じ姿だった。


私はと言うと、円卓になった会場で

マスカレドとカンタレラの間に座らされている。

‥‥デジャヴを感じる。


10名のオリジナルに1人の人間を混じえた会議。

無論、皆の視線は私にグサグサと刺さる。


「へーへーまた会議ですかーっと、ヴァンパイアサンは暇なんですねぇー」

「口を慎め、仔犬風情のウェアウルフ」

「痛っっってぇぇぇ!!!ぁにすんだよ蚊ァ!!!」


反抗する男に、

マスカレドが間髪入れずに何かをしかけた。


何をしたのかよく見えなかったが、

次の瞬間、反抗した男の首が飛んだ。

殆ど真逆の位置に座って、あの距離で何をしたんだ。


身体だけになった男が自らの頭を追いかける。


「ほーら、とってこーい☆」

「テンメェ焼き鳥にされてェのかハルピュイア!!」

「言っとくけどぉ、お前を食べるのはこのボクだからね?ワーンチャン♡」

「犬よ、相手にするでない。此奴の悪食は計り知れぬ」

「犬じゃねーよ狼だよ!!!」


魔族って、案外ギャグ要員なのかしら。


頭を拾って首に載せると、

不満を垂れ流しながらも男は席に着いた。

粘着質な音がしたかと思えば、瞬く間に首が繋がる。

ちょっとキモい。


少し経って落ち着いた頃、マスカレドが話を始めた。

最初の方をまとめると、こんな感じだ。


まず、人界‥‥アルカデアに隣接する別世界、

魔界ヴァリオンと、もう一つの世界、天界“ヘイヴン”。

魔族の親である魔王が居るように、

天族と呼ばれる種族と、その親である天王が存在する。


天王は産まれた時から現在まで、眠り続けている。

彼の見ている夢が、アルカデアそのものだと。


そして、彼の見ている夢を変えることはできなかった。

世界そのものを壊そうとしても、

夢はすぐに元の形へと、何事も無かったかのように戻る。


「何故、オリジナル以下の魔族が人間を襲うのか。我々の命令とは別に、人間に抱く敵意が不可解だったが‥‥彼女、“聖杯”の言葉をヒントに、私は仮説を立てた」

「面白いですねぇ、聞かせてください」

「王道ファンタジーだ」

「「「‥‥は?」」」


天王が見ている夢が王道ファンタジーだとする。

王道ファンタジーでは、

主人公であるヒトが冒険者となり、

魔族に襲われた街を救い、

最後に魔王を倒して勇者となるのが鉄板だ。


アルカデア‥‥彼の夢の世界で生まれた魔族は、

何故か人を襲う。

それは、そういう風に設定されているからだ。


故に人々のヘイトは魔族と、

その産みの親にあたる魔王に来る訳だ。


「“聖杯”、他にも王道ファンタジーの情報はないだろうか」

「あ、えっと‥‥ライバルがいたりします。互いに切磋琢磨し合う仲間とか」

「アルカデアに生きる人間は、皆冒険者になる日を夢見ている。何故だろうか?他にも職業は多彩にあるというのに‥‥それが、夢の設定だとしたらどうだろう」

「成程、王道ファンタジーだね」

「そして、恐らく‥‥主人公は彼女だ」

「‥‥私!?!?」

「アルカデアは同じ毎日を繰り返してきた、が。彼女をアルカデアに召喚してから、時間が流れ始めただろう」

「そうだったの?!?」


確かに、魔族に襲われた所を

颯爽と金髪青眼のイケメンエルフに助けられ、

更に銀髪赤眼のツンデレダークエルフに世話を焼かれ、

一国の王様にキスをされたり(鎖骨だけども)

魔法を習得することになったりって、

これ完全に王道(乙女ゲーム)ファンタジーよね。


昔はよくゲームして夜更かししてたけど、

社会人になってから忙しくてすっかりご無沙汰だった。


「つまり、だ。“聖杯”をアルカデアで泳がせたい」

「‥‥それ、どーいう 意味」

「そのままの意味だ。クリフォトは顔を知られているが、それ以外のオリジナルで魔力を消せば、ヒトを謳うことが出来る。彼女を監視しながら、天王が見る夢の結末を追う」


「それってよぉ、もしテメェの仮説が正解だったら、魔王が倒されちまうんじゃねえのかよ」

「そのための監視だ」


「それに、あの方が彼女を連れてくるよう命じられたのに、それをわざわざ帰してしまうのかい?」

「会議後にあの方へ直接相談しに行くつもりだ。拒否されれば大人しく引き下がる」


「‥‥」

「沈黙は賛同と見なす、が」


この場の全員が知っている。

彼の‥‥マスカレドの推測は恐ろしいほど当たるのだ。


***


結局、最後は誰もマスカレドに反論せず、

会議は幕を閉じた。


会議室を出て、宮殿内の果てしない廊下を、

マスカレドとカンタレラに続いて歩いて行く。


ずっと、疑問に思っていたことがある。


「‥‥どうして、私は“聖杯”なんでしょうか」


歩みを停めずに、カンタレラが答える。


「今に、わかる」


辿りついた先は、大きな大きな扉。

隙間から、どす黒いどろどろとした気体が漏れている。


ここに来た最初、

オリジナル達の魔力に当てられた時よりも、

もっと酷い悪寒に襲われ、身体が震える。


無意識に後ずさってしまい、

背後に立っていたマスカレドにぶつかってしまった。


「あ‥‥ごめ、なさい」

「‥‥辛いか」

「息‥‥苦し‥‥怖い、です」


懸命に絞り出した声は小さく、

相手にちゃんと伝わったか分からない。

ぶるぶると身体が震える。


マスカレドの手袋を填めた長い指が、

私の髪を撫でた。

髪をひと房掬うと、そっと唇を落とした。


「大丈夫だ‥‥いいか、私の目を見ろ」

「あ‥‥」


真冬の空に浮かぶ、凍てつく月。

青白い、水晶のように透き通る瞳は、

銀の針に縁取られた宝石。


あまりの美しさに、恐怖心が解けていく。

乱れていた呼吸が、ゆっくりと落ち着いていく。


「いっておいで、あの方がお待ちだ」

「僕らはここで 待ってる、から」


鈍い音を立てて、扉が開いた。

私は2人に背を向けて、扉の中へ入った。

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