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フェアリーテイルオブシーヴ  作者: unique
【Ⅰ】エーデルシュタイン王国
2/58

1-2

「―――危ない!」


若い男の声がすると同時に、

私の視界からあの赤い花の植物の姿が消えた。

耳元で風を切る音がして、

ふわり、宙を舞うような感覚に包まれる。


私は、青年に抱き抱えられ、

宙を飛んでいた。


「へ、あの‥‥?!」

「まずはあの“植物種魔族”を倒さねばなりません」

「ま、魔族?」


青年は先程の植物から離れた場所へ、

丁寧に私を下ろしてくれた。

そして私の頭を撫でて、柔らかく微笑んだ。


「危険ですから、貴女は此処で待っていて下さいね」


澄んだ紺碧の瞳に、色素の薄い透明感のある金髪。

光を塗した様な陶器肌の青年は、

まるで絵本の中の世界の王子様をくり抜いたかのよう。


私が返事をする前に、

青年は目の前から瞬く間に姿を消した。


先程の植物はやはり自分の意思で動けるようで、

文字に起こせないような謎の悲鳴を上げながら

蔦をしならせ青年に襲い掛かる。

幾つもの蔦が蠢いて青年を絡め取ろうとするが、

青年は息をするように軽やかに蔦を避け、

剣で一本一本確実に切り落としていく。


全ての蔦を切り落とし、植物が怯んだところを一撃、

彼の剣が雷鳴の如く貫いた。

剣を鞘にしまう動作まで優雅で、見とれてしまう。


植物は倒れ、動かなくなってしまった。


「す、すごい‥‥」

「ありがとうございます」

「ひゃっ?!」


先程までかなり離れた場所で戦っていた青年が、

気付いたらすぐ隣にいた。

驚いて尻餅を着いてしまいそうになったが、

咄嗟に青年が支えてくれたので免れた。


「驚かせてしまいすみません」

「い、いえ‥‥」

「申し遅れました。僕はレッフェルと申します。見ての通り、エルフ族の者です」


エルフ。

おとぎ話やゲームの世界で聞いたことがある。

人より長命で、耳が長い種族‥‥だったかしら。


確かに、よく見ると彼の耳はとても長く、

上向きにピンと伸びている。


でも、一体何故‥‥?

急に動く植物に襲われ、エルフの青年に助けられ。

まるで現実でないような出来事に困惑していた。


しかし、目の前で起きたことは事実。

先ずはお礼を述べなくてはならない。


「助けて下さりありがとうございます。私は……、私……?」


名乗ろうとしたが、自分の名前が思い出せず絶望した。

20歳でそんな物忘れ有り得ないでしょうが!

必死に思考回路を巡らせるも、一向に分からない。


頭がぐるぐるして、

気持ちの悪い緊張感に冷や汗をかく。

硬直してしまった私を、

彼は慈雨のように優しい声色で宥めてくれた。


「魔族に襲われてショック状態なのでしょう。どうか気になさらないで。近くの酒場で休みましょう」


その言葉に安堵したのか、

私のお腹がぐうと音を立てた。

彼は屈託無い笑顔で笑ってくれたものの、

私はと言うと恥ずかしさに顔が上げられなかった。

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